05
騎士としての正装用の軍服で戴冠式の整列に臨んだシディアンは、久しぶりにつけた普段使いとは違うきらびやかな装飾の軍服の重たさにうんざりしていた。
いつも微笑んでいるヴェルデが真面目な顔で、病のため先日この世を去った父王に代わり、王の側近だった大臣より式典用の王冠を授かっている。その様子は美しく、いつになく厳格な雰囲気だった。
今頃セレネは、家を出て、使用人宿舎で新しい生活をはじめているころだろう。シディアンの家に、セレネの荷物は衣服だけで、彼女が出て行っても何もなくならないことが、かえって喪失感を与えた。
式典はつつがなく進み、シディアンは正式に団長任命の公示を受けて新王であるヴェルデから飾りの剣をたまわった。ずっしりと、責任をそのまま表したかのような重みに、シディアンは心を引き締めた。
戴冠式が終われば、あくる日には城下町でのパレードが待っている。シディアンは、それの護衛にあたることに当然なっている。しばらくこの軍服での行動が続くのを考えるとうんざりするが、仕方ない。
家に帰れば当然明かりはついていない。食事もまた自分でつくらなければならない。それが面倒だとか、わずらわしいとかそういうことではないけれど。
最初のころよくセレネは失敗して、焦がした野菜炒めを食べていたことを思い出す。
自分だって始めたころはそうだったのだから別になんとも思わなかったが、彼女はシディアンに叱られると思いびくびくして縮こまっていた。耳も若干垂れていて、なんだかまるで自分がいじめているように感じていたことも思い出す。
剣の持ち方も知らず、最初は体力だってほとんどなかった自分が騎士団に志願して鍛えていたころ、宿舎では食事当番が交互にやってきて、じょうずにできないと先輩騎士になじられたものだ。それが今や、宿舎を出て一人暮らしをし、隊長職にまで上り詰めているから不思議なものである。
「庭師、か」
独り言が漏れる。
セレネはなぜ庭師に志願したのだろうか。あの可愛らしいほっそりとした手が、水を触ったり草木に触れたりして傷んでいくさまを想像すると、なんだかいたたまれない。できることなら、セレネにはあの家で自分の帰りを待っていてほしかった。
それでも、彼女が望んだことなら自分には何も言えない。口出しできるような立場ではないし、セレネがやりたいのならそれが一番いいに決まっている。
一人のベッドは、なんだかやけに広々していた。くっつくな、とかたくなにセレネを拒んだことが、妙にもったいなく思えてくる情けない自分がいて、シディアンはこっそりとため息をついた。
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