デイドリーム



17 本心


<Side沙羅>

来てほしくなかった週末が来た。
啓太と待ち合わせをして、両親たちと食事の予約をしてある店に向かう。

啓太と一緒に行きたいわけではないが、別々に行くと親にうるさく言われそうなので一緒に行く。

店に入って名前を告げると、個室に案内された。
そこには私の両親と、今はあまり顔を合わせたくない啓太の両親がいた。

料理はコースで予約しているらしく、それぞれ飲み物を頼んだ。
飲み物が揃うと、啓太パパが声をかける。

「二人の大学生活と、我々の明るい家族づきあいに、乾杯」

ひととおり乾杯が終わって、それぞれ飲み物を口にする。
料理もそれに合わせて運ばれ、みんな一斉に食べ始めた。

「大学生活はどんな感じ?楽しい?」

料理を何品か食べ終わったころ、啓太ママが啓太と私に聞いてきた。

「高校とは違って、自分でいろいろやらないといけねーから、大変だな。楽しいけど。」

「あんたはちょっとは自分でやることを覚えないと、将来沙羅ちゃんが大変だからちょうどいいわよ。」

啓太ママは啓太にそう言った後、

「沙羅ちゃんは家事とか慣れてそうだから、心配なさそうね。」

そう言ってから、ビールをくいっと飲み干した。

「沙羅ちゃんは理系だから、結構大変なのかい?」

啓太パパが私に聞いてきた。

「1年から結構みっちり授業も実習もあるので、毎日忙しくて疲れます。レポートも多いし…」

「俺の学部は1年はまだマシだから、わりとバイトと部活に時間つかえるから、学生生活を楽しめてる感じだなー。」

啓太はのんきにソフトドリンクを飲みながら答える。
ビールのグラスを置きながら、うちのお父さんが

「お互いの家の行き来はどのくらいしてるんだい?」

と聞いてきた。
わたしの心臓がキュッと痛くなる。

「高校の時みたいに同じマンションじゃないし、学部が違うと生活リズムも全然違うんで…」

啓太ははっきりと答えず、高校のころとは違うことをアピールした。
うまく啓太がかわしてくれたので、ほっと胸をなでおろす。

緊張する質問に息を止めていたようで、わたしはみんなに気づかれないように、大きく息を吐き出した。

「沙羅、啓太くんもてるんだし、放っておいたらダメよ。誰かに取られちゃうわよ。わたし、5年後、10年後もこうやって家族ぐるみで旅行しようと思ってるんだから。そのうち啓太くんと、って将来を期待してるんだからね。」

「ちょっとお母さん、飲みすぎて変なこと言わないでよ。」

お母さんの爆弾発言をかわすために、たしなめる。

「将来とか、わたしも啓太もまだ考えてないから…」

「俺は全然大丈夫っすよ。」

啓太が笑顔でわたしのほうを見てくる。

「他の女の子のところなんて行く気ないんで。」

料理を口に運んだけど、プラスチックを食べているようにまったく味がしない。

「わたしも沙羅ちゃんがお嫁に来てほしいわ。沙羅ちゃん以外の子が来ても仲良くできないと思うし。」

啓太ママの言葉に、わたしの心臓は握りつぶされそうになる。

「もう将来も決まっているようなもんなんだし、来年から一緒に住んでしまえばいいんじゃないか?」

追い打ちをかけるように啓太パパが言った。

「それだと家事の負担とかお互い減るし、俺は賛成だなー。」

口がカラカラで、気持ち悪い。
頭がガンガンしてる。吐き気もしてきた。
もうダメだ。黙っておけない。

荒北、意気地なしのわたしに勇気をちょうだい。
ほんの少しでいいから…
お願い…

「…わたし、…啓太とは一緒に住めない。」

わたしの口から、絞り出すように声が出た。

「沙羅ちゃん、大丈夫よ。一緒に住むのは結婚してからで…」

啓太ママが私を気遣ってくれるが、わたしはきちんと言わなきゃいけない。

「ごめんなさい。結婚とか、将来のこととか、約束できません。」

「沙羅!今はやめろよ!」

啓太が私の腕をつかんで止める。

「ごめん、今だから話さないと、と思ったの。もう、無理だから。」

「やめろよ」

「やめない。わたし、もう付き合えない!」

啓太はわたしをじっと見ていたが、目線を外して低い声で言った。

「外で話そう。」

店を出るとすっかり日は落ちていて、生ぬるい夏の湿気を含んだ風が体を撫でる。
わたしたちは店の前の道を渡り、砂浜を歩いた。

「沙羅、前に俺が浮気してるの知ってるって言ってたよな。ごめん。もうやめるから」

「もう無理なの…」

「俺には沙羅しかいない。もうよそ見しないから…」

啓太は私の方をじっと見てそう言った。

わたしは啓太をまっすぐ見るのがつらかったけど、ここで逃げちゃだめだと思って啓太の目をじっと見つめて言葉を発した。

「最初は啓太がほかの女の子と会ってるの、嫌だったんだ。苦しかった。辛かった。でも、今は何とも思わない。啓太が誰と会ってても、何も感じないんだ。」

「…俺のこと、もう好きじゃないってことなのか?」

「…うん。わたし、好きな人がいるの。」

「沙羅…」

「ごめん、啓太。」

わたしは啓太に背を向けて店に戻り、黙って荷物を持ってその場をあとにした。



/
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -