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Chapter1-3
裏庭にある木の、太い枝に、彼は腰掛けていた。
彼はわたしの姿をみとめると、ひょい、となんてことないように木から飛び降りた。
しかし、その枝はわたしが見上げるほど高く、大人でさえ飛び降りることはやめたほうが賢明だと言えるだろう。
わたしたちのような子どもならなおさら。くしゃくしゃの雑巾になりたくなければ。
彼は無作法にわたしを上から下まで眺めると、ふんと鼻を鳴らした。
誰がされても腹をたてるようなその仕草は、例外なくわたしのことも苛立たせた。
「まずは自己紹介から始めるべきよ」
腕を組んで口火を切ったわたしに、彼は少し眉を引き上げた。もしかしたら、今まで彼にこういった女の子はいなかったのかもしれない。
「もう知っているだろう。あのうるさいネズミたちが、きみに色々と吹き込んだはずだ」
「そりゃ知ってるわよ。でも、それでわたしとあなたの親交が始まったことにはならないはずよ」
親交ねえ、と彼はつまらなそうに言った。彼はまるで、口の中で飴玉を転がすように言葉を扱う。
「僕はリドル。トム・リドルだ」
彼はそう名乗ると、わたしを裏庭にある小さなベンチへと連れ出した。座る時、わたしの場所にハンカチを広げるくらいには紳士のつもりらしい。
彼―リドルと呼ぶことにする―は、回りくどい世間話を挟む気はなさそうだった。
「きみがその力を自覚したのはいつから?」
と、詳しく聞きたがった。わたしが彼の前で手のひらに花を開かせると、彼は満足げな表情を浮かべたけれど、しかし同時に失望してもいるようだった。
「僕ならその力をもっと別のことに使える」
ビリーの兎が首吊りしているのが見つかったのはその晩のことだった。
ふたりのはじまり
きっと、きみには僕しかいない。