「拾い物には気を付けるんだよ、破滅の道への道標にしかならないから」
DEATHNOTE
「捜査に協力して下さい」
「嫌です」
Lの頼みを櫂兎はばっさり断った。
「妹捜しに忙しいのに、そんなの手伝っていられません」
そう言ってLの口にショートケーキを詰め込んで走り去った彼のことを、Lは思い返していた。
(棚夏 櫂兎、本人はそう名乗っているがそんな人間の戸籍は存在しない。それ以外のことは普通の青年、数年前夜神家の隣に越してきている。月君曰く兄のような存在、月君がキラであるかどうかを調べる上でも、彼はこちらに引き込んでおきたかった…そしてあのケーキは美味しかった…)
彼の妹捜しに協力することを交換条件に申し出れば、「捜すだけなら自分でできる、妹の居場所が分かったなら協力しよう」と言われた。一個人と国際組織の力を同等のものと言われて少しムッときたが、彼の情報収集能力の高さは悔しいことに世界最高水準だった。下手をすればこちら以上なのである。ハッキングの腕だけでなく独自の情報網をもっていて、それだけの情報収集能力がありながら彼の妹が見つからないことは、彼の妹が存在しないことを示していた。いないものの居場所を示すことなど出来ない。今尚捜し続けているという彼の行為も理解出来ない。
諦めるには惜しい人材、敵には回したくない存在。
(そして何よりあのケーキを作ったのが彼自身らしいんですよね…)
「うーん、欲しい人財」
+
「らーいーとーっ」
ガシッと後ろから急に肩を掴まれた月はびくりと身体を跳ねさせた。
「わっ、びっくりした…櫂兎兄さん、来てたの。部屋に入るなら言ってよね」
「ん、何々? 思春期ってやつ? それともお約束のエクストリームエロ本隠しか!」
「そんなのないよ!」
しかし、全く扉のあく音にも彼の存在にも気付かなかった。自分でも思った以上にリュークとの話にのめり込んでいたらしい。
「ん、何これキラのサイトじゃん。確か、犯罪者を心臓麻痺で次々死なせてるっていう、あの」
丁度開いていたパソコンのページに、閉じておけばよかったと後悔した。彼はやたら勘がいい、何も察していなければよいが。
「手も触れず、ナイフで刺したり毒を飲ませるでもなく心臓麻痺で死なせるなんて、魔法みたいだよね」
「魔法…なぁ。……悪人だろうが誰だろうが、人を殺したらそれは立派な人殺しだ」
「えっ」
「って何かの漫画に書いてあった気がする」
櫂兎の言葉に焦る自分を自覚し、首を振る。それは粛清であって、新世界の為なのだ。多少の犠牲は必要だし、悪人が生きていていいはずがない。
「…兄さんは」
「ん?」
「櫂兎兄さんはどう思う?」
彼は少し考えたあと、答えた。
「悪人でも何でも、人が死ぬのは、ましてやそれが知り合いだったりするのは嫌だなぁ。ほら俺、自分勝手だから」
+
「やっぱり俺の目良くなり過ぎてるよなぁ」
櫂兎は夜神家から帰宅して、目頭をおさえた。ハリポタでやたらゴーストに囲まれる生活をしていたせいか、それともハンターでやたら身体能力上がったせいか。なんにせよ、見えないはずのものまで見えてくるのはいただけない。
「それともなんだ? 俺気付かないうちにノート触った?」
首をひねっても思い当たらない。とにかく、玖渚から学んだ情報収集方法では妹の存在がみつからなかった、この時期に居なければ今回もハズレということだろう。さっさと帰って次の世界へ、探しに行きたいところなのだが。
「あと何悶着あることだろうな」
面白いほどにトラブル体質かつ巻き込まれ体質らしく、今まで嫌という程いろんな世界でそれを体験した。今回も、あっさりとは帰れないだろう。今からを思って、櫂兎は深いため息をついた。
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bkm