羽化に唇 ▽▽▽ ( UNION / GARDEN )

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「ふ……ぅ、んん」
 いつもより室温が高いからか、拓海の瞳が蕩けるのが早い気がする。ローションをたっぷり使って、少しずつ後ろを解した。正直言ってまだ、こういうことが上手にできるようになったわけではないと思う。でも俺はその時その時の精一杯で拓海に触れるようにしているし、拓海がそれに応えようとしてくれるのが分かるから、これからも頑張っていきたい。
 中を探ると、拓海の吐く息が更に熱くなる。浅く抜き差しすればもどかしいのか身をよじるし、深く差し込めば息をつめてこちらを見る。反応のひとつひとつが可愛くて、満たされていく。
 気持ちいいか、と再度確認しそうになってすんでのところで思いとどまった。さっき、「そういうのはダサい」って言われたばっかりだしな。でも、じゃあ、痛くないか、って聞くだけなら大丈夫だろうか。注意深く観察してみても、拓海の表情からは苦痛は読み取れない。指を軽く曲げて前立腺の辺りを刺激すると腹がぺこっと凹んだ。微かに汗が滲んでくる。
「ん、ぁっ……? 幸助?」
「どうした?」
「や、ちょ、どこ舐めて……っおい」
 腹のうっすらとした筋肉が脈打つのがなんとなくいやらしく見えてしまって、へその周辺に舌を這わせると焦ったような声が拓海の口から発せられる。
「嫌だったか?」
「い、嫌っつーか……汚いだろ? 俺、汗かいてる……」
「そうかな。風呂入ったし、大丈夫だと思う」
 汗かいてるのは俺も同じだし、そもそもこんなの汗かいてるうちに入らないだろ。というか、俺が舐めたから汚いって言われたんじゃなくてよかった。安心しつつ、全身にキスをした。余すところないくらい。
「は、ぁ、っぁ」
「拓海、なんだか今日はいつもより感じてる気がする」
「っ、そうか……? ん、自分じゃ、分かんねえかも……」
 浅く息をしているそいつの肌を撫でていると、「俺も……」なんて言って手が伸びてくる。迷いもためらいも無い手つきで俺のものを触って、扱いていく。明確な快感に僅かに腰が引けてしまった。そんな俺を見た拓海は、にんまりと満足そうに笑う。
「可愛いトコあんじゃん」
「っ、あのなあ……」
 やっぱり俺ばかり余裕が無い気がしてしまう。仕方ないのかもしれないけれど。
 エアコンの効いていない部屋はじっとりと暑くて、今肌に滲む汗が気温のせいなのかそれともこの行為のせいなのか分からなくなってくる。まあ、どちらもが原因ではあるのだろう。首筋を甘噛みするといつもより高い体温が伝わってくる。後ろを慣らすのに精一杯だったせいでほったらかしてしまっていた拓海のものをゆっくり触って、お互いに気持ちを高め合う。
「は、っぁ、ん……幸助、もう……」
「挿れて大丈夫か?」
「ん、へーき……ほら、ゴムつけてやる、から」
 瞳は快感に濡れているのに、拓海は危なげのない動作で俺のものにゴムを装着した。鮮やかすぎて魔法みたいだ。拓海は色々なところが器用。手先も、考え方も。それにいつも助けられている。
「拓海」
「ん……?」
「いつもありがとう」
「っふ、お前、それ今のタイミングで言うことか? 俺がいつもゴムつけてるからありがとうみたいに聞こえるだろ」
「え、あ、ごめん」
 謝んなよ、とまた笑われた。ちょっと恥ずかしい。こういうのが、いわゆる「雰囲気ぶち壊してる」ってやつなんだろうな……。でも拓海は、俺がどういう意図で「いつもありがとう」って言ったかちゃんと分かってくれているのだ。分かってくれているからこそ、こういう風な返事をしてくれる。
「こーすけ、はやく」
 笑い交じりの甘い声に促されるようにして拓海の脚を抱えた。ぴったりと体がくっついて、心臓の音がまた一段とうるさかった。
 もう何度も体を重ねているはずなのに、この瞬間はいつも緊張する。
「っぁ、ぁああ……ッ」
「ん……っ」
 拓海の脚が、ぐ、と俺の胴体を締める。俺のものが深く中に入り込んで、圧迫感が心地いい。背中に回された腕に力が入っているのが分かる。こんな些細なことも、可愛いな、と思う。
 結合部を撫でると「くすぐったい」という制止の声が飛んできた。どうやら痛くはないようだ。切れてもいない。よかった。
 少しずつ、ゆっくりと抜き差しを繰り返す。ローションで滑りのよくなった内部は、粘度の高い独特な音をたてた。汗が次々滲んでくる。拓海の体にそれがぱたりと落ちて、慌てて指で拭った。
「ん、っぁ、なにしてんの」
「いや、汗が落ちちゃって……」
「お前、変なことばっか気にしすぎっ、だろ」
 もっと気持ちいいことに集中しても大丈夫なのに、と拓海は俺の脚の付け根に指先を滑らせてきた。いや、自分で言っちゃうんだけどさ、俺ひとつのことに集中したら本当に周りが見えなくなるから、気付かないうちに激しくしちゃいそうで怖いんだよ。拓海のことを大切に抱くためにはいつでも冷静でいないと駄目だろ?
