万事屋に、まともな客がやってきた。
「銀さん、お客さんですよ、すごく誠実そうで真面目そうでいい人そうな」
「あのなー新八、そういう奴に限って悪人っていう法則がなー」
「会ってすぐ挨拶と一緒に酢昆布くれたアル、いい奴に決まってるネ」
「早速物で釣られてんじゃねーかお子様が!」
目の前でされるやりとりに、客として訪れたその人物は戸惑いながらも口を開く。
「あのー、依頼いいんでしょうかー……」
「はいっ、どーぞどーぞこっちはお気になさらずーっ」
新八が銀時と神楽をおさえる。
「おい馬鹿何すんだ」
「馬鹿はそっちですよ! ここのところ仕事なし報酬なし給料なしで食事も三食まともに食べられてないっていうのにあんたはせっかく来た客無碍にして帰すっていうんですか!」
「えーでも悪人の法則ー」
客の前ですったもんだする万事屋達に、客人は困った風に苦笑いし頬をかく。
「えっと、お取り込み中なら時間ずらしても大丈夫ですしなんなら明日来ますけど」
「いい人っ! 凄くいい人じゃないですかっ! もういいです銀さんは黙っててくださいね!」
新八は有無を言わせず銀時を押しのけ客人と向き合う。身なりもさることながら、姿勢もピシッと綺麗、マダオと正反対のできる人間オーラが漂ってくる。表情は柔和なものでいかにも常識人
(こういうのだよ! こういう人が現れるのを待ってたんだよ!!)
この人とならボケもツッコミもなしで眼鏡を本体扱いされることなくほのぼのとお茶の間を過ごせるかもしれない。みているだけで癒されるような気がする
「あの、ではお名前とか色々お聴きしてもいいですか?」
笑顔で新八が問う。客人も笑顔になり、その問いに答えた。
「棚夏櫂兎、1168歳。ついこの間まで異世界で杖を振り回すタイプの魔法使いやってました」
新八の淡い期待は、あっさりと裏切られた。
「この漫画にそんな常識を求めていたことが間違いだった…ッ!」
大きく期待してしまっていただけに新八は大きなダメージを受けていた。うちひしがれる新八から、銀時に依頼内容きくことはバトンタッチされる。
「念のためきくけどネトゲとかじゃなくて? 年齢もレベルじゃなくてマジもの?」
「はい、ちなみに今はニートです」
「いい笑顔で言い切った!」
うちひしがれていても新八はツッコミを忘れなかった。
「え〜、で、依頼内容は?」
「妹を……」
櫂兎の真剣な視線が、銀時の死んだ魚の目を射抜いた。
「妹を、捜してください」
銀魂 〜前振りだけで半分以上占める小説にろくなオチはない〜
櫂兎は、異世界を巡り、その先でも場所を転々とし、何処かにいるはずの妹を捜しているのだと述べた。
「妹さん何歳? 写真とかないの」
「17歳で、写真はありません。でも、一目みれば分かる特徴があります。それは…」
「それは?」
「この世の何よりも可愛いことです」
櫂兎は自信満々に言い切った。
「前金だけで結構な額貰っちゃいましたね…」
「見つからなくても構わないとはな」
ぺらり、と彼の描いた妹の似顔絵(彼曰く「この数百万倍可愛い、それは紙に表せるものじゃない」)をみながら銀時は呟いた。
「酢昆布何枚買えるアル?」
新八の持っていた紙袋を神楽が奪う。ごつんと銀時は神楽の頭を殴ってそれを取り上げる
「全部酢昆布につぎ込む気か、阿呆」
神楽は口を尖らせたあと、ぽつりと呟いた。
「……見つかると、いいアルね」
「……だな」
「じゃ、ないですよ! 捜すんでしょーが!」
「あの後『見つかったら教えてくれ』って言い直してたろうが」
彼は、捜す気満々で立ち上がった万事屋三人をみて、少し迷った風にした後、依頼を言い直したのだ。見つかる可能性は低いから、らしい。
「可愛い娘をさがしてればすぐですよ」
「そう簡単にいくかねぇ……」
難しげな顔をして銀時は言う。新八は口をへの字にした。
家に帰った新八は、一度姉に心当たりがないかきいてみた。
「この世の何よりも可愛いコの心当たり? あるわよ」
「本当ですか!」
「ええ、私」
なんてこった、姉上が櫂兎さんの妹だったなんて。ということは櫂兎さんは実は僕の兄――
「なわけあるかああああああ!」
新八のツッコミが木霊する。銀時の難しげな顔の理由が分かった気がした。
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bkm