「いーくん、俺の妹を見つけたらすぐさま教えてくれ。みればすぐわかる、この世の何より可愛いから」
戯言シリーズ
扉の外からきこえる声と足音に来客かと立ち上がる。その来訪者が扉に辿り着く前に、中から扉を開けた。案の定彼がいた
「やあ、いーくん。これ、お土産の八ツ橋」
……ここは京都なのだが、京都土産の八ツ橋とはどういうことだろう。そう顔に書いてあるのを察したのだろう、彼は困った風に笑いながら理由を話した
「鴉の濡れ羽島っていうところに行ってきたのだけれど、お土産売ってなかったどころか俺はお呼びじゃないと追い出されてね」
「……天才達が集められる、ですか」
「よく知っているね。俺の妹が可愛いの天才かもしれないから行ってみたけれど、ハズレだったよ」
可愛いの天才とは何だ、とは突っ込まなかった。彼は妹にかけての話ではたいそうな妹馬鹿をみせるのだ。
「鴉の濡れ羽島。ロシア語で『絶望の果て』を意味する、希望の始まりを期待するには些か名が似合わなすぎたね」
そう言って彼は肩を竦めた。そしてふと部屋の中を覗き込んできては、「あちゃあ」とリアクションする。
「お友達が来てたのか、お邪魔して悪かったね。俺はもう帰るとしよう。いーくんのお友達、彼をよろしくね」
ひらひらと手を振って、彼は去って行った。
部屋に戻ると我が物顔でくつろいでいる零崎が、嫌なものを思い出してしまったような顔をしていた。
「どうしたんだ」
「いや、知り合いのブラコン思い出しただけだ。さっきのヤツもこのアパートの住人か?」
「大家さんの隣の部屋に住んでる、消えた妹を捜すために異世界からきた自称1216歳の棚夏櫂兎さん」
「……はっ?」
「みいこさんが路上に落ちてたのを拾ってきたんだ」
「犬猫かよ、ってかその前にあんなマトモそうで誠実そうなニーサンが?!」
ぶっとびすぎだろ、と顔を青くする零崎に、残念ながら事実であることを告げた。
ちなみにそれさえ除けばまともな普通の常識人だと思う。ただし仕事は何をしているか謎だ
「わー、知りたくないもの知っちゃった感じ」
今から仮にも捜査に乗り込むのに、気が重くなってしまった
「八ツ橋食おうぜ、景気付けに」
零崎はそう言って、返事も聞かず八ツ橋の箱を奪い包装を外した。
「潤さん、今回もお仕事手伝わせて貰いにきました」
「またか、っていうか毎度場所よく分かるな」
「妹を見つけるより楽勝でしたよ」
櫂兎はそう言うとへらりと笑った。彼のいう見つからない妹、本当に存在しているのだろうか。ちなみにネットサーバー上で分からないことなしの玖渚友の情報網にも彼女はかからなかったが、彼は「まだいないだけかもしれない」と謎の言葉を口にし、引き続き捜すことを求めている
「こんな仕事手伝うよりちゃんと働きゃいいのに」
「戸籍もない自称1216歳が真っ当な仕事に就けると思います?」
櫂兎はそう言って肩を竦めた。少なくとも就職どころか定年退職も何もあったものではない
「で、今回手伝えることはありますか」
櫂兎の問いに潤はニヒルな笑みを浮かべた。
「ああ、京都通り魔殺人事件の犯人捜し、だ」
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bkm