16 週末の行方
<Side沙羅>
ポロポロと泣き続けるわたしを、荒北は前の時のように抱きしめようとしてくれた。
ダメだよ。
そんなことされたら勘違いしてしまう。
彼女がいるのに、わたしに近づかないで。
近づかないでほしいと思いながら、荒北のこの手をつかめたらどんなにいいか、
相反する気持ちの中でわたしはゆらゆら揺れていた。
「大丈夫。気持ちの整理をしたいから、一人にしてほしいの…」
わたしは荒北の優しさを振り払うように、声を絞り出した。
「そんなこと言ったって、一人でほっとけるわけねーだろ…」
「お願いだから、一人にして…」
荒北は納得いってない様子だったが、わたしが一人にしてほしいと言い張ったため、しぶしぶ出ていった。
わたしは一人になった部室で思いっきり泣いた。
***
週末に、わたしの両親と啓太の両親が静岡まで旅行に来ると連絡をもらった。
この週末に啓太に話をしようと思っていたのに、タイミングが悪い…
両親同士が旅行に来る前に、別れ話はできない。彼氏彼女の付き合いの前に、わたしたちは10年以上のも一緒にいた幼馴染だから。
こればっかりは仕方がないので、別れ話は先送りにするしかない、そう思った。
食堂で荒北と金城とお昼をとっていると、金城から
「高篠は週末は部活を休むのか?」
と聞かれた。あまり答えたくはなかったが、嘘をつくのもあれなので
「…土曜は休まないけど、4時で上がらせてもらう。両親がこっちに旅行に来るから…」
とだけ答えた。
***
<Side荒北>
日曜はこいつがいねーのかァ…
ぼんやりと前の席に座る高篠の姿を見ながら考えた。
授業が終わって、高篠がスマホを取り出す。
盗み見ようと思ったわけじゃねーが、たまたま内容が見えてしまった。
『俺んところの親がおまえの下宿先見たいって言ってるんだけど、かまわねーよな?』
これは、アイツとのやり取りか。高篠の両親も旅行でこっちにくるって言ってたから…
あのクソヤローの両親もこっちくるってことか!?
両親が揃って、つーことは、もう婚約者みたいなもんじゃねぇか!
あんなクソヤローと結婚すんのかよ…
本気で別れてほしいと思うけど、別れられない事情があんのかよ?
俺の出る幕なんて、まったくねぇのか?
いろんな思いがぐるぐると頭を回るが、俺がどうこうできることは一つもない。
高篠には高篠の事情があって、高篠とアイツの関係は彼氏としてはいまいちでも、幼馴染として10年以上の付き合いがあるわけで…
この前まで、高篠はあいつと別れて、とか考えてたのに、今は出会ってたった3か月の俺にはどこにも入り込む隙なんて無いように思えてきた。
俺は目の前が真っ暗になった気がした。
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