怪盗クイーン
櫂兎は数年ぶりに休暇をとって、虹北商店街で恭助、響子、若旦那ともばっちり再会し、夢水や三つ子姉妹と京風石狩鍋を食し、満足して職場に戻った。


「博士、長く開けてすみませんでした、ただ今戻りました」


「ああ、休暇は楽しかった?」


「はい、とても! あ、RDのほうの調子はどうです?」


「それなのだけれど……」


櫂兎は、博士の口から重要な原作ポイントを自分がのがしてしまったことを聞いて固まった。


怪盗クイーン




ジョーカーが日課のトレーニングを終え、汗を流してからいつものルームに行くと、クイーンは今日もソファーで野良猫のノミ取りをしていた。


「…またそれですか」


「ふふふ、なかなか奥が深くて飽きないんだ」


日本に行った際、そこで出会った名探偵から教わったらしいのだが、この趣味はどうかと思う。
ジョーカーは呆れた風にそのまま立ち去ろうとして、視界に映ったものに脳内処理が追いつかず一度見逃し、それからもう一度凝視した。クイーンが蚤取りしている猫の群れの中に、どう見ても猫ではないものが一匹、いや、一人混ざっている。しかも、クイーンが蚤をとり終わったらしい猫に囲まれて幸せそうにソファでくつろいでいるではないか。


「その人間はなんです」


「ん? さあ」


侵入者だと判断したジョーカーはゆるみきったその侵入者に拳を叩き込もうとした。ところがそれは片手で受け止められたどころか、腕をとられ関節を固められそうになる。すんでのところで躱し蹴りを放つが、蹴りを放った脚の踵を下から上へ突き上げられバランスを崩し、そのまま上に乗られ動きを封じられる。


「いやいやまってまって!」


東洋風のいでたち、発した言葉も日本語であることから日本人だとは推測できたが、待てと言われて待つ人間がどこにいるのか。そもそも、ジョーカーはもう動きを封じられているのだから待つもへったくれもない。


「RD! 俺、そっちに行くってメッセージ送っただろっ」


[……え、本当に櫂兎だったんですか? 冗談だと思ってました]



少し間を開けて、「トルバドゥール」の制御システムとして稼働しているRDが、その侵入者のはずの男の声に反応した。


「そっちでお世話になってる人にも説明よろしくなって、言ったじゃん…」


それから、男――名を、棚夏櫂兎と名乗った――は、RDの作られた研究所にいた一人であり、倉木博士の助手をしていたことを説明する。クイーンがRDを盗み出し(正確には少々違うのだが、この場はこの表現で問題ないだろう)たときに彼は、ちょうど休暇で研究所にはいなかったらしい。


「結構前から乗ってたし、ここで蚤取りしてた人も普通にしてたから、話済みだとてっきり…」


クイーンのことなので、趣味に熱中して彼のことは興味の外だったのだろう。


「……待て、なら船内に入った時点でRDが生体反応に気付くはずだろう」


ジョーカーのもっともな話にRDは少し困った風に答えた。


[櫂兎には私の生体反応システムが作動しません]


「……」


「そればっかりは俺にもなんでかわからないんだよなぁ」


「何はともあれ!」


クイーンが最後の一匹の蚤取りを終え、立ち上がった。


「親愛なる友人の生みの親の関係者ならもてなさないわけにはいかない、私は大歓迎だよ」


RDはそのクイーンの『親愛なる友人』発言を『一介の人工知能』と訂正した。

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飛ぶ計画
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