気まぐれに短文
(主:高丘朝人/たかおかあさと)
男連中
「さささ寒ィ〜っ!」
「この寒暖差は、堪えるな……」
「……ジジくせぇぞ南条」
「寒ィのは確かだな」
「城戸は薄着過ぎるって」
「みんなテンション低いっスよー? もっと上げないとあったまらないぜェ」
「貴様は何故にそう……はぁ」
「うっわ、ため息とか酷ェ!」
「南条は老成してるからついていけない、いや、行く気がないんだ」
「高丘には言われたくないと思うが。まあ、上杉、ほどほどにしとけ」
「あのよー、テンションの前にあったけぇ飲み物のがいンじゃねぇ?」
「自販機か? あたたかい飲み物に入れ替わってるといいが」
「コンビニにはおでんが出てたし、あると思うぜ」
「おっ、おでんいーねぇ! おれ様たっまごとこんにゃく〜」
「オレはからあげ食うかな」
「珈琲で十分だ」
「……あ? ちょっと待て、全員で行く気かよ」
「たまにはいいんじゃないか。俺は大根とがんも」
「…………ぎゅうすじ」
ブ+マー+南
「あーもう、あちィー! マーくんなんとかしてくれ」
「るせぇぞ上杉。余計暑くなる」
「つったってさー、九月中もこの気温らしいんだゼ。おれ様とけるわぁ」
「上杉」
「ンだよ。文句くらい言わせてよー」
「氷食ってかねぇ?」
「!! いーすねぇ! おれ様イチゴー!」
「(……単純な奴)じゃあ、オレはメロンにすっかなー」
「なぁなぁマーク。南条ってさ、『ブルーハワイとは何の味だ』とか言いそうじゃね?」
「ぶはっ! 言うなソレ!」
「だろー? 南条も誘おうゼ、かき氷」
「なんじょー。今マークと、暑いから氷食べようって話しててさ」
「オメェも一緒に行かねェ?」
「氷をわざわざ食べに行くのか」
「でひゃひゃひゃ! やだな南条。氷ったら、かき氷のコトっしょ!」
「……かき氷とは何だ」
((ええー……))
セベク@上杉
肩で息をする。
学生服の袖で顔を乱暴に拭うと、意識的に呼吸を変化させた。身体の隅々まで酸素が行き渡るように、深く、深く。
「……やられたな。フォロー出来なくて悪い」
「ううん。数に押されると、どうしたって分散されちゃうね」
ようやく落ち着けた呼吸だが、身体に受けた損害は大きい。戦力を分散されるという事は、その実、戦闘にかかる時間も増す。神経を擦り減らしぎりぎりまで高めた緊張は、持続させる事で体力までも奪い去る。ペルソナを喚び出す事すらままならない程の消耗に、不安と焦りが募った。
「このまんまじゃマズイってェ」
重い空気を払拭したのは、図らずも上杉の呟いた一言だった。おもむろに首肯した南条が言葉を繋ぐ。
「進むにしろ戻るにしろ、厳しい事にはかわりなかろう。だが、ここにいてもかわらんという事だ」
「またいつ悪魔が来るか、ってコトだよなァ」
「確かにこの場に留まるのは得策じゃないな」
稲葉に高丘が続くと、園村も気丈に笑みを浮かべて頷いた。
矢継ぎ早に話が進み、呆然と目を丸くする上杉が、一人。
ゆき+ブ
差し出されていた手を取り起き上がると、上杉はへらりとした調子で黛に礼をした。
「いや〜、助かったっす、ゆきのの姐御! って、ゆきのさん冗談ジョーダン!」
常ながらの軽口は、たとえ命に危険が伴う戦闘の後でもかわりはしない。かといって、戦いを楽しむ性格ではない。事なきを得た、安堵からくるのだろうか。
「さっきはビビったっスよ〜? なんせ名指しで『失せな!』って聞こえたモンだから。ドッキリしてバランス崩しちまったぜい」
厭味ではなく、笑い事。どこまでも冗談のような言葉は周囲を明らめる。
黛は肩を竦め、小さく息を零した。
「……ま、結果オーライってヤツだね」
上杉と誰か
昼間だというのに、分厚い雲が覆う空はまるで夜。
黒を裂く亀裂のような白は、一瞬。天から地へとはしる。鳴り響く轟音。視界の端に入るだけでも眩むような光。
目を閉ざしても、耳を塞いでも、その効果は薄い。
「笑顔がないなー、ビビっちゃってる?」
窓越しに外を見つめていた上杉をからかう声が掛けられた。振り向けば、目と口を弓状に曲げた級友と視線があう。
背にした空がまた光った。
「やー、おれ様なれちまったゼ」
「はあ?」
ま、ジオとは色々ゼンゼン違うけどな。
普段通りの勝ち気な笑みを浮かべて、上杉は言い切った。
タイミングよく重なった雷鳴は上杉の言葉を掻き消し、向かいの青年が聞き取ることは出来なかった。
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