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chapter2-6

クリスマスのグリフィンドールは、静寂に包まれている。

理由は簡単だ。みんな実家に帰って家族と思い思いなクリスマスを過ごしているから。

わたしも孤児院に帰ってもいいのだけれど、リドルは当然のごとく残るし、帰ったとしても幼い頃一緒に遊んでいた子達はみんな孤児院を出てそれぞれで生活している。

だから毎年わたしもこのホグワーツに残るのだ。たまに残る子たちもいないことはないけれど、大抵はひとりで。

今年はその大抵の年だった。わたし以外皆帰っている。四年生にもなると慣れたもので、同室の子たちがいない部屋でひとり、昨日のうちに屋敷しもべ妖精に朝枕元に置いてくれるよう頼んでおいたパンをかじりながら届いたプレゼントたちを開けていく。

フリーモントからは彼が開発したらしい髪をつやつやにする魔法薬、同室の女の子たちからは可愛らしい日記帳や髪留め、やわらかな肌触りのいいタオル(これは魔法で勝手に濡れているところを拭いてくれるらしい)、そして毎年恒例となりつつあるダンブルドアからの贈り物は永遠になくならないえんじ色の封蝋とシーリングスタンプをセットにしたものだった。

あとでお礼の手紙を書かなくちゃ、と考えていると、名前が書かれていない小箱がわたしの目に映る。

もうあらかた頭に浮かぶ人からのプレゼントは開けたはずなのに…と、不思議に思いながら箱を開けると、そこには綺麗な赤色をしたピンヒールが入っていた。

箱の中にも何もカードが入っていないため、誰が贈ってくれたのかわからない。

同室の子たちに、しらない人からのプレゼントは絶対に口にしてはだめ!どんな呪文がかけられているかわからないから!と何の経験なのかはわからないアドバイスをもらっていたものの、これは食べ物じゃないから…と、わたしはベッドに腰掛けてそのヒールを手に取った。

品のいい形をしたそれは、わたしが今まで手に取ったことがないほど上質なものだと一目見てわかるもので、わたしにこんなものを贈ってくれる人に検討もつかないけれど、わたしはそれをうっとり見つめながら足を入れた。

すると両足を入れた途端、それはしゅるりと形を変えてわたしの足にぴったりとサイズを合わせると、そのまますたすたと歩き始めてしまう。

「え、えっ!」

わたしはどうにかその歩みを止めようとしたけれど、強力な魔法なのか解けそうになく、わたしはホグワーツの中ならそんなに危険なこともないだろう、と諦めて靴のいくままに従った。

ついに八階まで導かれたわたしは少しへとへとになっていたものの、靴はある少し小さな扉の前で止まった。

入れってこと?でも、こんなところに扉があった記憶がないのだけれど…。

そう思いつつドアノブをひねると、それは簡単に開いた。

なんと扉の小ささに対し中は広めの作りになっていて、目の前には暖炉さえあり、煌々と火が燃えている。

柔らかそうなソファには、部屋の主(というべきかはわからないけれど)が悠々と脚を組んで座っていた。

「リドル!あなただったの」

普段よりは幾分楽しそうにしているリドルはわたしに自分の前に置かれた椅子を示す。

「座れってことね、はいはい……」

こんな回りくどいことしなくても来たわよ、と少し愚痴りつつ、いつの間にか現れた紅茶をすする。

「ここはどこなの?こんな部屋知らなかったわ」

「ここはあったりなかったり部屋だとか、必要の部屋だとか言われている部屋だ。この部屋を必要とする者の前にだけ現れる」

前からリドルがホグワーツ中を歩いて回っているのは知っていたけれど、こんな場所があったなんて。
少し得意げに見えるリドルは、これまたいつの間にか現れた真っ白なフクロウに餌をやっていた。

「そのフクロウも、この部屋から現れたの?」

わたしは正直言って、興味津々だった。動物好きなところは何年経っても変わらない。
同室の子のペットを撫でさせてもらうのが日課だと言っても過言じゃないのだ。

「いいや。このフクロウはきみのものだ」

「え?」

リドルは手につかまらせたフクロウをそのままわたしの方へと差し出すと、そっとわたしの手に乗せた。

「これがきみへのクリスマスプレゼント。その靴はここまでくるための仕掛けのために使ったんだ」

「なんてこと!この靴の上にフクロウも、だなんてとてももらえないわ、だってそこまでしてもらうほど、わたしあなたに素敵なプレゼントを渡せていないもの」

そうなのだ、わたしは彼のリクエストに応じて、魔法薬学に関する応用の本に、わたしの気持ちということでスリザリンカラーの手袋を添えただけだった。

「遠慮せずに使うといい。もちろん、フクロウは僕が必要になったらその時は借りるかもしれないし」

きみのために買ったんだから、きみが使ってくれ。突っ返してくるなんて野暮なことしないだろうね。

いつもなんだかんだ皮肉屋なリドルが、そんな風に素直に優しさを表してくれることに、わたしは嬉しさを通り越してなんだか感極まってしまい、目に涙さえ浮かんで来た。

それをリドルに悟られないようにこっそりと拭い、「ありがとう…」と小さくつぶやく。

彼をきつく抱きしめたかったけれど、さすがに幼いころの癖をそのまま持ち出したら彼が困ってしまうだろうし、とぐるぐる考えた結果、わたしはやっぱり座ったままの彼を抱きしめた。

きっと彼は驚いたように目を見開いて、でもすぐにその顔を消し去って迷惑そうに顔をしかめてるんだろう。


赤ずきんに捕らわれた狼

やわらかな喉元に歯を立てたい。

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