羽化に唇 ▽▽▽ ( UNION / GARDEN )

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 ヤるときしきりに「ゆっくりして」とお願いしてくるのは、やっぱり急に気持ちよくなるのが怖いからなのだろうか。
 脚を抱えて体内を暴きながらそんなことを考える。真っ赤になって瞳を潤ませている遼夜は、呼吸を整えるのに必死な様子だ。気持ちいいのであろう場所を時折わざと掠めると、びくっとして俺の服を握り締めるのが可愛い。
 こいつとセックスするようになってから、心なしか腕に筋肉がついたような気がしてならない。万年文化部だったけど別に運動は苦手でも嫌いでもない俺である。いつか遼夜を抱えて自由自在に運べるようになるのが夢なのだが、道のりは遠そうだ。ちなみに、遼夜は勿論俺のことを軽々抱えることができる。ちょっと複雑な気分。
「っ、ぁ、おく」
「ん? どうした?」
「おれ、ばっかり……服を着ていないのは、恥ずかしいよ」
 服の裾を引っ張られた。早く脱げ、ってことか。和服が一分と経たずにひん剥けるのがいけないのであってけっして俺のせいではないと主張したい。いや、脱がせやすいのは嬉しいけどさ。こういう浴衣っぽいのもいいけど、日中着てるような和服は何枚も着込んでいるわりに抵抗なく脱がせることができていいなと思う。露出が殆どなくてガード固そうに見えて、でもいざそういうことをしようとしたときにもたつかないっつーのがいい。着物が一枚一枚遼夜の肩を滑り落ちてベッドの上にたわむさま、いとをかし。
 このまま恥ずかしがっている遼夜を見守るのも悪くないなと思ったが、今日のところは素直に脱ぐことにしよう。あまり意地悪すると泣きそうだしな。
 服を脱ぎ捨てて素肌で密着するとびっくりするくらい温かい。相変わらず体温が高いのだ。エネルギーの消費が激しそうである。
「っぁあ、あ」
 喉がぐっと反らされて、遼夜の腕が俺の背中に回される。爪立ててもいいぜ、っていつも言ってるんだけど、「痛い思いはさせたくないよ」って優しく返してくれる。いくら切羽詰ってても快感で泣きそうになってても、俺の体に傷をつけないように、というのは必死で守ろうとしてくれているらしい。こいつは力が強いから、力加減を間違えるということをとても怖がる。俺としては、セックスしてるときに爪立てられてついた傷とか最高だと思うんだけど。そんな、縋りつきたくなるくらい気持ちよかったってことだろ? 最高じゃん。
 遼夜はぎりぎりのところで理性を手放せない奴だ。俺の前でくらいはどろどろになってもいいのに。まあ、そうやっていつも自分を律して頑張ってる遼夜だからこそ俺は好きになったんだけどな。
「遼夜ぁ、きもちい?」
「ひ、っん、んん……う、ん」
「もっとどろどろのぐちゃぐちゃになって。お前が気持ちよさそうにしてるとこ、沢山見たい」
 触るのは上から順番。瞼にキスをして髪をそっと払って、耳をくすぐるように撫でる。こいつは前戯に時間をかけると嬉しそうなので、俺も自然と丁寧にするようになった。些細なことでもちゃんと反応してくれて、非常にやりがいがある。
 ゆるく勃ちあがっている一物を手で包むと、中でびくっと反応しているのが分かる。最初は大袈裟なくらい優しく触れるのがいい。焦らすみたいに、ゆっくり。
「んんっ……ぁ、あ、っん」
 遼夜の唇が快感に震えている。先端から先走りがじわりじわりと滲んで溢れる。それを拭うように指先で撫でると、また新しい先走りがこぼれてくる。それだけのことに俺も酷く興奮してしまって、息がほんの少し荒くなった。
「っ奥、おれも」
 そんな言葉と共に伸ばされた手が俺のものをやわやわと握ってきて思わず声が漏れる。正直なことを言ってしまうと遼夜はこういうの、お世辞にも上手いとは言えない。力加減が優しすぎてたまに痒いしじれったい。……ん? 寧ろ焦らし上手なのか? まあいいや。俺のために頑張ってくれてるのがちゃんと感じられるから何にせよ嬉しい。
 ……これ言ったら怒られそうなんだけど、遼夜って何故か手で扱くよりしゃぶるほうが上手い。確かに、俺が仕込んだからっつーのも勿論あるとは思う。でもそれを差っ引いても初めて咥えてもらったときから気持ちよかったんだよな。あのときも、俺から言い出したんじゃなくて遼夜から提案してくれたし。
 遼夜も手で扱くより舐めた方が俺の反応がいいっつーのを学習してしまったようで、余計にしゃぶってもらう頻度が上がるというループが起こっている。俺が風呂場でどれだけ気を遣って自分の性器を綺麗に洗っているか、ばれたら笑われそうだ。……仕方ねえだろ、フェラは嬉しいけどそれと同じくらいいたたまれない気持ちもあるんだよ。嬉しいからこそ丁寧に洗ってるんだよ。
「…………おまえ、やっぱり舐めた方が反応がいいよなあ……」
「うわっばれた」
 遼夜は呼吸が落ち着いてきていて、さっきより滑舌がはっきりしている。コントみたいな自白をしてしまったが、生理現象なので誤魔化せるものでもない。やんわりと、呆れたような曖昧な笑顔を返された。
「別に性的嗜好は人それぞれだから否定はしないけれど……」
「いやいやいやお前はっきり言っちまうと扱くよりも舐める方が断然上手いだろ。謎だけど」
「おまえの性癖に合わせた結果なんじゃないか? 流石に、この数年でかなり場数を踏んだのだし」
「あくまで俺のせいだと仰る」
「だ、だって……」
 もし仮に元々素質があったとして、そんなのはしたないじゃないか……と遼夜は恥ずかしそうに目を逸らした。あー、もう、どんどん俺のせいにしていいよ。八割方は確実に俺のせいだしな。
 ここで機嫌を損ねてしまっては大変なので、遼夜のを軽く扱いて話題を強制終了。「ひあっ」と驚いたような声がしたしなんならジト目で抗議されたが、このままうやむやにしてしまおう。
 俺だってお前の性癖に合わせて前戯をきっちりするようになったってこと、じっくりたっぷり味わわせてやるよ。もう挿れてって言っても今日は駄目だからな。

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