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chapter2-1
キングス・クロス駅の9と3/4番線から汽車へ見送りの家族もなしに乗り込むと、わたしたちは空いてるコンパートメントに体を落ち着けた。
みんな四、五人で乗り込んでいる中で二人きりの場所が空いていたのはラッキーとしか言いようがないけれど、男女が二人で乗っているコンパートメントにはいるのは気がひけるんだろうなと想像できる。
「リドルはどの寮に入りたいの?組み分けってどんな風にするんだと思う?」
わたしがあまりに見るので、余ったお金でリドルが一つ買ってくれたカエルチョコレートの足を頬張りながら聞くと、リドルは本から顔を上げた。
その口に半分に割ったカエルチョコレートを押し込むと、少し嫌そうにしながらも咀嚼して、リドルが口を開く。
「スリザリンに決まってるだろう。それに、組み分けに関しては昨日も話したばかりだ」
「そうだっけ。昨日は朝起きれるか緊張してて、リドルの話半分も聞いてなかった」
大げさなため息をついて本に目を落とすリドル。
わたしも口に残りのカエルチョコレートを放り込んで、変身術の教科書を開いた。
「きみは」
「へっ?」
唐突にかけられた声に慌てて顔を上げると、リドルは本から顔を上げないままでもう一度問いかけた。
「きみは、どこの寮にするつもりなんだ」
するつもり、って…。自分で決められるわけでもあるまいし、と思いながらも、
「グリフィンドールかレイブンクローがいいなあ」
ダンブルドアも似合うって言ってくれたし、と付け加えて答える。
「ハッフルパフがいいとこだ」
そう皮肉っぽく答えるリドルは一度もこちらを見ようともしないけれど、どこか拗ねた様子だった。
「もしかして、スリザリンに一緒に来て欲しかったの?」
「そんなわけあるか」
即答で返ってきた返事にはいはい、と返してわたしも教科書に目を落とす。
わたしたちは心地よい沈黙に身を預けつつ、どこかばたつき始めた車内に、ホグワーツが近づいてきた予感を感じていた。
ホグワーツに着くと、そこにいたのは他でもないダンブルドアだった。
「入学生諸君、慣れない道をご苦労じゃった。今からきみたちを組み分けせねばならんから、ちゃんとついてくるように」
その言葉のままについて行くと、そこには寮ごとに分かれたテーブル、そして古ぼけた帽子が置いてある。
「言ったろう。あれをかぶるんだ」
そう耳打ちしてくるリドルはすでにスリザリンのテーブルへと目を向けている。
次々と名前を呼ばれて行く中、
「トム・リドル!」
とリドルが呼ばれた。
「先に行く。きみがスリザリンと望めば、きっとそうなるんだ」
リドルはそう言葉を残すと、壇上に上った。
組み分け帽子はリドルの頭に触れたかどうかというところで、鋭く「スリザリン!」と叫ぶ。
彼は口元に笑みを浮かべてスリザリンのテーブルへと足を進めたけれど、刹那、わたしをちらりと見つめた。
スリザリンと望めばスリザリンに入れる?
彼の言った言葉が頭をぐるぐると回る。
組み分けは帽子に任されているはずなのに。
そう考えているうちに、「ナマエ・ミョウジ!」と高らかにダンブルドアがわたしを呼ぶ声が聞こえた。
わたしが階段を上ると、ダンブルドアは出会った時と同じく目をきらきらとまたたかせながら椅子を指す。
「きみが、望むところへ入れるのじゃよ」
そうダンブルドアがささやいた気がしてハッと顔を上げたけれど、ダンブルドアは名簿に目を移していた。
そっと帽子をかぶせてみる。
その途端だった。
「きみは迷っているね!」
唐突に帽子に話しかけられ、わたしはびくりと肩を揺らす。そんなわたしを気にも止めずに、帽子は語り続けた。
「きみは思いやりがあり優しい心を持っている反面、度胸があり忍耐強くもある。これから学んでいけば機知に富んだ才女にもなるだろう。きみはどこに行っても成功するが、どこに行っても何かを手放さなければならなくなる。さて、どこにするかね。わたしとしては、グリフィンドールかレイブンクローがおすすめだが」
「…スリザリンは?」
小さな声で問いかけた。すると、帽子がむむむ、と唸り始める。
「本当に、きみ自身が、それを望んでいるのかね?」
それは、本当のところ、ちがった。
ただ、リドルの目が頭から離れないだけだったのだ。
「きみの心は…そう、これを望んでいるとわたしは確信している。グリフィンドール!」
ワッとグリフィンドールのテーブルから歓声が上がった。そちらへ微笑みかける中、ちらりとスリザリンのテーブルへと視線を向ける。
そこには、ありありと失望の表情を浮かべたリドルがいた。
そしてその表情はすぐに立ち消え、隣の新入生らしき女の子と笑みを浮かべて会話を始めていた。
蕾にさえなれないままで
淡い期待は。