羽化に唇 ▽▽▽ ( UNION / GARDEN )

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 穴を潤滑油でほぐしていく。親指だけを挿れて浅い部分を掻き回すと、もどかしいのか膝を擦り合わせて喘いでいる。
「んぁ、ぁあ、っん、そこ、ゃ」
「嫌ではないでしょう、そんなに声をあげて」
「っぁ、ん。んんっ……だって、我慢できない……」
「素直な圭介様は好きですよ」
「お、オレけっこういつも素直だよ……? ひゃっ、さ、触るときはちゃんと言って」
 喘ぎ混じりに時折素に戻るのがなんだかおかしくて、まなじりにキスをする。指はようやく三本入るようになり、中で指を動かすと太腿がぴくぴく震えて連動するように声があがった。
「あっ、あっ、あぁ」
「気持ちいいですか」
「んぅっ……きもち、ぃ、ふあぁぁ」
「それはよかったです」
「っぁ! ひぅ、ん、そこっ……びりびりする、ぅぅ、」
 少しだけ掠めた前立腺を今度はしっかりと指先で刺激してやる。穴がひくひくと動いていて興奮するのと同時に、こんな幼い子供にセックスの快感を覚え込ませてしまったことに今更ながら僅かな罪悪感も覚えた。おまけに受け入れる側だなんてとんでもない話だ。
「そうまさんっ……オレもう、もうっ」
「イきたいですか?」
「んっ……! うんっイきたい、いかせて、……っひゃぁああ!?」
 泣きそうな圭介の上体を一度起こして、一物を自分のものと一緒に扱く。にちゃにちゃと卑猥な音がして、圭介が真っ赤になりながら目をぎゅっと瞑っているのが可愛い。きっと耳も塞ぎたいのだろうが、どうやら圭介の手は俺に縋りつくので忙しいらしい。嬉しい限りだ。
「ふぁあ、ぁっ、あっ、ぁああっ……も、いく、いっちゃう……っ」
「……っは、どうぞ、お好きなように」
「んんっ! っ、ぁ、ッ――!」
 声を喉奥で詰まらせて、圭介は欲を吐き出した。呼吸のたびになだらかな胸が上下する。
「圭介様。挿れますが、苦しかったらすぐおっしゃってくださいね」
「はぁっ……ん、相馬さんはやく、はやくきてっ……オレの中ぐちゃぐちゃってして……」
「っ……、そんなおねだりの仕方を、教えた覚えはありませんよっ……」
 ぬるつく穴に一物を宛てがい、ゆっくりと押し進める。圭介の口からは途切れ途切れの嬌声がこぼれ、締めつけの強さにオレまで思わず声が出た。
「……は、ぁ、圭介様、大丈夫ですか……?」
「んぅ……んん、そうまさんので、おなかいっぱいになってるよ……」
「……それは、よかった」
「っんゃあぁぁ!? そっ、な、急にっ……ひぅ、ん、ふあぁっ」
 おそらく無意識なのであろう煽りに我慢が効かず腰を動かす。ローションやら何やらで結合部は卑猥な音を立て、抜き差しするたびにそれが泡立った。
「あっ、あっ、あっ、ふぅ、ぅぅんっ」
「唇をっ、噛むのは、おやめください……」
「んぁっ、ぁ、ん、らって、声っ……がまんれきないからぁ……ぁあっ」
 キスをして、歯を立てられないようにする。「これで声も我慢できますか?」合間にそう言ってやれば、圭介のナカがきゅっと締まった。くぐもった声が、合わせた唇から俺の中にも響く。
 次第に唇もふやけて、どうやら噛み締めるほどの力も入らなくなったらしい。揺さぶられるたびに素直に喘ぐようになってきた。
「ふゃっ、ぁっ、ぁぁあう、そーまさんっ、そうまさんっ……」
「ここに……いますよ。大丈夫」
「オレっオレまたいっひゃう、ゃあぁぁっらめっいっひゃうからぁ……!」
「っどうぞ、イッていいですよ……っ」
 びくびくと震える圭介の一物を握り込みながら中の最奥を叩くと、圭介は息を詰まらせて大きく肩を跳ねさせた。
「っあ、ゃ、いく、いっ、――――ッ!!」
 白濁を散らして二度目の絶頂を迎えた圭介。俺も、達する瞬間に自身を抜いて圭介の腹の上に射精する。握ったままだった一物を優しく扱いて最後の一滴まで欲を吐き出させてやると、圭介はとろんとした瞳で俺を見た。
「ふ……あ、ぁ、んん……相馬、さん」
「はい。ここにいますよ、圭介様」
「んっ、……きもち、よかったぁ……」
