入口(正確には出口である)
背中から嵐斗くんを抱きしめて前に手を回すと、胸が当たったことにか、薄い腹筋の筋を指が撫でたことにか、ぴくりとおなかが引きつった。
「ね、いつもどうやってひとりでするの?」
「あ……えっと……」
着ていたスウェットを少しずらし、ボクサーパンツをさらした嵐斗くんは、ちょっとだけ勃っていた。
パンツも軽く下げてふるりと現れたものは、嵐斗くんの外見に似てとってもかっこいい。もうこれだけでイけないなんて可哀想でかわいい。
そのまましごくのかなあ、と思っていたら、嵐斗くんは自分の手を開いてそこに唾液を垂らした。
「は?」
「え……?」
「ごめんなんでもない続けて」
何今の、え? 何今の? ……エッ……ロ……。
濡らしたてのひらでそれを包み、やんわりとしごき始めた嵐斗くんに、正直あたしはもう嵐斗くんのオナニーどころではなかった。
どうやったら嵐斗くんからお尻に入れてほしいとねだらせるかを、足りない頭をフル回転させて考える。
あたしからお尻を撫でたり触ったりして誘導するのは簡単だ。でもそれじゃつまらない。
「おっきくなってきたねえ……」
「……ッ」
耳元で甘やかすように囁くとその耳が赤く染まっているのに気がついた。
ふう、と吐息を流し込むと、びくびくと肩が浮く。
「気持ちいい……?」
「……ン」
「イけそ?」
「……いやまだ……」
息は荒くなってきている。覗き込んだ横顔も気持ちよさそうではある。目を細めて頬にちゅっと音を立ててキスすると、びくっと震えた。
嵐斗くんがぎゅっと目を閉じて、熱いため息をつく。一瞬手の動きが鈍るけど、それもすぐに再開された。やっぱ、男前はオナニーしてても男前だな。
眉を寄せてぐしぐしと水音が大きくなってきたそれを一生懸命しごいているけど、嵐斗くんの目に戸惑いが浮かび上がってきた頃合いを見て、あたしはそっと指を先端に触れさせた。
「ッアテナちゃん」
「手伝ってあげる。自分の手より人の手のほうが刺激強いでしょ?」
これでイかれたら元も子もねえな、と思いながら、先っぽをくりくりといじりまわしてみるけど、嵐斗くんのおちんちんはびくびくするわりに吐き出す気配がない。
これはどうやら本格的に……?
「ね……嵐斗くん」
「なに……」
「ひとりでして、前だけでイけなかったとき、どうしたの?」
「へ? どう……って?」
もじ、とお尻を動かした嵐斗くんに、これは、いける、と確信する。
「やめたの? ……それとも、自分でお尻、いじった……?」
「ッ」
嵐斗くんが息を呑んだ。
ビンゴか? マジでか? 嵐斗くんが? ひとりでお尻いじったの!?
「……あ、その……」
これは見たいだろ!?
「嵐斗くんがどうやってひとりでしてるのか、ちゃんと見たいなあ……」
「…………」
だいぶ、悩む様子を見せた。でも急かさずに待っていると、嵐斗くんがのろのろとしごいていた手を後ろにやった。
あたしが背中から離れると、嵐斗くんは腰を突き出すように四つん這いになり、そのまま上体を突っ伏して枕に顔をうずめる。
太ももまでずり下がっているスウェットとパンツが妙にエロい。
「な、なあ……アテナちゃん……」
「ん?」
「これもう、見せる意味なくないか……俺、ちんこでイきたかっただけなんだけど……」
チッ。気づきやがったな。
「でも……今からお尻に入れちゃうのは自分の指だし、ノーカンじゃない……?」
「え……」
「あたしの指とか、おもちゃだとカウント入っちゃうけど、嵐斗くんの指はノーカンだと思うよ」
我ながら謎理論すぎるけど、イきたくて頭がぐるぐるしちゃってるらしい嵐斗くんには、ものすごく救いの言葉に聞こえたようで、そうなの……? と返ってきた。
チョロ斗……。
「うん。嵐斗くんがひとりでイけるなら、指くらいノーカンだよ」
「そ、っか……」
指がノーカンであろうとなかろうと、そもそもオナニーを見せる意味すら不明なので、嵐斗くんは根本からいろいろ間違っている。
そして指はノーカンじゃない。
「ほら、お尻が嵐斗くんの指、食べたがってるよ……」
「……、……ッ」
