気まぐれに短文
(主:高丘朝人/たかおかあさと)

上杉

『確か、ピアスしてるってきーた気ィするー』

 そういえば、なんて切り出しで、綾瀬はタカオカの情報を付け足してくれた。真面目と言い切れる程の奴ではないのやも、とも。
 俺は少なからず衝撃を受けた。
 背筋の伸びた立ち姿。
 一見にして真面目だろうと印象付けた格好。この暑い中、それもただの登校日だというのに関わらず、着崩さずきっちり着た制服。学園指定のワイシャツは、しっかりアイロンをかけたようにぱりっとのびていた。
 視線を交わした時の、険のある表情ばかりが焼き付いたせいか、思い出すその耳元にピアスはない。かといって、不思議と不似合いだとは思わなかった。


***
捏造一年時。象徴。

綾+ブ

 教壇に立つ教師の声に重なるように、授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。途端ざわつく生徒達に苦笑を零し、教材を素早くまとめて教室を後にした教師を、誰も気にかけはしない。
 上杉も例外ではなく、チャイムが鳴ると同時に、申し訳程度に開かれていた教科書を勢いよく片付ける。前の席に座る綾瀬の背中を丸めたノートでつつき、なあなあと声をかけた。

「アヤセさー、隣のクラスにダチいるっしょ。タカオカって奴、知ってる?」
「高丘ー? んー、まぁ。きーたコトはあるけどー?」

 綾瀬が答えながら気怠げに振り向くと、軽い口調の割に真っ直ぐな瞳と視線があった。小さな衝撃に、長い睫毛に縁取られた目がぱちぱちと瞬く。

「アイツって真面目クンなんスかね」

 重ねて問われた言葉を飲み込むのが遅れ、何も答えられないでいる綾瀬をどう捉えたのか、上杉は楽しそうに目を細めた。

「それともすっげェ短気だったり? でひゃひゃひゃ」
「……なに上杉、怒られたってワケー? しかもォ、初対面? うっわ、ダッサー」
「ひっでー。おれ様、話し掛けられちゃったから返したのに、アイツこっちみるなり機嫌わるそーな顔すんだゼ」

 上杉は指で自分の眉間を寄せたり、目尻を吊り上げたりしてみせた。右手で頬杖をつき、顔を隠すように外方を向いた綾瀬の肩が小刻みに震えているのを認め、口元に弧を描く。

「もしかして、おれ様があまりにも男前だったから、ねたみを隠せなかったンじゃん?」
「チョーシのんな」

 そううそぶく上杉を綾瀬は間髪入れずに突っ込んだ。口調こそ鋭く刺さるものの、その横顔には含んだ笑みを湛えている。
 益々笑みを深めた上杉がついには噴き出し、変わった調子の笑い声を上げた。つられて綾瀬も笑い出す。突然の笑声に級友達が驚き様子を伺うが、二人は同時に手をひらひらと揺らして制した。


***
捏造一年時。
箸が転げてもおかしい年頃

マー+ブ

 さく、さく。
 市販のそれとは違い、その場で削った氷はふわりと軽い。明るい赤や緑が、白く透き通る氷に映える。
 一つ掬って口へと運ぶ。途端に広がる甘みとひんやりとした冷たさに、自然と口許が緩んだ。

「んーーっ、冷てェ……」
「はー。最高、だな」

 お互いを見合わせ、ふ、と息を吐き出す。特に言葉を発する事なく、また一つ掬っては口に含んだ。
 きらきらと静かに光る各色は何とも涼しげで、太陽の熱を少しだけ忘れられた。

ブ+ゆき

 跳ねる影が一つ。右に左に揺らめき動く。
 素早い急旋回。後ろから前へと動きに合わせて流れる、赤。

「っし、よろしくぅ!」

 掛け声と同時にペルソナが浮かび上がった。光と共に力が溢れ出し、下から上へと空を流れる。
 赤を纏う男に撹乱された悪魔がようやく急迫した時には、その異形の身を強い力の前に曝す事となった。
 耳をつんざく衝撃波が突き抜ける。
 凄まじい風に服をはためかせ、赤い柄の槍を握る手に力を込める男。力と共に霧散したであろう悪魔を思い浮かべ、口許に安堵を零そうとした。
 直感だった。
 頭で考えるより先に一抹の不安が過ぎり、額に冷たい汗が伝った。口を固く結び、目を見開いて眼前の砂塵を注意深く窺う。間合いをとろうと、そろりと右足を下げると同時に煙が舞った。
 風が急激に逆流する。

「うぇっ、コイツ効いてな……っ!」
「上杉! 伏せな!」

 頭上を交差する何か。反射的に目を閉じてしまった男に感じられたのは、かろうじてそれだけだった。
 空を引き裂き、襲い来る悪魔。姿を捉えた時、緊張させていた全身に余計な力が加わり、引いた右足に体重を乗せて後ろへ倒れる事となった。
 男が傾いた瞬間、山程の得物が悪魔に突き刺さる。伏せるとは真逆の行動ではあったが、結果、上手くやり過ごせたようだ。

「大丈夫かい、上杉」

 掛けられた仲間の声に安心を覚え、上杉と呼ばれた男は固く閉ざした瞳をはっと開けた。


***
物理系のみ有効な悪魔に遭遇

※ 南→(←)ブ 注意
大丈夫な方はこちらから

 

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