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Chapter1-2
わたしが彼と出会ったのは―というより、初コンタクトを果たしたのは―なんの変哲もない、毎朝恒例の子供達、職員揃っての朝食のときだった。
朝の弱いわたしは、牛乳のかかった甘みのないコーンフレークをかき混ぜていた。
すると、不届きものはどこにでもいるもので、こっそりとわたしの皿に乗せられた滅多に出ないフルーツのイチゴを攫おうとしているベンに気づく。
手で払いのけるのも億劫で、すべって転んでしまえ!といささか過激なことを念じていると、ベンは見事に床に溢れていた水で足を滑らせ、彼の持っていた牛乳がたっぷり入っているコーンフレークのボウが見事にベンの頭にすっぽりとかぶさっている。
彼はあえなく職員たちに回収され、シャワー室に閉じ込められた。
わたしは朝の憂鬱がいくらかは晴れ、ボウルにイチゴを浮かべた。
そうしてそれをすくって口へ運ぼうとした時、
「きみ、さっき”すべって転んでしまえ”って考えた?」
と、隣に座る男の子が何でもないような口調で、しかし目だけはまるでわたしの心を透かし見るかのような不思議な色を浮かべて、わたしを覗き込んだ。
わたしはその言葉に思わずイチゴを牛乳の中にとり落とし、あんぐりと口を開けて彼を見つめた。
どうして。もしかして、口に出ていた?
目を白黒させながらわたしがそう考えていると、
「いいや。口には出していないけど」
とまるでわたしの考えを読んだかのように返事が返って来る。
「ここで話すのもなんだし、11時に、裏庭で会おう」
彼は幼い容姿に似合わない、まるで大人同士のように時間を指定し、待ち合わせを決めてしまった。
そうしてわたしの返事を待たず、さっさと自分のトレーを片付け始めてしまう。
わたしの右隣に座っていたダコタが、興味津々で「いまトムと何を話していたの?」と聞くまで、わたしは彼の名前すら知らなかった。
そんなに人数も多くない孤児院で、なぜわたしが彼を知らなかったかというと、ひとえに接点がなかったからだ。
しかし、わたしが知らなかっただけで、彼はこの孤児院の中で最も有名といっても過言ではないような男の子だったらしい。
子どもたちは彼を恐れていた。彼には”不思議な力”があるというのである。
彼の話をし始めると嬉々としてみんなが語り始めたため、わたしは詳しく聞き出す必要もなく彼のプロフィールを手に入れていた。
「そんなに彼の話をするのが好きなら、友達になるといいのに」
わたしがそういうと、誰一人としてそれを肯定せず、むしろ「ナマエは知らないからそういうんだ」と反発を食らった。変な子たちだ。
「こんなことしてるうちに11時だわ!もう行かないと!」
そういったわたしの背中にかけられたのは、「うさぎにされないように気をつけろよ!」という心配なんだか面白がってるのだかわからない言葉だった。
それはぼくらの特権
その名前は、”魔法”。