ふう、とお尻の穴に吐息を吹きかける。これこそノーカンなはずなんだけど、嵐斗くんは大げさに震えて、崩れ落ちそうな腰を上げてその男らしい節くれだった指をつぷ……と一本埋めた。
「っあ」
あたしの指でも届くのだから、大きな嵐斗くんの指は余裕で前立腺に届くみたいだ。いいところをぐりぐりと押し込みながら、左手で前もしごく。
高く上げた腰がゆらゆらと揺れ、入口(正確には出口である)が指をきゅうきゅうと美味しそうに締めている。
目の前で繰り広げられるいやらしすぎる光景に、熱いため息が漏れる。
これは……あたしが我慢ならず襲い掛かるのが先か、嵐斗くんが我慢できずおねだりするのが先か…………負けるかも……。
あたしの身体は、嵐斗くんを受け入れるようには残念ながらできていないけど、それでもこんな光景を見せられたら濡れてしまうようにはできている。じわりと熱くなる身体をごまかしながら、お道具箱をちらっと見る。
パウチのローションは、嵐斗くんの指が濡れていたので今は必要ないけど、おもちゃ入れるってなったら必要だ。
「あっ、あっ」
前だけのときはほとんど聞けなかったかわいい声が、お尻をいじると途端にあふれ出す。指の動きと、しごく左手の動きが速くなって、あ、そろそろ……と思う。
そして、このまま出しちゃったらシーツが汚れる、ということに気づいて、そっとスタンバイする。
「い、いく、アテナちゃん……」
「うん、見ててあげるからね。いーっぱい気持ちよくなろうねえ」
「あ、あ、っ……ッ!」
覆いかぶさって耳元で囁くのと同時に、嵐斗くんの全身がぎゅっとこわばって、とぷ……とあふれる。
両手を皿のようにしてそれを受け止めて、荒い息をついて腰だけをなんとか上げたまま脱力している嵐斗くんを見る。お尻に、指が入ったままだ。
「いっぱい出たねえ……気持ちよかった?」
「ん……」
「これ、どうしよっか?」
皿にした両手を嵐斗くんの口元に持っていけばさすがに顔を歪めたが、すでに過去何回かセルフ顔射して舐めさせているので大した抵抗はないらしい、ぺろりと舐めた。
「う、にが」
「美味しい?」
「いや……さすがにそれはない……」
げえ、という顔をした嵐斗くんが、不意に黙る。そして、お尻に入ったままだった指がのろのろと再び動き出しているのに気づいた。
手首を、叱るように軽く叩いてから掴んで、指を抜く。
「んぁ」
「だぁめ。もうイったでしょ?」
「……でも……」
「でも、なに?」
最後のプライドで、嵐斗くんはあたしに「入れて」と言えないでいる。このプライドをがらがらに崩す作業がとっても楽しいのだけど、正直うるうるした焦げ茶色の瞳で、訴えるように無言のおねだりをしてくるのもめちゃかわいい。
うーん、どうしようかな、と思ったまま見つめ合っていると、嵐斗くんが口を開いた。
「ア、アテナちゃんも」
「ん?」
「気持ちよく、なってよ……」
「どゆこと?」
もちろん本気で、どゆこと、とか思う馬鹿ではない。嵐斗くんから、その一言が聞きたくていじわるしてしまうのだ。
焦れたように、嵐斗くんがあたしのてのひらを舐める。まだ少し残っていたそれをきれいにするようにこそげるように少し強めに。
「脳イキ、するんだろ……」
「どうやって?」
「……! お、俺の」
「嵐斗くんの?」
「…………ケツに」
あー情緒ない、やり直し。
「お尻でしょ?」
「……お、お尻に、…………おもちゃ、突っ込んで」
んー……まあ、ギリ合格……にしてやっか。かわいい嵐斗くんだから合格にしてあげたんであって、ほんとなら不合格なんだからな?
おもちゃにゴムをつけて、ローションのパウチの封を切る。指に少し垂らしてお尻に触れると、少し冷たかったのかぴくりと震えた。
「いいの? 入れちゃったらセックスだよ? 嵐斗くん、明日あたしといろんなとこ観光したいんじゃないの? 午前中動けなくなっちゃうよ? いいの?」
「…………い、まさら……」
「そっかあ……地元観光より、おもちゃもぐもぐしたいのかあ……」
「……!」
涙目で睨んでくる嵐斗くんに、さすがにいじめすぎたなと反省する。
あたしの指は、嵐斗くんが軽くほぐしたそこに、ずぶずぶと簡単に飲み込まれていった。
◆
mae|tsugi
modoru