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Chapter5-4

ホグワーツに、どこまでも夏の太陽のような男の子が入ってきた。

ジェームズだ。
ユーフェミアが「あっというま」と言った言葉は正しく、彼はいつのまにかホグワーツからの手紙が届く年齢になっていた。

彼はホグワーツに入学した途端、誰しもに知られる存在になった。

ジェームズが所属するグリフィンドールの寮監であるミネルバは、ジェームズの相棒であるシリウスと合わせて「あの二人ほど手の焼ける生徒は初めてです」とため息交じりに言っていたものの、そんな彼女も彼のことを憎めはしないようで、時折気にかけている姿が見られた。

「ナマエ!」

廊下を歩いていると、名前を呼ぶ声とともに父親譲りのくしゃくしゃの髪をしたジェームズが後ろから手を振って走り寄って来る。
もうすでにわたしの身長を越してしまったジェームズはわたしの隣にぴったりと体を寄せると、手を取ってまるでエスコートするように歩き始める。

その後ろには、安定の面々と言っていい三人が飽きれ顔をしてついてきていた。

「ジェームズ、学校では先生をつけなさいって言ったでしょう。忘れた?」

「はいはい、先生。さっきの僕を見てた?一発であれを決めたのは僕とシリウスだけだった」

彼らのひとつ前の授業は他でもない、わたしの闇の魔術に対する防衛術だった。
彼はただいたずら好きなだけではなく、生来の魔法のセンスを持っていた。成績は常に上位に入っていたけれど、彼自身が勉強に身を入れないせいで首位はその都度顔が変わっているのだった。

「あなたがセブルス・スネイプに鼻呪いをかけたのは見たわ。わたしの授業中にまでひどい呪文を彼にかけるのはやめてちょうだい」

彼がいつもセブルス・スネイプにひどいいじめをしていること、そしてそれがリリー・エバンズをめぐっての嫉妬からよるものだということを、わたしは知っていた。

彼とシリウス・ブラックがセブルス・スネイプを囲んでいるのを見たときは必ず止めているものの、わたしがいつも見ていられるわけでもない。

実際、今日もわたしが授業中ボードに文字を書くため背中を向けている間に、ジェームズが彼に呪文をかけていたのだ。

リリー・エバンズがすぐにフィニートを唱えていたものの、彼女もまだそれを習得していないのか彼の鼻にはまだできものが残っていた。

わたしが無言呪文でフィニート・インカンターテムを唱えていなければ彼のできものはじわじわと顔中に広がっていただろう。

わたしの言葉を聞いたジェームズはパッとわたしから離れたかと思うと、わたしの行く道を塞いだ。反省した顔をするのかと思ったら、彼は納得いかないような表情を浮かべている。

「ナマエはいつもあのばかげたスニベリーの肩を持つ!僕の名付け親だっていうのに!」

その幼い憤慨に、わたしは呆れてため息をついてしまった。なるべく彼自身を否定せずに注意したかったが、お手上げかもしれない。
フリーモントとユーフェミアは、遅くに生まれた一人息子を溺愛し、言ってしまえば必要以上に甘やかして育てていた。わたしはそれを時折たしなめたけれど、わたし自身子どもがいないだけあって彼らに口出しするのをためらったのもあり、強くは言えなかったのだ。
それに、幼い頃から見守り続けた彼はわたしにとってもかわいい息子同然だった。

わたしはジェームズのあちらこちらにはねた髪を撫でると、なるべく穏やかに言った。

「あなたはわたしのかわいいジミー坊やだけど、あなたが誰かにひどいことをするのは許せないわ。わかってくれるわね」

その言葉にすっかりしょげてしまった彼のことは彼の友人たちがなんとかするだろう、と丸投げしてしまい、わたしは自分の部屋へと急いだ。

午後にも授業は入っているのだ。

そうしてやっと着いたわたしの部屋の前に誰かが立っているのに気づいた。

そのプラチナブロンドの髪にはよくよく見覚えがある。

「……ルシウス」

わたしがため息を我慢しながら名前を呼ぶと、彼は振り向いて気障ったらしく軽く会釈した。

「これはこれはミョウジ先生、今日もお元気そうで」

疲れ切っているのがわかるだろうに、彼はそう言うとわたしの部屋のドアを開けてまるでエスコートするように入るよう促した。わたしの部屋だと言うことを都合よく忘れたようだ。

