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Chapter1-6
その日は唐突にやってきた。
わたしとリドル、二人にお客さんが来るのだと言う。わたしたちにとって、お客さんというのはえてして里親のことを言うのだ。
一気に二人も子どもを引き取る里親というのはめずらしい。
リドルはひたすら警戒していたけれど、わたしは心からうきうきしていた。
リドルとの話が終わるまで部屋で待っていなさいとミセスコールに言われた通り大人しくしていると、その人はやってきた。
「君がナマエ・ミョウジだね」
そう穏やかに言う人は、ダンブルドアというらしく、わたしたちのような”不思議な力”を持った子どもたちを教える教師をやっているらしい。
わたしは彼に、周りで何か不思議なことが起こったのではないかい、と聞かれたため、手のひらに花びらの小さな竜巻を起こして見せた。
「きみは魔女だ」
ダンブルドアはそれを嬉しそうに眺めるとそう告げた。きみはグリフィンドールかレイブンクローが似合いそうだ、とつけくわえて。
わたしとリドルが”不思議な力”と呼んでいたそれは、魔法だったらしい。
そして魔女・魔法使いであるわたしとリドルはホグワーツという寄宿学校への入学が決まっているらしかった。
ダンブルドアはわたしに入学に必要な持ち物のリストを手渡すと、お店への行き方を教え、帰るときにお茶目にウインクをすると、いつの間にか消えてしまっていた。
それからは忙しかった。
今まで触れたことのない世界に、一気に飛び込むことになったからである。
ダンブルドアは簡単じゃよ、と言ったけれど、あれは放任主義にもほどがある。
確かに、わたしたちの買い物にだけついて行くわけにもいかないのだろうけど。
「リドル、次は杖を選びにいかなきゃ」
わたしがリスト片手にそう言うと、リドルは待ちきれないようにさっさと行ってしまう。
その背中を追いかけると、「オリバンダー杖店」が姿を現した。
店主のオリバンダーはわたしを孤児院へ連れて行ってくれたおじいさんと少し似ていて、なんだか懐かしくなってしまう。
先にリドルが選んでいるのを眺めていると、杖選び(オリバンダーに言わせると、杖が持ち主を選ぶらしいが)は、思っていたよりずいぶん大変なようだ。
リドルが杖を持つたびに、引き出しが全部開くわ、シャンデリアが割れるわ、床板がめくれ始めるわ、散々だった。
しかし、リドルが一つの杖を持つと、部屋が全て元どおりになり、その上一陣の強い風が巻き起こってリドルを包んだ。
なにも知らないわたしでさえ、その力強さに目を丸くしていたのだけれど、オリバンダーは狂ったように手を叩いて喜んだ。
「あなたは偉大な人になるだろう!」
かくして、リドルの後にわたしの杖選びが始まったものの、それは思った以上に―辟易するほど―難航した。
ある時は杖がピクリとさえせず、またある時は杖が飛び跳ねてわたしの手から逃げて行ってしまう。
「これは…これは、難しい…」
オリバンダーの唸り声と、リドルのあくびが混ざってわたしまで鬱々とした気分になる。
もしかしてわたし、魔法使いじゃなかったんじゃないの?
うんざりした思考がそこまで考え始めると、オリバンダーはわたしがさっきまで持っていた杖をひったくるように奪って、新しい、細くつやつやした杖を差し出した。
それは、リドルの白い杖とは違い、黒く装飾は持ち手を表す部分にしかない。
「ユニコーンの尾、黒檀、28センチ。しなやなさはピカイチです。これをどうぞ」
それを手に取ると、ふわりと温かな春の日のような風が起き、小さな花びら―これはリドルが咲かせた野花のようだ―がその風に乗ってふわふわと舞った。
「まさに…」
オリバンダーはこういう人なのか、恍惚とそれを眺めていた。
こうしてわたしたちは魔法使いの代名詞といってもいいであろう杖を手に入れ、残った時間でダイアゴン横丁を回ってみることにした。
「ミョウジ、少し待っていてくれ」
リドルが入ったのは、先ほど教科書を買った本屋だった。
熱心に本を読むリドルに、本当にうれしいんだなあとなんだか感慨深くなり、ゆっくり読めるようにわたしはわたしで他のものを見ようと、ペットショップに入った。
学校の支援金で中古の持ち物を買えたものの、ペットを飼う余裕にはわたしにはない。
白く、ふわふわで小さなふくろうが小さな声をふるわせるようにして鳴くのに、首元を指で撫でてやる。
むかしから動物を飼ってみたいという気持ちがあったので、よけいその場から離れがたく、気づけば結構な時間が流れていたらしい。
「どこかに行くなら一声かけるのが常識じゃないのか」
と後ろから小突かれた。
「うわ!ごめん!」
わたしが慌てて立ち上がると、リドルはため息をついてわたしの髪をかき混ぜた。
いつの間にかリドルがわたしの背を越してきたことに、その時初めて気づいたのである。
やさしい楽園のちいさなひずみ
楽園はすでにこの手からこぼれてしまった。