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Chapter3-2
マートルを悼み、マートルを殺した犯人を恐れていた生徒たちは一気に歓喜の声を上げた。
特別功労賞を受け取ったリドルはそれまでの評判と相まってまるで英雄のように祭り上げられていた。
彼の周りを取り巻く生徒たちはみな彼をほとんど熱狂的に、まるで崇拝するように支持していて、それはもはや宗教的と言っても過言ではなかった。
そんな中、わたしはダンブルドアに呼ばれて部屋を訪れていた。
「最近のトム人気は、まるで神を崇めるようだね」
そう言って笑みを浮かべるダンブルドアの目は、わたしを捉えたままだ。
「きみもそのひとりかね?」
そうではないとわかっているだろうに。最近はまともに話さえできていないのだ。
「彼に片思いしている女の子たちは多いでしょうね」
「しかし、彼は愛を知らぬ。何度愛を説いてもそれを信じようとはせぬ」
ダンブルドアとリドルが、時折二人で何かを語っているのは知っていた。そのあとは決まって、リドルが苦々しい顔をしているから。
「単刀直入に言うが、私はトムが、マートルを殺したのではないかと疑っているのじゃ」
知っていた。あの日わたしがダンブルドアの部屋に呼ばれたことが、わたしの中でまだ尾を引いていたのだ。
「わたしに、何をしろと?」
わたしは、いささか挑戦的とも取れるであろう目でダンブルドアを見返す。まだ、迷っている。幼い頃から知っているリドルが、まだわたしの中で消えない。
「きみは、きみがすべきだと思うことをするのじゃ」
いつでもきみの考えを聞かせてくれるのを待っておる、と付け加え、ダンブルドアはそれ以上何も言わなかった。
わたしもそれに何かを返せないまま、ダンブルドアの部屋を後にした。
すると、そんなわたしを呼ぶ声が聞こえた。
「ミョウジ、きみを探していたのに」
リドルだ。今日もまた女の子たちとスリザリンの友人たちに囲まれた彼は、少し困ったような顔を装ってわたしに近づいてくる。
そして彼は取り巻きを置いてわたしに駆け寄ると、わたしの腕を掴んで八階の廊下へとほとんど引きずるようにして連れて来ていた。彼の取り巻きたちは驚いて追いかけてこなかったようだ。
そして必要の部屋のドアを開き、わたしをその中へと押し込める。
「ちょっと!急にひどいじゃない」
「ひどいのはきみだろう。最近僕を避けてるのを否定するつもりじゃないだろうな」
入るなり壁に追いやられて逃げ場を無くされたわたしは小さくため息をついた。その通りだ。
わたしは最近リドルを避けていた。もちろん、故意に。
あの日、マートルが死んだ日に、わたしがリドルに感じた不信感は、簡単に拭えるものではなかった。
その上ダンブルドアは、犯人だと言われたハグリッドの無実を主張し、彼を森番にした。
ダンブルドアの頭の中で真犯人としてあがっているのは、わたしの目の前に立つ、この人だ。
「何か不満でもあるのか。僕が何かしたか?」
そう問いかけるリドルの目は切実だった。入学した頃、彼が図書室でわたしを追求した時とまるで変わってないその表情に、少し笑ってしまいそうになる。
「いいえ、リドル。でも、わたしは今あなたと一緒にいて心から安らげるかと言われたら、そうではないの」
「ダンブルドアと同じように、僕を疑っているのか」
わたしがそう言った途端、リドルはわたしの肩を思い切り掴んだ。その力の強さに、わたしは思わず顔をゆがめた。
するとリドルは手の力を抜いたものの、彼の黒い瞳にはちらちらと赤い色が混じっていた。
「きみは、きみだけは僕を無条件に信じてくれると思っていた、いや、そうでなければならない」
彼はそう絞り出すように言うと、顔を近づけて来た。わたしは彼が何をしようとしているのか気づいてしまい顔を逸らしたけれどそれは許されなかった。
「言っただろう、きみは僕のものだと」
そう彼が囁いたのと同時に、やわらかな感触がわたしの唇に触れた。
「ん、リドル、…っ!」
わたしはリドルの唇を噛まないようにしてその名前を呼びながらリドルの胸を押したけれど、その手すら掴まれてしまう。
「ミョウジ、トムと呼べ、…トムと、」
深くなる口付けの中で、囁くようにトムと彼を呼んだそのときより、ずっとずっとまえに、わたしは彼に囚われてしまっていたに違いなかった。
こんなに熱を持って唇を交わす彼が、愛を知らないということが悲しかった。
縫い目の隙間から見えるもの
それは、××なのかもしれない。