羽化に唇 ▽▽▽ ( UNION / GARDEN )

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「ん……スーツ着てると何かいつもと変わる?」
「動きづらい」
「ソウデスカ……ゴメンネ……」
「……、でも、お前がいつもよりしおらしくしてるのはちょっといい」
 ん。高槻はこういう場面で嘘やお世辞を言う奴じゃないし、だったらこれは本心ということで喜んでもいいだろうと思う。というかこいつ、『いつもよりしおらしくしてるのはちょっといい』とか思えたんだな。安心しちゃったよ。
 下着以外の服を脱がされて、この先起こることに対する期待で心臓がどきどきしてくる。それと同時に、無視できない感覚が走ってオレは思わず声をあげた。
「ちょっ……と、あの、くすぐったい」
「お前の希望でつけてるんだけど」
 緩めたネクタイの先が垂れ下がってアバラの辺りに触れるのがむずむずするのでそう主張してみると、呆れたような声音で笑われた。ううー、この笑い方も好きだ……めちゃくちゃカッコイイ……。
 高槻は、ネクタイを解くことはせずにワイシャツの隙間から剣先を中に通して固定した。胸ポケットついてないシャツだしタイピンもないし、これくらいしか対処法がなかったのだろう。「ちょっと不恰好だけど、まあ、いいだろ」こくりと頷く。多少着こなしが不恰好でもスーツが安物でも、お前は文句なしにカッコイイよ。というか、安易にネクタイを外さなかっただけでもう百点満点だよ。外さないでくれてありがとう。
「結局お前は普通の服なんだな」
「どうせコスプレするんだったらスーツ以外がいいなー。何か希望ある?」
「…………、……あー」
「嘘でもいいから何かしら即答してほしい」
「どうでもいい奴相手なら適当に即答してやるけどお前はそういうのじゃねえからちゃんと考えるだろ……まあちょっとすぐには思いつかねえけど……」
 会話を続ける前にキスされて、快感に流されてしまうのがちょっと悔しい。ちゅ、ちゅ、と小さくリップ音が聞こえるのを恥ずかしく思いつつ唇の感触に目を閉じて感じ入っていると、やがて小さな囁き声が耳元でした。
「……たぶん、お前がしてくれるならどんな恰好でも嬉しい」
「ん……ニッチなやつでも?」
「ニッチなやつ……がどんなやつかは分かんねえけど。でも、まあ、その恰好自体っつーか、お前が俺のために考えてくれたことが嬉しいって思うだろうから。だから恰好はなんでもいい」
 高槻が相手だと、こういうこと言われても純粋に本心から言ってくれてるんだろうな、って信じられる。考えるのが面倒で『なんでもいい』って言ってるのとは違う。ちゃんと分かるんだよ。嬉しいなって思う。
 おまけに、本当に『なんでもいい』だけでは終わらないのがこいつのいいところだ。「なんでもいい……けど、敢えて言うなら……」とまだ考えてくれている。夕飯のメニューも『なんでもいい』が一番困るって言ってたもんね。
「……寒くない恰好がいい」
「寒くない恰好?」
「うん。あったかそうにしてると安心するから」
 高槻はオレの髪を梳きながら、「寒い時期とか、お前がめいっぱい着ぶくれしてそれでも手が冷たい足が冷たいっつって俺にくっついてくるの、かわいいけど心配なんだよ」なんて言った。お前そんなこと心配してくれてたの? 優しすぎる。オレが冷たい手足くっつけても文句ひとつ言わないし。めちゃくちゃ体温奪っちゃってるのに。
「なんつーか、やっぱいつもの恰好が一番好き……かも。セーターとか、タートルネックとか……冬服? お前薄着はあんまり似合わねえもんな」
 そうだね、痩せすぎなのバレるから体型が分かりやすい服装はしたくないしね。
 どうやら言うべきことは言ったという認識らしく、感動しているオレをよそに高槻の指が肌を丁寧になぞった。ひくり、と喉が震える。
「んっ……ぁ、」
「部屋、寒くないか?」
「だいじょうぶ……ふは、お前の手やっぱあったかいね」
 肌を撫でさする感触はひたすらに優しい。じわじわ体温が上がってきて、息も浅くなる。合間に挟まるキスも体の力を抜くには十分すぎるものだ。全身がすっかり弛緩して、高槻の手が下の方に伸びるのをぼうっとした意識のままで見る。パンツのゴムが引っ張られずり下ろされる感覚と、遅れてやってきた快感。
「ぁ、あ……っは、んぅ」
「痛かったら言えよ」
「いたく、ない……よ、ぁ、きもちい……」
 こいつ綺麗好きなくせにオレのちんこ触るの躊躇わないんだよなあ、となんだかむず痒い気持ちになる。すらりとした指先が幹に絡んで、陰毛を丁寧に選り分けて、根元からゆっくり擦る。時折指先で玉を引っ掻かれるのがもどかしくて内腿が震えた。
 高槻は、オレのを触りながらもしっかりとこちらの反応を観察している。注意深く、慎重に、オレがちゃんと気持ちいいかどうかを探っている。いつものことなのに恥ずかしい。こういう風にされるとオレはもう何も誤魔化せなくなって、バカ正直に声を漏らしてしまうのだ。
「んぁっ、ぁ、んん……っ、ん」
「……ふ。気持ちよさそう」
「言われなくてもっ、わかってる、っての……ぁ、あっ、そこ、」
「ここ?」
「ひ、ぅ、っん、そこきもちぃ……あっ」
