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瞬く間に、わたしと母の二人きりで過ごしていた頃とは様変わりした姿に作り変えられていった屋敷を、わたしはなんの感慨もなく眺めていた。変わらないのはわたしの部屋と、それから代々受け継がれてきた書斎だけだろう。もっとも、その書斎も、トムの使い勝手のいいように配置が変わり、わたしの部屋はトムを受け入れる寝室になっていたけれど。

この屋敷の周りには、トムが探知避けの呪文を何重にもかけている。もう、ダンブルドアやオリオンですらこの屋敷を見つけることはないだろう。もし位置を探ろうとしても、周りを囲む森の中で迷い続けるはずだ。

大広間はトムが彼の信奉者たちを集める、薄暗い部屋に変わっていた。もともと冷たい雰囲気のあった屋敷だ、彼の手によって光も差さない、密談にふさわしいものになった。

今日もトムは彼らを集めて悪巧みの最中らしい。わたしは部屋に入るなと禁じられているわけではないものの、彼がそうやって部屋にこもっているときは近寄らずにいた。わたしは彼の計画に混じりたいわけではないのだ。ただ、トムという男が欲しいだけで。

「しぶとい奴だ」

ぼんやりと窓から外を見下ろしていると、わたしの背中にそう吐き捨てる者がいた。振り返るまでもない、アブラクサスだ。

「あら。おもてなしが遅れてごめんなさいね、わざわざ訪ねてくださったのに」

わたしが振り返りざまににっこりと笑みを送ってやると、彼は憎々しげにわたしを睨みつけた。こういう子供っぽい仕草が、彼のかわいいところだ。

「もうミョウジ、お前の屋敷とも言えないだろう。あの方のものだ」

そういらだたしげに言うアブラクサスに、わたしは肩をすくめた。

「そうね。わたしを含めて、全部彼のものよ」

失礼するわ、と笑みを浮かべたまま背を向けると、アブラクサスがわたしの手を掴んだ。突然のことに驚いてわたしが思わず振り返って彼を見上げると、アブラクサスは何を考えているのか読めない瞳でわたしを見下ろしていた。

そんな彼の様子を見ていると、わたしは奥底に沈んでいた記憶を、否が応でも思い出さずにはいられなかった。幼い頃の記憶だ、わたしがまだ、周りの大人たちに疎まれているなど気づいていなかった、無邪気だった頃。連れ出されたパーティの会場の隅で人形を抱えていたわたしの隣にいた少年は、アブラクサスの瞳と同じ色をしていた。

知らない大人たちに囲まれ萎縮していたわたしに、彼は甘いムースを差し出したのだ。甘くて美味しいから、と、その小さな手に抱えて。

アブラクサスは、この記憶をまだ残しているのだろうか?

「痛いわ、離してちょうだい」

わたしの言葉がまるで耳に入っていないかのように、アブラクサスはその手を緩めなかった。ただわたしを見下ろして、まっすぐに瞳を見つめている。

「アブラクサス」

わたしは彼の名前を呼んだ。まるで睦言を交わし合う間柄のように見つめ合うのはわたしたちに似つかわしくない、そういう思いを込めて。

しかし、アブラクサスが手を離す前に、わたしの背後から声がかかった。

「何をしている?」

冷たい声だ。問いかけているような口調なのに、ほとんど断定的な。

彼の声に気づくと、アブラクサスはわたしの手をぱっと離した。そうして、わたしの背後に立つ彼の顔を見た途端、こうべを垂れたまま去っていった。

「急に声をかけるのはよしてよ。ただ立ち話をしてただけじゃない」

「壁にノックでもしろと?」

振り返ると、そこには黒いローブをまとったトムがいた。彼の瞳の奥底に、仄暗く赤い光が見え隠れするのを、わたしは見た。

「どうやら君は、純血貴族をたぶらかすのが好きらしい」

「何のこと?」

トムはわたしの腰を抱くと、どこか蛇を思わせる表情を浮かべた。獲物を前に、とぐろを巻いた蛇がちらちらと二股に分かれた舌を見せるように。

「オリオン・ブラック、その次はアブラクサス・マルフォイか。あいつはナマエを毛嫌いしているかと思っていたが」

「今もそうよ。何も変わってやしないわ」

わたしがツンとした口調でそう言うのを、トムは喉で笑って受け流した。馬鹿馬鹿しい、そう言いたげな様子で。

「いいや、ナマエ。アブラクサスだとて、一人の男には違いない。君の前で平静を保っていられる男が何人いることか」

――閨の中でそのかんばせをこの手で歪ませてやりたい、という欲に勝てる者は少ないだろう。

トムはそう言いながら、先ほどまでアブラクサスが掴んでいたわたしの手首を取り、持ち上げた。そうして彼の薄い唇をそこに沿わせて、ゆっくりと滑らせる。それだけの動きで背筋にぞくぞくとした感覚が走る。

「あなたは?トム」

たまらなくなって、わたしはトムの瞳を見つめた。先ほどまで赤い炎をちらつかせていた眼はすでに落ち着きを取り戻し、今や楽しげに細められている。

わたしの問いかけに、トムは唇を舐めて湿らせた。そうして、腰に添えた手を、ゆっくりと撫で上げながら、彼は言うのだ。

「何度も歪ませてやったろう。私の手で、この不埒な顔を」

ふたりの透明が合わさるところ




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