羽化に唇 ▽▽▽ ( UNION / GARDEN )

INFO / MAIN / MEMO / CLAP


「高槻」
「なに……?」
「ワガママ言ってごめんね。受け入れてくれてありがとう」
 ぴたり、とそいつの穴に先端をあてがった状態でそんな風に口にして、返ってきたのは「今更かよ」という笑いまじりの声だった。なんでだろう、確かにこれからオレがこいつを抱くんだけど、抱かれているような安心感もあるのだ。たぶんそれはこいつが相手でないと感じられない、不思議な気持ちだった。
 こいつが相手でよかったと思う。抱かれる側だろうと抱く側だろうと。
 ゆっくりと腰を押し進める。高槻が息をつめるのが分かって、けれど止まれない。高槻の腰を支えて、柔らかく温かいそこをかき分けるように自身を埋めていく。一番太いところが入って、あとはその勢いのままにずるりと全てが収まった。
「っ、あ……はい、った?」
「は、入った……やばい、まって、泣きそうなんだけど」
 片想い期間含めて、一体何年こいつのこと好きだった? 十年にはちょっと届かないかもだけど、十年近くずっと好きだったことは確実だ。そんなに好きな奴と今日こうしてひとつになれて、これで感動するなって方が無茶だろう。大体さあ、男同士じゃ番えないのになんでケツにちんこ突っ込んだら気持ちいいようにできてんの? 人体の神秘だよ。神様は何を思って人体を設計したんだ。
 そんな、人類の歴史にまで思いを馳せてみたりして。
 ふと高槻を見ると目が合って、こちらを見るその顔面が綺麗すぎて改めて驚いてしまう。こいつ、時折引くほど顔がいい……。とろんとした目元のお陰で普段のちょっとキツめの雰囲気が和らいでいて、突然動きを止めたオレに対してちょっと首を傾げる仕草はあざとい。こいつって自分が周りにどう見られてるか分かってるタイプだし魅せ方も分かってるんだろうけど、無自覚のときの方が可愛いよね。ちょっと優越感。
 当の高槻はというと、ゆっくりと深呼吸して息を整えている最中だった。こいつ、結局耳触ってたときが一番反応よかったな……慣れてきたらこっちでもたくさん感じるようになるだろうか。
「動いて……いい?」
「泣くんじゃなかったのかよ、お前……」
「そこはほら、男ですから。好きな子の前ではカッコつけたいでしょ」
 笑い声はオッケーのサインだ。最初はゆっくり、体をゆさぶるように。じょじょに抜き差しする範囲を増やして、ナカを擦っていく。
「っぅ、ん、ん、んんっ」
「ぅあっ、あ、これ、やばっ……あ、ぁ、たかつき」
 まさか初回で、後ろだけで気持ちよくなってもらえるなんて自惚れてはいないので、高槻のモノに手を添えてそちらも擦る。手の中でびくびくと震えるのが分かって、ああ、苦しいばっかりじゃないんだな、って嬉しくなる。
「ん、ぁ、はるか……」
 お前、セックスしてるときはたくさん名前呼ぶようになるね。そういう可愛いことばっかされると余計に息が上がる。
 たぶん高槻は、オレがやりやすいようにたくさん思い遣ってくれたんだと思う。少しは応えられたかな。オレが相手でよかった、って、お前も思ってくれたかな。
「ぁ、う、っ……ん、ッ」
「はー、ぁ、もうイきそ? ね、イこっか?」
 手が伸びてきたので抱きついてくるかと思いきや、高槻はオレの髪をそっと撫でた。そして柔らかく笑う。うわあもう、ほんとにそういうとこ好き。上手にできたね、って褒められてる気分。
 ナカが脈打つ感覚にお互いの限界を察したオレたちは、自然といっそう身を寄せ合った。体温が近い。ぐちゅぐちゅとオレの手の中で散々擦られた高槻のものがまず達して、次いで周りの壁が搾り取るみたいな凶悪な動きをしたのでオレのもあっけなく精液を吐き出した。
 一気に脱力感が襲ってきて大きく息をつく。これ、上やってるオレすらこんなに疲れるのに下だとどんだけ消耗激しいんだ? 若干怖くなったので「大丈夫?」と高槻に声をかける。あ、よかった、意識あるね。
「っ、は……ぁ、だいじょうぶ」
「よかった……色々な意味で……」
「んっ……、……ん?」
 ぐっ、とまだ抜いてもいないのに勢いよく上体を起こした高槻が、無言でオレの頬を引っ張った。
「いひゃいんらけろ……んん、なに?」
 また無言。無言でとんとん、とちんこを指先ノックされる。え、抜けって? 素直に従ったところで、問題その三に気付いた。
「あっ……うわ、超ごめん……」
 ぽっかりと空いた穴はまだひくひくしていて大層エロかったんだけど、そこからこう、どろっと。どろっと精液が。どうやらオレは、セーフセックスと言いつつゴムをつけるのを綺麗さっぱり忘れていたらしい。しっかりばっちり用意していたはずのゴムはベッドの下に蹴り落とされていた。哀れ、コンドーム。
「ケツん中ぐちゃぐちゃで気持ち悪い……もう一回風呂だな」
「あ、お咎め無し!? よかった!」
「ゴムを忘れたので五点減点」
「さ、最終的な点数はいかほど……?」
「……百十五点?」
「採点ゲッロ甘い! 配点どうなってんの」
 高槻はここで、今日一番の笑顔を見せてくれた。「俺のことたくさん考えてくれたの分かったから、それだけでも百点満点中百二十点」ええーもう、超好き……。
 愛しさのあまりぎゅっと抱き着いて頬ずりするオレ。「そうやって的確に褒めてくれるから高槻のこと好き……どんどん高得点を与えてほしい……」「お前採点されるの好きだもんな、テストとか……」「うん。合格点六十点のテストに百点で合格するのが大好き」高槻はオレとは逆で、こう、ふわっと褒める方がいい。言葉を尽くして褒めようとしなくても伝わるらしい。料理を残さず食べるとか。おかわりするとかでも可。
「次は満点をとります」
「いや、次は俺がお前を抱く」
「んむむ……じゃあその次ってことで」
 笑い合って、どちらからともなくキスをする。ついばむ感じの軽いキスだ。あー、幸せ。
 高槻のことを抱き上げて風呂場まで運んであげられないことをちょっぴり残念に思いつつ、けれどオレの恋人はとても優しい表情で笑ってくれていたので、ワガママ言ってよかったな……なんて怒られそうなことを考えてしまったのだった。

prev / back / next


- ナノ -