「どうしたの?何か質問?」

わたしに続いて当然のように入ってきたルシウスに仕方なく紅茶を淹れてやると、彼はわたしの机に向かい合うようにして椅子を呼び寄せて座り、優雅にそれを飲んだ。

「父が、よくご機嫌伺いをするようにと」

わたしはついにため息をついてしまった。誰もわたしを休ませてはくれない。

「じゃあ、ご機嫌伺いついでにわたしのお願いを聞いてくれる?あなた、もう監督生よね」

「スリザリンの、ね」

彼はそうさりげなく言うことで、首を突っ込むのはスリザリンの範疇内のみ、と釘を刺して来る。

「そう、どんぴしゃでスリザリンのことよ。あなたの後輩のセブルス・スネイプのこと」

彼はそれがどうした、とでも言いたいのか眉を上げてみせる。貴族としての生まれのせいなのか、彼は何をしても気障ったらしい。

「よくよく面倒を見てあげてね。彼には勉強以外にも憂いごとがたくさんあるの」

「ミョウジ先生はいつも、他の生徒よりよっぽど付き合いの長い私”以外”を気にかけているようだ」

ことさら”以外”を強調して彼が言ったのは、まるでさっき聞いたような台詞だ。

「あなたまでそんなこと言いださないでよ…もう…」

しかし、側から見ていてもそつのなかったアブラクサスと違い、ルシウスは普段接している分もあるかもしれないけれど時折かわいいところを見せるのだ。
アブラクサスとの手紙のやり取りの中で、ルシウス自身が書いた手紙が添えられていることがあった。
幼い頃から知っていると言う点では、実際会っていたジェームズには劣るもののルシウスの成長をわたしは折々で手紙を通して見守っていたのだ。情がないわけではない。

「あなたのことも大事に思ってるのよ。でも、くれぐれも彼のことよろしくね。わたしの頼りはあなただけよ」

よしよし、とその頭を撫でてやれば、ちょうど紅茶を飲みきったルシウスはどことなく満足げに部屋を去っていった。ルシウスなら、スリザリンの寮ででも彼を気にかけてくれるだろう。

あとは、彼らが闇の魔術に傾倒しすぎなければいいけど――。

さすがに、授業を受け持っているだけのわたしでも、スリザリンの中に”ヴォルデモート卿”の思想に走り、闇の魔術に足を踏み入れる生徒がいるのは知っていた。
しかし、それが一過性のものであれば、まだ見逃しておけるのだ。純血主義思想の蔓延するスリザリンでは、ある程度は仕方ないことだと思えるから。

しかし、デスイーターになりたい、なろうとする生徒は正しい道に導かなければならない。

ルシウスも、わたしにとっては危うい生徒の一人だ。父であるアブラクサスを知っていることもあって。
けれど、信じていたかった。彼が時折見せる面倒見のよい、そして少し気の弱いところが、彼を踏みとどまらせるのではないかと。

そうして、わたしの中で最も危ういと言えば、他でもないセブルス・スネイプだった。
彼が混血ということもあいまって、わたしは彼をトムと重ねてしまっていた。

どこもかしこも似ても似つかないのに。

もしかしたらわたしは、トムと彼を重ね、そして彼を救おうとすることによって、許されたいのかもしれない。

トムが、”ヴォルデモート卿”として人々を恐怖に陥れているというのに、わたしはそれを止めようともせず、逃げた先のここでぬくぬくと日々を過ごしていることを。

語れる未来があるのなら

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