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Chapter3-3

マートルの事件から数ヶ月経ち、わたしたちはあの必要の部屋でのことから一度も話さないままに夏休みを迎えた。

しかし、いつも一緒に乗り込んでいたホグワーツ特急のコンパートメントに、リドルの姿はなかった。

「ナマエ、リドルは良かったのか?」

「大丈夫よ、きっとどこかのコンパートメントにファンたちと乗っているでしょう」

わたしがそういうと諦めたのか、フリーモントはわたしをグリフィンドールで占められたそのコンパートメントに入れてくれた。

「ナマエ、最近元気なかったら心配してたのよ」

金髪の髪を一つにまとめたエルはクィディッチでチェイサーをしている。特定の誰かと常に一緒にいるわけではないわたしも、エルとはよくご飯を食べたりしていた。

「エル、ナマエは”ふくろう”が心配だっただけさ」

「もう!フリーモント、茶化さないで」

なんだかんだグリフィンドールの面々といると、最近の憂鬱な気分が晴れ、いつの間にか笑ってしまっている。

「ナマエ!今年はぜひ、僕の家に遊びに来てくれ。クィディッチチームのみんなも招待してるんだ!」

キングズ・クロス駅に着くと、フリーモントはそう快活に声を上げた。わたしはみんなに手を振ると、リドルと一緒に孤児院へのバスに乗ろうとリドルを待つ。

しかし、リドルの姿を見つけることはできなかった。


結局ひとりで孤児院に帰ったわたしは、ミセスコールにリドルはまだ帰っていないと聞き、もしかして必要の部屋でのあの一件で、わたしと顔を合わせたくないのかと思い始めた。

けれど、リドルのことだから「きみとのキスなんて犬に噛まれたようなものだ」と自分で仕掛けたくせにそう言うのだと思っていた。

わたしは彼が怖い。マートルを殺したのも、彼ではないと確信もって言うことはできない。

けれど彼はわたしにとって、この孤児院で”不思議な力”について秘密を分け合った時からずっと家族であり、友人であり、唯一の存在なのだった。

彼の帰りを待ち、与えられた部屋からもう月の出ている窓の外を見ていると、土砂降りの雨の中こちらへ歩く影があった。

わたしはいてもたってもいられなくなり、階段を駆け下りて傘を掴むと、玄関から飛び出してその影へと走る。

その影はやはりリドルで、しかしその目は力がない。びしょ濡れのままのリドルに傘を差しかけると、彼は胡乱そうにわたしに目を向けた。その手には、見慣れない指輪がはめられている。

「どこに行ってたの?こんな時間まで」

「きみには関係ないことだ」

鬱陶しそうに傘を払いのけようとする彼に無理やり傘を持たせ、背中を押して孤児院に入る。職員も子どもたちも部屋にいるのか、それとも寝てしまったのか、玄関は真っ暗だった。

「わたしに関係なくても、風邪引いたら困るでしょう!タオル取ってくるから待ってて」

「ナマエ」

わたしは急いでバスルームに行こうとしていたのに、彼が一言名前を呼んだだけでそこに立ち止まってしまった。まるで魔法をかけられたようだ。未成年はホグワーツの外で魔法が使えないと言うのに。

リドルは名前を呼んだっきり、何も続く言葉がないようだった。先ほどまでの殺気立った―こんなことを言いたくはないけれどまるで、人を殺した後かのような雰囲気はまるで立ち消え、そこにいるのはリドルが幼い時でさえ見せなかった、迷子のような、幼い子どもが母親を失ったような表情をたたえたリドルだ。

「ああもう!バカ!」

わたしは勢いでそう言うと、リドルがびしょ濡れなのもそのままに手を引いてわたしの部屋へと連れて行った。明日、雑巾を絞らないままに引きずったような跡が廊下に残っているだろう。ミセスコールは十中八九鬼のような表情を浮かべるはずだ。

でも仕方ない。リドルが打ち捨てられた犬みたいになる日など、もう来ないはずだから。

わたしの部屋の木の椅子に座らせたリドルは大人しくなったため、わたしはとりあえず大きめのバスタオルを取ってくるとリドルの薄手のコートを脱がせ、彼をタオルで思い切り拭いた。

気分は大型犬の飼い主だ。

コートを甲斐甲斐しくハンガーにかけて窓際に干すと、流石に彼の服を脱がせるほどにわたしは無頓着でもないので、彼の部屋から適当な服を見繕ってわたしの部屋に投げ込んだ。「1分で着替えなさい!」

言葉の通り、とはいかず五分ほど待ってもう一度部屋に戻ると、リドルはきちんと自分のびしょ濡れの服を窓の近くに干し、わたした服に着替えて髪をタオルで拭いていた。

そして木の椅子に座ったまま、しばらく俯いていたものの、リドルには珍しく小さな声で話し始めた。

「僕の、父に会った」

一言目から衝撃を受けたわたしは思わず口に手をやった。

わたしは両親が死に、唯一の親戚だった祖母が亡くなったためこの孤児院に来たけれど、リドルの父親が生きていたなんて。

「僕の母は、父に惚れ薬を飲ませて僕を孕んだ。そうして、薬の効果が切れた父親に捨てられ、僕を産んだあと母はあっけなく死んだそうだ」

リドルは吐き捨てるようにそう言うと、くしゃりとズボンの布を握りこむ。わたしは手を伸ばして彼のこぶしに重ねたけれど、それが彼にとって少しの慰めにでもなっているのかは分からなかった。

「僕の名前は父親の名前そのままだ、トム・リドル、愚かな母を捨てたマグルの父親と一緒、反吐がでる」

「あなたのお父さんとあなたは違うでしょう、リドル。あなたを産んだご両親に感謝しなさいとは言わないけれど、あなたの名前は素敵よ」

リドルは認めないだろうけれど、わたしには彼が悲しみであふれ、心から傷ついているように見えた。まだ濡れたままで冷たいリドルの背中に手を回すと、彼をそっと抱きしめて知らぬ間に成長して随分広くなった背中を撫でる。

「きみの、そういう偽善者っぽいところが、出会った時から気に食わなかったんだ」

リドルはそう強がりを言いながらも、わたしの背中に手を回す。

「わたしは、あなたのそういう素直じゃないところが昔から好きよ」

わたしは、もしかしたら逃げているのかもしれない。リドルがマートルを殺した犯人かもしれない、と考えることから。

でも、今はこの腕の中で確かにあたたかいリドルを、信じていたかった。

真夜中まであと少し

だれかを××したこの腕できみを抱く。

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