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Chapter5-3

わたしは久々に、ホグワーツ以外のところにいた。

フリーモントの家だ。
彼の家はポッター家が代々住み続けているゴドリックの谷にあり、純血の一族の家の例に漏れず広々として豪華だった。

わたしが彼の家に来たのはこれで数度目になるけれど、今回はとびきりのお祝いごとなのだ。

「おめでとう!フリーモント、ユーフェミア!待望の男の子ね」

そう、彼らが待ち望んでいた、二人の子どもが生まれたのだ。
彼らがなかなか子どもに恵まれないことは、わたしも知っていた。ユーフェミアから相談の手紙が来たり、フリーモントにいたっては自分で子どもができやすくなる薬を作る!と言ってわたしに助言を求めたりして来ていた。
しかし、比較的長寿とされる魔法使いの中でも遅咲きで、彼らは子供を授かったのだった。

「ナマエ、今日きみを呼んだのは他でもない。出産祝いをもらうためだ」

「もう!フリーモント、違うでしょう。ナマエ、わたしたちはあなたにこの子の名付け親になってほしいのよ」

それはわたしにとって他でもないお願いだった。しかし、本当にいいの?と問いかけると、フリーモントはすでに父親の風格のある大らかな笑い声と共に言った。

「きみなら、僕の息子を何があっても助けてくれるだろう。なんて言ったって、闇の魔術に対する防衛術の教授なんだから」

それに、これがなによりの理由だが、きみは僕の大親友だ。

そう付け加えられた言葉にわたしは思わず我慢していた涙をこぼしてしまい、二人に思い切り笑われてしまった。
ぎゅうぎゅうと両側から抱きしめてくる二人を、手の届く限り思い切り腕に閉じ込めた後、わたしはすでにフリーモントによく似た髪をしている赤ちゃんを抱いた。

「実はわたし、彼の顔を見た途端に思いついた名前があるの。……ジェームズ。どうかしら」

「ジェームズ!僕たちの息子にぴったりだ。僕は気に入った。きみは?ユーフェミア」

「わたしも気に入ったわ、わたしのかわいいジェームズ」

ユーフェミアが愛情たっぷりにそう名前を呼ぶと、ジェームズはふにゃりと笑った。

かくして彼の名付け親となったわたしはフリーモントとユーフェミアの熱烈なお誘いに毎度乗ってしまい、以前より頻繁に、それこそ季節の折ごとに彼らの家を訪ねるようになった。

年々成長していく彼は、遅くにできた一人息子ということもあり両親にそれはそれは可愛がられて、やんちゃで愛嬌のあるわんぱく坊やになった。

しかしそんな彼もわきまえているのかそれとも両親に言い含められたのか、わたしに会うと律儀に「ナマエ教授、今日もきれいだね」と頬にキスをしてくれる。
そのあとは「ナマエ!クィディッチのパートナーになってよ!」とローブの裾を引っ張ってくるのだけれど。

彼がもう一人で箒に乗って遠出し始めた頃、ユーフェミアが「そろそろジェームズもホグワーツねえ」と頬に手をやって話し始めた。

「気が早いわよ、ユーフェミア」

「そんなことないわ!きっとあっという間よ」

「ホグワーツ、懐かしいなあ。戻れるものなら戻りたいものだ」

きみは毎日がホグワーツだろうけど、とフリーモントは付け加える。
そこから話はわたしたちの学生時代になった。

「わたし、いつトム・リドルとナマエが結婚式に招待してくれるのか、今か今かと待っていたらこんな歳になってしまったのよ!」

あなたはホグワーツを出た時から全く変わってないように見えるけど、とわたしの頬を撫でるユーフェミアは、子どもが一人いるとは思えないほどの可憐さを保っている。
しかし、わたしはトムの名前を聞いた途端動揺してしまい、口元がこわばっていないか思わず唇の端に手をやって確かめた。

「そうだそうだ、きみとリドルが一番にプロムから姿を消したから、僕は賭けに負けたんだ」

そう唇を尖らせるフリーモントに対して、ユーフェミアはころころと笑っている。聞くと、グリフィンドールの面々で、当時のホグワーツ内でのカップルの誰が一番にプロムから抜け出すか賭けをしていたらしい。

「僕は自分に賭けてたんだ。ユーフェミアを一番に持ち帰る自信があったからね」

そうしたらきみたちがあっという間にいなくなるから、というので、わたしは思わず赤面した。

「でもあなた、あの時わざとトム・リドルをけしかけたでしょう」

「あれは普段、リドルのやつが僕を睨むから…」

「トムがあなたを睨んでたって?」

ユーフェミアとフリーモントの会話に思わず割り込んで聞くと、フリーモントは気づいてなかったのか?と訝しげに聞いた。

「ユーフェミアとは寮が離れていたから、移動教室はきみ、大抵僕といたろう。そんな時、リドルとすれ違うたびに彼、すごい顔してたよ。彼と会うたび、僕はグリムにあった気分だったんだから」

彼の例えに思わず笑ってしまったものの、彼の話はにわかには信じられなかった。
トムはわたしとすれ違っても、眉を一瞬吊り上げるのがいいところで素知らぬふりをしていたからだ。

「プロムの日、それの仕返しをするつもりで声をかけたのに、あんなにすぐ出ていくなんて思わなかったよ。あれは面白かったなあ」

「バカね、あの時はただ外に出て話をしただけよ」

そう言いながら誤魔化すように紅茶を飲んだわたしを、二人はにやにやと締まらない顔をして見つめてくる。
すると、いつの間にか帰ってきていたジェームズがわたしの肩を抱いた。

「ナマエ、もし僕が大人になってもナマエが結婚してなかったら、僕がもらってあげるね」

そんなことを言ってわたしの頬にキスをするものだから、フリーモントとユーフェミアはここぞとばかりにお腹を抱えて笑い始めた。



わたしはホグワーツに戻ると、フクロウ便が運んできた手紙を開けた。
それは高級なのが一目でわかる封蝋でとめられ、美しい飾り文字で宛名が書かれている。

アブラクサスだ。
わたしがいま闇の魔術に対する防衛術を担当しているのは、このポストに就いてから公然と知られているため、時折ホグワーツのわたし宛に手紙をよこしてくる。

わたしとしてはもうあまり関わりたくない相手なのだけれども、彼にはジェームズより数年先に生まれたルシウスという息子がいた。

つまり、将来的に―というより、それはもう一年後に迫っている―このホグワーツに入学する息子に、アブラクサスの言葉を借りれば「格別のご高配を」ということなのだ。

彼からの手紙が来るたびに、わたしは堅苦しい思いに加え、あの晩のことを思い出してすっかり気が滅入ってしまう。

アブラクサスはまだ、トムとの関係を続けているのだろうか。あのような殺人を黙認した―そして、彼自身もきっと手を染めているだろう―、その上で息子を愛することのできるアブラクサスは、トムよりずっと器用なのではないだろうか。

そんなことを考えてしまうので、もう二度と手紙が来ませんように、と願いながらアブラクサスがよこしたフクロウに手紙をくくりつけるのだった。

そこにある幸福/まわりくどい共犯者

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