 まあ、そんなことが言えるはずもなく。腰を抱えなおすと「ぅあっ、ぁ、ん」と衝撃に耐えるような声が拓海の口から漏れた。
「っぁ、あ、はぁっ、ん、こうすけ、っ」
 拓海のオレンジがかった茶髪が振動の拍子に頬にかかる。先端からとろとろと先走りが流れているそれを握りこむ。潤んだ瞳で見つめられて頭の芯が痺れるような感覚がする。触った部分が全部熱い。エアコンが壊れたせいだけじゃなく、熱かった。
「んぁっ! ぁ、っぁ、ぁあ」
「っ、は、たくみ、っ……」
「ッも、いく、んん、んぅ――!」
 びくっ、と一際大きくそいつの体が跳ねたかと思えば強く締め付けられて、俺は咄嗟に唇を噛んで声を押し殺す。頭が沸騰しそうだ。握ったままの一物を、精液を搾り出すように扱けば耳に届く声が更に甘くなった。
「っう、ぅ……!」
 我慢できたのはそこまでで。かっ、と体が熱くなったあと一気にその熱が引いていく。急に頭の奥がクリアになる。数秒だけ拓海の中に留まって、名残惜しく思いながら少しずつ自分のものを中から抜いた。
 荒い息と独特のにおい。換気した方がいいな、と思っていると、拓海の腕がぱたっと俺の背中から床に落ちた。
 汗で髪の毛が頬に張り付いているのが色っぽい。どきどきする。
「はぁ、っは、……はー、……あっつ……」
「水飲もう、拓海」
「の、飲む……」
「うん。水分補給ちゃんとしないとな」
「クーラー壊れた部屋でセックス、色々やばい……」
 日が落ちて気温が下がってきたとは言っても夏だからな。でも今日の拓海はなんだかいつもより感じていたし、機嫌がよかった気がする。
 ミネラルウォーターを回し飲みして一息ついたところで、拓海は嬉しそうに俺の肩を叩いてきた。
「にしてもお前、今日はなんかいつもよりノリノリだったじゃん。興奮した?」
「えっ」
「ん? いつもの三割増しくらい俺の首噛んできただろ」
「うわっごめん、めちゃくちゃ痕になってる」
「いいって別に! 俺もなんか、こう、お前のぎらぎらした目見て興奮したし」
 ええー、そんなにがっついていただろうか……。拓海がいつもより興奮していたように感じたのは、要するに俺のせいだったってことか? いや、こういうのはどっちが先か議論したって仕方ないことだけど。拓海が可愛かったのでよしとする。
 熱が少し引いたことで、思い出したように腹が鳴った。そういえば夕飯も食べずにヤってたのか、俺たち。ぐうぐう鳴っている腹を押さえると、拓海が笑って「さっさと飯作ろうぜ。俺ももうカレーの腹になってる」と言う。
 明日になったらきっと、この部屋は元通り涼しい部屋に戻るのだろう。
 けれどたまには、こうして汗だくになって繋がるのも悪くないな……なんて思ったりした。

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