 頼りない口調で、熱っぽく圭介は言った。額にうっすら滲んだ汗を拭う。
「相馬さんは……気持ち、よかった?」
「ええ、とても」
 正直に言って微笑めば、圭介は上気した頬を更に血色よく染めて「……うれしい」とはにかんだ。
 穴からこぼれるローションや体表に残った精液を最低限拭き取っていると、「ねえねえ」と甘えるような声で圭介がこちらの気を惹こうとしてくる。
「どうしました?」
「んーん。相馬さん真面目だから色々気にしてるみたいだけど、あんま意味ないよねって思って」
 色々ばれている。気まずくて口を噤んだら笑われた。
「ね。こっち、みて」
 明るい茶色の瞳が俺を射抜く。拙い口調なのに、この子の言葉は妙に強制力を持つな、なんて思った。
 両手が伸びてきて、俺の頬をそっと挟む。
「……へへ。そうまさん、すき」
「それは……光栄ですね」
「どういうとこが好きか、ききたい?」
「では、教えていただいても?」
 戯れにそう聞き返すと、圭介はにこっと笑って頷く。
「まずねえ、相馬さんはかっこいいでしょ」
 真っ先に出てくるのがそれか。確かに俺の顔は世間一般で言うと整っている部類だというのは自覚があるが、こうやって正面からはっきり言われると気恥ずかしさがある。俺としては表情が硬いと言われがちな自分の顔よりも圭介の人懐っこい笑顔の方が断然好きなのだが。
 相槌を打ちつつ続きを促すと、圭介は夢見心地といった表情で言葉を紡いでいく。
「顔もかっこいいんだけど、お仕事してるところがすきなんだぁ。オレ、相馬さんの淹れた紅茶なら飲めるんだよ。なんでだろう……」
 それはたぶん子供舌の圭介がストレートティーを飲めないからというだけだ。俺が紅茶を淹れるときは、ジャムをひと匙カップに落として甘くしてから出している。
 今日はイチゴジャムにしただろうか。何にせよ、自分の仕事ぶりを褒めてもらえるのは嬉しい。特にこうやって、圭介のことを考えて何かをしたときに好意で返ってくるのは格別の思いがある。
 この子供は何も考えずに世話をされているだけのように見えて、実際のところ他人の思いを敏感に感じ取っているのだ。
 真っ直ぐな好意に自分でも分かるくらい上機嫌になっていると、僅かな間を置いて圭介が小さく囁いた。
「それでね。……オレのことちやほやしないでくれるのが、優しくっていちばんすき」
「……圭介、様」
「あ。今オレのこと呼び捨てにしようかちょっと迷ったでしょ? そういうところ」
 相馬さんは優しいね、と言って抱き着いてくる圭介。行為のせいで疲れたのだろう。瞼が落ちかけている。眠そうに目を擦っているので、「後は私がきちんとしておきますから、お休みになっても大丈夫ですよ」と髪を撫でる。すると圭介は安心したように胸元に頬をすり寄せてきて、間もなく穏やかな寝息が聞こえてきた。
「……俺も、圭介のそういうところが好きだよ」
 本人に聞かれていないのをいいことに好き勝手言ってみる。優しい子なのだ、この子は。
 起こさないように慎重に圭介の体を清めて、お湯を含ませたタオルで体中綺麗に拭いて、後は明日の朝入浴すれば大丈夫だろうと人心地つく。すやすやと寝ている圭介は、あの明るい茶色の瞳が瞼に隠れていると余計に幼くあどけなく見えた。
「明日の紅茶は……桃のジャムで淹れましょうね」
 髪を梳きながら、吐息だけで静かに言う。俺も早く寝なければ明日の仕事に差し支えそうだ。けれど、もう少しだけ眺めていたい。この温かさに浸っていたい。
 俺のことをこんなに好いてくれるこの子を、時間の許す限り大切にしていきたいと改めて強く感じた。
 名残惜しさもあったが、俺は最後にもう一度だけ圭介の唇をそっと指でなぞって立ち上がる。触れた瞬間圭介の表情がふわりと和らいだように見えて、そんな些細なことにも嬉しくなった俺はうかれた気分のまま、静かに部屋を後にしたのだった。
 明日、圭介が「やっぱり相馬さんの淹れた紅茶おいしくてすき」なんて言ってくれるのを期待しながら。

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