心霊探偵 八雲
夢主は皆にとって公園でよくみかけるお兄さん(もしくは青年)です。夢主のお仕事は、公園にいる鳩に餌をあげることです。


心霊探偵 八雲




「あれ、晴香ちゃん、彼氏でもできた?」


「なっ、なな、そんなことはありませんよっ! どうしてそうなるんですかっ」


焦り否定する晴香は、逆に怪しくみえることを自覚していない。といっても、彼女のことなので実際そんなことはなくただ急にふられた話の内容にどぎまぎしているだけなのだろう。


「違ったかー、いや、最近そのネックレスずっとしてるなーと思ったら、晴香ちゃん、時折ネックレスを嬉しそうに見てるし大切そうにしてるし」


「え…」


どうやら本人は無自覚だったらしい。


「だからそのネックレスは間違いなく好きな人からの贈り物かと…」


ぶわっ、と晴香の顔が赤く染まった。彼氏というのはハズレでも、好きな人というのは当たりなのかもしれない。今はまだ気になる人の段階かもしれないが


「その想いが通じたときには、お祝いするよ。教えてね」


「――ッあの、いや、うー、えっと…………はい」





「後藤さん、こんな時間にこんなところにいたらお仕事してない人だと思われますよ」


煙草を手にした後藤はコツンと櫂兎の頭を殴った。


「それはお前さんのことだ」


「俺は鳩に餌をあげる仕事をしています」


真剣な顔で言い切るため、呆れやら何やらを通り越して笑いが込み上げてきてしまった。


「変わってるよなー、世の中お前みたいなのが増えたら何かが変わる気がする」


そう言って後藤はぐりぐりと櫂兎の頭を撫でた。


「そりゃあ、餌をもらえるハトが増えますね。でもこの仕事、そんなに需要はないです」


「はっ、違いねぇや」


それからポケットに手をやり、顔を顰める。


「ライター忘れたんですか? はい」


手際よく渡され、有難く受け取り使ってしまった後でむっと眉を寄せる。


「……お前吸うのか?」


「吸いませんけど、ライターについてたキーホルダーが可愛くて、つい…」


何だからしいなと思った。


「後藤さんはきっと今の仕事、やる気は素晴らしいのに向いてないんですよねー」


唐突に言われて、煙草を取り落とした。まだ長かったのに、もったいない。


「疲れたら、俺が今してる仕事後藤さんに譲ってあげてもいいですよ」


「誰がするか」


「そうですかー。あ、煙草。ちゃんと火は消しましょう」


後藤はまだ長い煙草の火を踏み消し、水飲み場近くにあった屑篭に捨てた。


そこで、休憩時間が終わったことを告げに石井が来た。……かと、思えばまだ時間があったらしく、石井は櫂兎と一緒になってハトに餌をやりはじめた。バサバサとハトが羽音をたてて寄ってくる。いい大人がハトに餌やりする姿は見ていられなかった。





「あれ、コンタクト外したんだ」


八雲は眉を顰めた。前まで黒かった瞳が赤くなったなら、普通こちらをカラコンだと思うはずじゃないだろうか。これではまるで八雲の本来の片方が赤い瞳であることを知っていたかのようではないか。


この公園のそばを通るときに、彼はいつもいて話しかけてくる。しかし彼のことは、名すら知らない。一度もこちらが返事をしたことがないからだ。


今日もそのまま通り過ぎ、何気なく振り返った。


(――――?)


一瞬、彼の近くに浮遊していた霊と、彼が言葉交わしたように見えた。死者が生者に関わることはない、気のせいだろう。





いつの間にか公園には鳩に餌付け禁止の看板が設置され、彼の姿はなくなっていた。


(変な人だったなあ…)

(変な奴だったなあ…)

(……、……。)

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飛ぶ計画
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