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Chapter1-prologue

なんて寒々としたところなんだろう。

わたしがこの場所に足を踏み入れて、最初に思ったのはそれだった。

季節は春、常に灰色の天気模様のイギリスといったって、日差しがあたたかい日はもちろんある。
でも、ここにはそんな光すら届かないように思えた。

花壇には花一つ植えられておらず、いつから手入れされていないのだろうかと思えるくらい、庭は雑草に覆われていた。
わたしと手をつなぐ、祖母の長年の友人だった役人のおじいさんは、しきりにわたしを覗き込む。

「大丈夫かい。さみしかったら、いつでもおじいさんのところに来るといい。役場の場所は知っているね」

その言葉を聞きながらも、わたしは知っていた。一度ここに入ったら、そんな自由はないだろう。

けれど、頼れる親戚のいないわたしを引き取ろうとし(流石にそこまでしてもらうのは断ったのだけれど)、ここまで連れてきてくれたおじいさんの優しさを無碍にはできるはずもなく、わたしは笑みを浮かべて頷いた。



そうしてわたしが預けられたウール孤児院は、一言でいうと、最悪というより他ない。

「なんてことなの!」

わたしがそう叫ばなければならない出来事が、一日に数回起こる。
それは、おてんばな―そして一切孤児院の職員たちが注意どころか関心すら持たない―男の子たちがわたしの持ち物を隠したり、時にはそれが帰ってこないことすらある。

女の子は味方もいるけれど男の子に混じっていたずらをする子も多く、目が当てられないような状況だった。
わたしだっていたずらは好きだけれど、限度というものはある。ひとに迷惑をかけてはいけない、と、わたしの偉大な祖母に教わったからだ。

しかし、わたしもただやられているわけにはいかなかった。

偉大なる祖母がわたしに教えたもう一つのことを、わたしは忠実に実行に移したからである。

けんかをふっかけられたら、十倍返し。

祖母が生きていた頃、わたしは貞淑なレディになるためにたくさんのしつけをされたものの、「自分の身は自分で守る」がモットーの祖母は、わたしが近所の男の子にからかわれた時、自分でやり返すことを許可した。
そうしてわたしは近所で一番体が大きく、また性格も同じく一番ひん曲がったビックJを、口げんかとちょっとした取っ組み合いで根性を叩き直し、とうとういわゆるガキ大将にまで上り詰めたのだった。

その時と比べたら、年齢もバラバラ、まだまだ喧嘩というもののけの字も知らない男の子たちをねじ伏せる事など簡単なのだった。
そして、わたしは不思議なことに、強く願うとそれが叶ってしまう。あの、わたしのヘアピンを盗んだミランダの足に積み木が落ちますように!とか、そんな風に。

わたしはその不思議な”偶然”すら味方につけ、みるみるうちにわたしは孤児院の悪ガキたちから一目置かれる存在となった。

孤児院の職員たちには問題児の烙印を押されてしまったけれど、わたしには何の落ち度もない。たまに会いにきてくれる役人のおじいさんは、職員たちの愚痴に肩身を狭くしているようだったが。

そうしているうちに、あっという間に一年が過ぎ、わたしが初めてここにきた季節がもう一度やって来る。

わたしが”あの男の子”と出会ったのはその時だった。

ひとさじの春がここにあって

”あの男の子” / “The boy”
どこにも咲かない花はここにのみ咲くようで。

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