 先走りが滲んで先端が濡れる。勃起し始めたちんこを思い切り扱いてぐちゃぐちゃにしたい衝動に駆られたけれど我慢した。オレはどうやら、焦らされるのが嫌いじゃないらしい。自分だけ服を脱いでいるという気恥ずかしさも悪くない。
 ……それに、ピアスをしてる高槻を見ていると、高校の頃のこいつを思い出す。正直言ってかなり興奮する。
「なんかいつもより反応いいんだけど」
「ぁは……わかる?」
「かなり分かる」
「ん、ぅっ……なんか、昔のお前思い出すっ……から。高校くらいの」
 高槻は少しだけ首を傾げた。「疑似的に高校生とヤるのが興奮すんの?」違うわバカ。人聞きの悪いこと言わないで。
「そうじゃ、なくて……お前、昔からオレのこと、っん、すき、だったんでしょ……?」
「うん」
「は……ぁ、だから、もし、高校の時点で……こういう関係になってたら、どうだったかな……? とか」
 思ったりするわけですよ。分かんないかな。
 オレの発言内容は高槻にもそこそこ伝わったらしく、「もしそうだったら、俺今よりもっと余裕ねえかも」とおかしそうに笑った。
「ええ……? 今より、って、お前はセックス慣れてる、っぁ、……慣れてる、じゃん」
「ちゃんと好きな奴とのセックスはまだ慣れてないから」
 さらりとずるいことを言うそいつ。オレが恥ずかしがる暇もなく追撃がやってくる。「今でも割といっぱいいっぱいなのに」と。
 そんな風に続けてから、高槻はローションを自分の手に広げてからオレの尻に塗りつけた。器用なもので、スーツを着ているというのに全然汚してない。いや、ほんとどうやってんのそれ? なんで? オレなら二秒で袖を濡らす自信がある。
「ふ、ぅ……っぁ、あ」
 指が中に入ってきて、ローションをたっぷり塗り足されながら穴が解されていく。高槻のさっきの発言について詳しく聞いてみたいと思うのに、上手く言葉が組み立てられない。高槻が聞かれるの恥ずかしいから事を急いだ可能性、なきにしもあらず……。
「っひ、ぅ、……っん、んぁっ」
「ん……柔らかくなってきた」
「はぁあ、んぅ、んん……ん、む」
 合間合間にキスされて、体が穏やかな気持ちよさで満たされる。高槻のセックスはいつもこんな感じだ。限界を超えて追い立てられるようなことはなくて、ずっと優しい。こいつが自分からセックスするときは大体こう。ちょっと珍しいくらいに相手本位で物を考えるタイプなのだ。
 相手本位だから、オレが頼めばきっと激しいセックスのリクエストにも応えてくれる。それができない奴じゃない。器用だしね。しかも、言葉にしなくたって要望を敏感に察知してくれるのだ。まるで自分がやりたがっているみたいなていで人の望みを叶えることができる。危うい性質だよなーと思う。
「遥」
「んっ……? きもちい、よ?」
「ふは、そりゃどうも。苦しくないならよかった」
「ぁあっ……ぁ、ん、んぅ……たかつきのも、触っていい……?」
「スーツ着てるのに? 脱いでいいのか?」
「い、いじわるっ……も、いい、勝手にするしっ」
 震える手でベルトのバックルに触れるとカチャリと音を立てた。ベルトを引き抜いてファスナーを下ろす。灰色のボクサーパンツの膨らみを何度か指先で撫でて、ぴくっと中身が反応を示したことに安心した。たとえケツを解されている最中だったとしても、高槻のちんこを可愛がるくらい訳はないのだ。流石にこの体勢からだと舐めるのは無理だけど。そもそもこいつフェラ嫌がるしな。フェラが嫌というか……キスができなくなるのが嫌?
「ふ、ぁ……あ、んっ、おっきくなって、きた、ぁ」
「……っ半端に、脱がされたせいで余計に動きづらいんだけど」
「ぁ、は……かわい」
 鎖骨に吸い付かれて、思わず「んぁっ」と声が漏れてしまった。距離が近付いたので、パンツのゴムを引っ張って高槻のちんこを外に解放してやる。緩く勃ち上がったそれを握るとかなり熱くて驚いたし興奮した。カリの部分を爪先で優しく引っ掻いて、幹をゆっくり扱いて、夢中で触る。高槻が息を詰めるのが分かって勝手に顔が笑ってしまう。
「楽しそう、だな」
「ひ、ぁっ……ぁ、ちょ、っ急に擦るの、ダメっ……だって、ばぁ、ぁ、ぁん」
 いつの間にかすっかり広がっていたアナルの中を指でずりずりと擦られて手が止まった。かと思えばずるりと指が抜けて、途端に中がさみしくなる。
「はぁ、う……ん、たかつき、」
 もう挿れてほしい。
 そう視線で訴えると、高槻はオレの手を取ってネクタイを握らせる。
「――挿れていいなら、これ、お前が解いて」
「ず、……ずっりぃ〜……」
「こういうの好きだろ?」
「好きですね……」
 緩んだネクタイを引っ張るとシュッ、と摩擦音がして、「お前もうちょい丁寧にしろよ、あっつい」と笑われた。気が急いてしまっているのを見透かされたようで恥ずかしかったけれど、そんなことより早く欲しい。シャツのボタンも上から二つ分外したら、露わになった首筋に軽く歯を立ててみた。
「ん……ねえ、はやく」
 ダメ押しに促すと、高槻はオレが持っていたネクタイを取り上げて、それを使ってあっという間にオレの両手首を頭上で縛った。ものの数秒のことだった。呆然としているオレに高槻は綺麗に笑って、「こういうのも好きだろ」と囁く。
 オレはただ顔を熱くして、「好きだよ……」と言うことしかできなかった。

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