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Chapter4-5

部屋に入ってくる日差しに、わたしは目を覚ました。

まるで昨日起こったことが嘘だったように、窓から入ってくる光は明るい。

けれど、首に下がってカチャ、と金属が擦れる音を立てるロケットが、そんな都合のいい錯覚をかき消してしまうのだ。

わたしは唱えてしまった。あの、忌まわしい呪文を。
どうしようもなく恐ろしくて、わたしはベッドの上で自分の体を抱きしめる。わたしは人を一人殺めたのだ。この手で。
何かを失ったような胸をすかす感覚が拭えなくて、わたしは自分の膝に額をすり寄せる。

わたしはどこで何を間違えたのだろう。

トムがマートルを殺したのではないかと疑っていた時に、離れたらよかった?それとも、もっと前、孤児院で――。

そんなことを考えていると、わたしの部屋のドアノブががちゃりと音を立て、そのまま開いた。

「ナマエ、目を覚ましたんだな」

そう声をかけるトムの表情がいつもと変わらないせいで、また何も起こらなかったという錯覚に陥りそうになる。わたしは確かに、昨日杖を握っていたのに。

「…顔も見たくないわ、出ていって」

わたしは膝を抱えたままそう呟くように言うと、トムから顔をそらす。今は何も考えたくなかった。

しかしトムはそれを許さず、勢いよくわたしに近寄るとわたしの頬を掴んで顔を強引にトムに向け、鼻先がふれあいそうなほど顔を近づけてきた。

「全てきみのためだ。なぜ理解しようとしない?確かにきみは昔から”道徳的”なことが好きだった。だが、僕との結びつきの方がはるかに深いはずだ。知らないマグルの一人や二人殺した程度で、きみは僕を突き放すのか」

「当然じゃない!わたしとあなたが家族同然なのと、人を殺すことは全く関係ないわ。人殺しを理解しろだなんて、あなたはどうしようもなく狂ってる」

そう言い返すわたしの手は膝の上で震えていた。その震えを止めようともう片方の手を重ねるけれど、それは止まらなかった。
わたしのためと言って、人を殺させる彼が怖かった。それを一つも悔いていないことも。

「僕の隣にいれば、きみは必ず狙われ、そして弱いナマエは簡単に命を落とすだろう。分霊箱さえあれば、魂は生きながらえる。僕ときみは永遠に一緒にいられる」

彼は自分の首にかかった血のように真っ赤なルビーのネックレスを指した。それが、昨日女性を殺したわたしの分霊箱とでも言うように。それは彼の首にかかった返り血のように見えて、わたしは直視できなかった。

あの男の子は、わたしたちのような両親を亡くした子どもたちとは違って、自分のために命を投げ出すような母親がいた。もしかしたら、父親がいるかもしれない。消えていなくなった二人を、懸命に探しているかもしれない。

そんな二人の命が、わたしと彼を生きながらえさせるというのだ。

わたしはトムの、すっかり真っ赤に染まってしまった目をきっと睨んで静かに言った。

「残酷なあなたと一緒にいるくらいなら、わたし、死んだほうがましだわ。他の人の命を奪ってまで、生きていたくなんかない」

トムは目を見開き、平手を振り上げた。ぶたれる、と反射的に目をつむったけれど、その衝撃が来ることはなかった。おそるおそる目を開けると、トムは振り上げた手を握りしめ、力なく落としていた。

人を、いとも簡単に殺してしまえるのに、目の前のわたし一人をぶつことができない、彼の矛盾に胸が苦しかった。

強く掴んでいたことできっと赤くなっているであろう頬を、トムは労わるように撫でた。その手を何度払いのけても、トムはやめようとはしない。

強引にすることもできるだろうに、トムはゆっくりと顔を近づけて、口づけを落とした。顔を背けても、何度もなんども。

「トム、やめて」

わたしの拒絶の言葉も、小さく弱々しかった。強く言わなければいけないのに。彼のしたことは、そしてわたしがしたことはどこまでもゆるされないことだったのに。

彼はキスを降らせるのをやめると、わたしを閉じ込めるように抱きしめて、首筋に唇を寄せた。どこにも行かせる気はないくせに、そうやってすがるような仕草を見せる。

わたしはどうしてしまったのだろうか、幼いときのわたしなら、彼のしたことを徹底的になじり、頬を叩いて、そのままこの家から飛び出していただろう。後先も考えず。

わたしたちはいつのまにかお互いの存在に、自分以上の価値を見出していたのだ。根深い依存はお互いを破滅させるだろう。

彼のくちびるは、わたしの体の線をなぞるように下へ降りていく。

「ナマエ、…僕のそばに」

わたしはここにいるというのに、うわごとのように囁くトムは、いつだかの迷い子のような顔をした彼に似ていた。

わたしが天井を見つめている間に終わったそれは、トムにとっても安心をもたらすものではなかったようだ。
トムは何かを噛み殺すかのような表情で、

「すぐに帰る」

と言い残して扉を出た。外で姿現しをする音が聞こえたので、どこかへ出かけたようだ。

わたしは眠りすぎてだるい体を起こすと、ベッドから立ち上がった。

トムが帰って来る前に、わたしは行かなければ。

還るすべを知らなくて

なぜか幼かった頃のあなたが浮かぶ、そんな昼下がり。

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