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7年生の、最後のクリスマス休暇、そしてイースター休暇が終わると慌ただしく試験が始まる。普段通りの生活の中にも、どこか焦りや不安といった、同級生たちの焦燥感が混じっている。

そんな中、わたしとトムは何も変わらなかった。ひとつ変わったことはといえば、わたしたちが決まって隣同士で食事をとるようになったこと。そこに、時折オリオンが混ざることもあるけれど。

「試験まであと2日か」

オリオンがデザートのプリンにスプーンを突き刺しながら言う。彼の所作は、無造作なものに見えていつも美しい。

「その前に、あなたレポートは仕上げたの?」

「あんなものどうとでもなる」

オリオンは肩をすくめながらそう言って、美しいオレンジ色をしたカボチャプリンを口に含んだ。彼はいつもギリギリにしか仕上げないくせに、成績は常に上位にある。生まれながらにして、何かしらのセンスがあるに違いない。

「トム、そこのアップルパイを取って」

隣のトムは「どうぞ」と優しく切り分けてわたしに差し出してくれる。外面は最後まで崩さないつもりらしい。

そんなトムをオリオンはにやにやと笑いながら眺めていたものの、わたしたちにしかわからない程度にトムが彼を一瞥すると渋々自分のお皿に集中し始めた。

こんな時間も、もう直ぐ終わってしまう。わたしは未来について、まだ何も考えられてはいない。生徒たちの中には、すでに就職先を見つけた者までいた。

わたし、そしてオリオンは就職などしないだろうが――。隣のトムはどうするつもりだろうか。まだ、校長に打診することもしていないだろう、彼の卒業後の希望について。

トムはスラグホーンを丸め込んだのか、スラグホーンがわたしに再度トムの就職先について尋ねることはなかった。わたしも、あの日以来トムにその話を持ちかけたことはない。

わたしの未来はトムにかかっているのだ、と、わたしには妙な確信があった。彼がホグワーツに残ることになったとしたら、わたしは寄る辺を失うだろう。

「ナマエ、何をぼんやりしてる」

トムに肩を軽く叩かれて、わたしはやっとその思考から抜け出した。そして、オリオンがいつの間にか消え、広間に残っている生徒がわたしたち以外まばらになっていることに気づくと、慌てて立ち上がる。

廊下にはわたしとトム二人きりだった。学年末テストが近いせいで、皆寮や図書館にこもっているのかもしれない。

「なぜ僕に黙っていた?」

唐突にトムが立ち止まり、そう言った。

「何を?」

わたしがそう問い返すと、トムはこちらへと向き直る。

「君が、クリスマス休暇に帰った理由だ」

わたしはそれに片方の眉を吊り上げた。トムがそれを知ったことに対して何の思いもなかったけれど、それを彼がこんな風に――まるで責めるように言及したことは不思議だった。

「あなたにとっては何の興味もないことでしょう」

わたしが悪びれず、肩をすくめてそう言うと、トムは眉を寄せてこちらに一歩近づいた。

「だから黙っていたと?」

「そもそも、聞かれなかったから」

トムとわたしの距離はほとんどないに等しかった。わたしはトムを見上げながら、彼が何を考えているのか知ろうとした。しかしトムはわたしの言葉にただため息をつくだけで、何の感情も読めない。

「ブラックが君の屋敷を訪ねたと、そう聞いた」

わたしはその言葉に、今度こそ怪訝に思いながら眉を寄せる。オリオンが彼に知らせたの?そうとしか考えようがなかった。彼が知りようもない情報だ。

「君が、ミョウジ家の当主に収まることを望んでいたとは」

トムは乾いた笑いをこぼしながら肩をすくめる。まるで失望したとでも言いたげだった。オリオンが屋敷を訪ねたことは、つまりミョウジ家を支援するということに等しい。トムはわたしがそれを望んだと、そうかんがえているようだ。

「何を言ってるの?トム」

「僕は君の非凡さを気に入っていた、ナマエ」

――しかし今となっては、君はただの暇を持て余した令嬢に過ぎない。

わたしを馬鹿にするような、そんな笑みを浮かべたトムは、それ以上わたしに構う時間がないとでも言いたげな様子でわたしに背を向けた。

「トム!」

わたしはたまらなくなってその背中を追いかけようとしたけれど、わたしが彼を呼ぶ声でトムが一度振り返った時、わたしを一瞥した瞳がすでにわたしを切り捨てていることに気づいてその場に立ち尽くしてしまう。トムが、もう一度振り向くことはなかった。廊下の角に消えていくトムの背中を、ただ見ているほかない。

「お前の本性に、やっとお気づきになられたのだ」

その声にわたしが振り向くと、わたしの背後の廊下の陰からアブラクサスが一歩、こちらへと踏み出してきた。

「わたしの本性って?」

そう問い返すと、アブラクサスは鼻で笑い、わたしの隣に並ぶ。

「何の覚悟も、理想も持ってやしない――ただの小娘ということだ」

――そんな女にかまけているほど、彼は凡庸な人間ではない。

そう言って、寮へと向かう廊下に歩き始めたアブラクサスの背中に、わたしは言った。

「……あなたが彼に、”ご忠告”をしたのね、アブラクサス」

アブラクサスは振り返りもせずに言う。

「せいぜい思い出にすがって生きろ」

星が流れたさいごの日




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