15 自覚
<Side沙羅>
気合い入れすぎてないかな、変じゃないかな、可愛く見えるかな、いろんなことが気にかかる。
荒北となんて、大学入ってから毎日のように一緒にいるのに、なんでこんなに緊張するんだろう。
部室を出たところで、私服に着替えた荒北が待っていた。
心なしか、いつもよりカッコよく見える。
わたしの目はおかしくなってしまったのか??
荒北の姿を見て余計に緊張した私は、思いついたことをどんどん喋る。
喋っていないと口から心臓が出てしまいそうだ。
わたしの気持ちも知らずに、荒北は余裕そうに相槌を打っている。
啓太と付き合う前とか、付き合った後とかでも、こんなに緊張したことない気がする。
わたしばっかり緊張してバカみたいだ。
歩いている間中、緊張していたが、目的地のモールにたどり着くと気持ちも落ち着いてきた。
わたしたちは買い物をする前に、ランチに行くことにした。
ランチの間は普通に話せたような気がする。
それから、サイクル店とスポーツショップに向かい、サイクル店で荒北はグローブを、スポーツショップではわたしも自分のテニスシューズを買った。
大量の備品や、消耗品、粉末ドリンクや補給食を買うと、荒北に
「こんな量の買い出し、どーやって一人で持って帰るつもりだったんだよ…おめーバカか。」
やっぱり嫌味を言われた。
そりゃそうだよねぇ。わたしも自分に聞きたいよ。
嫌味を言ってはいるものの、荒北の顔は優しい顔だった。
いつもの文句を言いながら助けてくれる顔。
本当に荒北が来てくれて助かった。
買い出しも無事に終了して、休憩がてらお茶をするか、などと考えていたら、人ごみの合間に啓太の姿が見えた。
わたしは一瞬立ち止まり、啓太の姿を遠目に見た。
隣を歩いていた荒北は、わたしが立ち止まったことに気が付いて、私の視線の方向を見る。
啓太はわたしに気が付くことなく、見たことない女の子と歩いていた。
彼女は啓太の腕に自分の腕を絡ませ、いわゆる恋人つなぎで手をつないでいる。
啓太は女の子のほうを見ながら立ち止まったかと思うと、軽く女の子にキスをした。
今までは啓太の浮気を知ったら、苦しかった、吐きそうになった。
でも、今はこれまでみたいな苦しさや不快感が込み上げてこなかった。
何故だか理由はわからないが。
荒北は啓太のことに気が付いたようで、わたしのことを気遣ってか、
「行くぞ。」
とだけ言って、わたしの手をひき、その場を離れた。
荒北は怖い顔をして何も言わずずんずん歩いていく。
モールから大学までの長い道のりをほとんど会話もなく歩き、私たちは部室に戻ってきた。
ドサッと荷物を置くと、荒北はわたしのほうを見て
「あんなヤツと、さっさと別れちまえよ!アイツ、サイテーだろ!まだあんなヤツのこと好きなのかよ!?」
思いっきり怒鳴った。
わたしよりも荒北のほうが怒っているようにみえた。
このまっすぐな人は、ただの部活仲間のわたしのためにこんなにも怒ってくれている。
友達でこれだったら、彼女にはどんな熱さを持っているのだろう…
荒北は続けた。
「俺ァあんなヤツ、許せねェ!彼女を一人で泣かせるようなヤツとは付き合うな!!
お前もう我慢すんのやめろ!真剣にお前だけを大事にしてくれるヤツとだけ付き合えよ!!」
その言葉を聞いたときに、ああ、やっぱり荒北はまっすぐだ。この人はたった一人に愛情を注ぐ人だ。
そう思った。
啓太のことではちっとも涙なんて出なかったのに、荒北の一途な彼女への思いを聞いたとたんに涙があふれて止まらなかった。
荒北が好き…
わたしは、今まで心の中に膨らんでいた気持ち、見ようとしなかった気持ちをまざまざと自覚した。
それと同時に、この男は絶対に手に入らないことも。
わたしは、自分の気持ちに気づいたと同時に失恋した、そう思った。
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