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何やら、下で大きな物音がする。まるで、誰かが暴れているような。

しかし、最近ではそれが日常茶飯事になっている。トムが、自分の計画に反する者を密かに粛清することが多くなっているからだ。

外の世界ではひたひたと、ほの暗い影が広まっている。わたしは知ったことじゃない、と目を背けているものの、人の命が散ったあとのどことなくどんよりした空気にはうんざりした。

外を何の気なしに眺めていると、ばたん、とノックもなしに扉が開く。革靴の音を立てて入ってきたのは、当然トムだ。他の人間がこの部屋に来ることは滅多にない。

「トム、ひどい顔」

もう、彼のかんばせに昔の面影はほとんどなかった。時折ふとした瞬間の表情で、学生時代の彼を思い出すけれど、彼の深淵を覗くような黒い瞳は、今や真っ赤に染まっている。しかし、彼は相変わらずうつくしかった。

わたしが彼の頬に手を伸ばそうとすると、その手を取られて引き寄せられた。不意に抱きすくめられてわたしは目を見開いたけれど、そっとトムの背中に手を回す。トムからは、昔と変わらない香りがする。

「少し痩せたな」

トムは存外穏やかな声でそう言った。とげとげしい雰囲気をまとっているのに。

「こんなところにずっといたらこうもなるわ」

さまざまな含みをもたせたその言葉を、トムが問い直すことはなかった。わたしの体に手を滑らせ続けるだけだ。わたしのものとは違うその節の張った――まごうことなく、男の手だ――彼の掌を覚えこませるかのような手つきで。

トムはそのまま首筋まで手を這わせると、わたしの髪を片方にまとめた。じっとわたしを見下ろす彼の瞳はどこまでも底のない夜の海を思わせる。

「これからは君も連れていく」

彼の不意の言葉に、わたしは驚きの言葉が漏れそうになって目を見開いた。どうして、とこぼれそうになった声は、トムの胸板に消えてしまう。今日のトムはどこか、学生時代の彼を思わせた。もしかしたら、変わらない香りがそうさせるのかもしれない。わたしは抱きしめられたままなのをいいことに、それを胸いっぱいに吸い込んだ。好ましい匂いだ、と思う。

「血なまぐさいのはきらいよ」

理由を尋ねる代わりに、わたしはそう言った。トムはその言葉を鼻で笑うと、「すべて一瞬で終わる」と囁いた。そうして、存外優しくわたしをベッドに横たえると、シーツの上に広がった髪を整えながら首筋に顔を寄せる。

「どうしたの、あなたらしくもない気まぐれね」

まるで恋人同士の触れ合いのような手つきに、わたしは混ぜっかえさずにはいられない心地だった。身体中に口付け、指先で肌をなぞり、温めるように手のひらを添える。そんな仕草に、わたしは小さく身体を震わせることで応えていた。

「君が気づいていなかっただけで、私は今までもこうだった」

どこか楽しげなトムの言葉に、わたしはそれがほとんど嘘のようなものだとわかっていながらも、「そうかもしれない」と笑いを含んだ声で返した。トムの手がわたしの服を押し上げながら身体に触れるのを感じながら。そうしているうちに、最近彼が力任せに首を絞めることがなくなったと気付く。所有を表すように、キスの最中首に手を添えて軽く掴むことはあれど。

何だかそれがさみしく感じ、複雑な心境にさえなる。

わたしが彼の手をとって首まで誘導すると、トムはわたしの意図を察したのか、自分からねだるとは、とでも言いたげに鼻で笑った。そして、先ほどの優しい手つきなどなかったかのように、すっぽりとわたしの首を覆って力をかけながら貪るように激しく唇を奪う。どちらのものかさえわからない唾液が唇の端から垂れていくのを自覚しながらも、それを拭うことも出来ない。

ああ、わたしは彼のものだ。息苦しさがある種の酩酊感を誘い、生理的な涙がはらはらと落ちるのも構わずにわたしは喜びに震えていた。それとは裏腹に、わたしの手は首をかけた彼の腕を掴んで苦しさを訴えている。

いつまでも続くように感じられたその行為から解放され、気道を潰されていたせいでひどくむせているわたしを尻目に、トムは乱れたワンピースの裾から手を差し込んで、下着越しに指先でそこを撫で上げた。そうして、うっそりと笑う。

「変わらないな、昔と」

苦しいだけの行為であるはずなのに、彼が揶揄した通りすでに下着はどうしようもなく濡れそぼっていた。わたしがその言葉に思わず唇を噛んで顔を隠しても、それを物ともせずにすべて暴かれてしまう。

だんだん部屋の湿度が増していくのを感じた。吐息と、彼の手によって高められる情欲の声と、繋がったところから絶え間なく上がる水音とが、それを助長しているのかもしれない。

すべてが終わったあと、トムはわたしの髪を指先で梳きながら窓の外を見つめた。今日はこのままこの部屋でねむってしまうらしい。

「明日は雪が降るだろうな」

トムがそう囁くのを、わたしはまどろみの中で聞いていた。そうして、トムがたわむれにわたしの耳を食んだのを合図に、眠りに落ちていくのだった。

その雪肌をしっている




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