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chapter2-5

ホグズミードには雪が積もっていた。

見渡す限り真っ白な雪だ。隣に立つアブラクサス―もとい、ミョウジ―は、鼻を赤くしていた。

こうなったのは、ひとえにミョウジの思いつきという名の行き当たりばったりのせいである。

「わたし、フリーモントへのプレゼントが買いたいんだけど」

唐突にそう言ったミョウジに、「勝手に買え」と言ったはいいものの、きゃんきゃん騒ぎ続ける彼女に僕が折れたのは先週のことだった。

しかし、グリフィンドールと行くとフリーモント・ポッターにバレるから、と言って僕を選んだくせに、僕と行くとスリザリンの女子にやっかまれるから、と土壇場でごね始めたのだ。

僕はめんどうになって、ちょうど風邪をひいていたアブラクサスの髪をさっさと手に入れ、ポリジュース薬(これはスラグホーンが入手元だ)をミョウジに差し出した。

「飲め」

「ええ…まずそう…」

勝手に姿を借りられるアブラクサスが浮かばれないな、と思いつつも生意気な口に思い切りグラスを突っ込んでやる。

もごもご言っていたミョウジは、みるみるうちにプラチナブロンドの髪に変わり僕と同じくらいの背丈になる。

「声は変わらないから気をつけろよ」

彼女はアブラクサスが浮かべないような、締まりのない表情をすでに浮かべていた。

そして冒頭に戻る。

ポッターへのプレゼントをいまだに悩んでいるミョウジは、雑貨屋の棚に顔を近づけて顔を険しくしていた。

ポッターと付き合っているのかと疑ったことは何度かあったがポッターにはすでに結婚が決まっている相手がいるらしいし、僕の前で平気で他の男の名前を出すということは、僕のことも特に意識してはいないらしい。

彼女の周りの異性といえばそれくらいなので、恋愛というものにもしかしたらまだ興味を抱いていないのかもしれない。

恋愛というものがどれだけバカバカしいのか知っているものの、ホグズミードに行く許可が出てしばらくたつ僕たちの学年は、すでにそのような”男女の関係”に浮かれていた。

ミョウジもそのような波に憧れを抱いていると踏んでいたが、違うようだ。

「リドルはどう思う?この羽ペンか、それとももうクィディッチの本にしちゃうか」

ミョウジは僕の前で羽ペンを振ってみせる。それには《これを握れば三時間は机から離れられない、魔法の集中ペン!》という触書きが書いてある。

そういえばグリフィンドールの脳筋さを嘆いていたな、と思いつつ、「それでいいんじゃないか」と適当に相槌を打った。

「すぐそうやって投げやりになるんだから!」

と言いながらも、ミョウジはそれに決めたらしい。

彼女がレジに持っていくのを遠くに眺めながら、僕は杖を取り出した。


「お待たせ!わたし、 ミスロスメルタの三本の箒に行きたいの」

羽ペンを包んでいるであろう紙袋を抱きしめたミョウジが帰ってきた。

「きみ、さすがにアブラクサスに気を使ってやれ。あらぬ誤解を受けそうだ」

ハッと口を押さえた彼女に思わず吹き出しながら彼女に雪よけの呪文を唱えてやると、僕たちは三本の箒に向かった。


ミョウジはバタービールの泡を思い切り口元につけながら、嬉しそうにそれを拭っている。

来たことがないのか、と問うと、ホグズミード自体あまり、と返って来て僕はその意外さに眉をあげた。

「だってリドルは捕まらないし、そもそもスリザリンと一緒に行くでしょう」

僕と行きたかった、と言っているようにしか聞こえないその台詞に、僕はまた眉を吊り上げることになる。

特に他の意味を含んでいるようには見えず、彼女は心からそう言っているらしかった。

思えば最初から不思議だったのだ。

ミョウジは、初めて言葉を交わした時、僕をしらないようだった。僕はあの孤児院で、常に遠巻きにされ疎まれていたというのに。

そうして、僕を周りの子どもたちから知った後でも、特に態度を変えたわけでもなく、子どもらしい独占欲にかられた僕が他の子どもたちから、人気者だった彼女を引き離して二人でいる時間を増やしても、何も感じていないようだった。

彼女が僕にとっての特別だと気づいたのはいつからだったろうか。

ホグワーツに入学したての頃は、僕が彼女に対して特別な思いを抱いていたのは入学前に周りにいた魔法族が彼女だけだったからだ、と思い込んでいたため、わざとミョウジを避けて他の人間といるようにした。

ミョウジが何度か僕に話しかけようとしていたのを僕は知っていたけれど、全てかわしてしまった。

しかし図書館に一人でいた彼女を見たとき、どうしても声をかけずにはいられなかったのだ。

『わたしの前では、そのままでいてくれたらいいのに。別に、へんじゃないよ。そのままのリドルも』

そう言ったミョウジに、僕は自分が間違えていたのだと気づいた。

彼女こそ、僕という一個人をまっすぐに見つめるただ一人なのだと。

「リドルー?さっきから床の板目ばっかりみて怖いよ?」

そう馬鹿げたことを言ってくる彼女の頬をつねってやる。

「そういえば、さっきのリドルの雪よけの呪文!雪よけだけじゃなくて、なんとなくぽかぽかしてる。昔からリドルは優しいねえ」

そうふにゃりと微笑むミョウジに、僕は返す言葉を持たなかった。

優しいひとだときみはいう

きみにだけだとぼくはいう


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