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王馬の嫉妬を狙ってないけど天海に絡む



リクエスト:これの結果

食堂へ向かう廊下の途中、先を歩くみょうじさんを見かけた。思い出すのは昨日、王馬君に連れ去られた彼女の姿だ。僕は小走りに追いかけて声をかけた。

「みょうじさん!」
「ひっ!」

大げさなくらい肩をすくめた彼女に、こちらが怯んでしまう。恐々振り返った目に涙が浮かび、「さ、最原……何の用?」と弱々しい声が上がった。

「えっと……おはようって言いたかっただけだよ」
「おはよう、私、食堂行くから……」
「僕も行くよ」

自然に隣に並んだら、ますます怯えられる。しかしそれは僕に対してというよりは、誰かが来ることを警戒しているようだった。

「昨日、大丈夫だった?」

僕の問いかけに、彼女は目に見えて青ざめた。伏し目がちに周りを見渡すと、小さな声で何か呟く。その声が聞こえなかったので、身を乗り出して彼女に耳を寄せると、また大げさな動作で飛び退いた彼女が、僕を避けるように壁に張り付いた。

「みょうじさん……?」
「ごめん最原、それ以上は近づかないで!」
「え、ど、どうしたの?」
「あの後、王馬が……」

言い淀んだ彼女の顔色は、すっかり血の気が失せていた。昨日の王馬君の様子を思い出し、もしかしたら相当ひどい目にあわされたのかもしれないと思った僕は、それ以上は何も言わず、一定の距離を守って歩いた。

僕たちが食堂へ着くと、もうほとんど揃っていた。王馬君はまだ来ていないようで、みょうじさんが露骨に胸をなでおろす。

彼女が椅子に腰を下ろす。隣に座って欲しくなさそうだったので、僕は一つ間を空けて座った。一体王馬君は、みょうじさんにどんなトラウマを植え付けたんだ……。

「おはようございます」

僕らの間の椅子が引かれ、天海君が着席した。あっ、という顔をしたみょうじさんは、挨拶を返すのも忘れているようだった。

「どうしたんすか?みょうじさん、なんか今日、元気ないっすね」
「え」
「いつもならもっと誰かしらと盛り上がってるじゃないっすか」
「普通だよ、普通」

慌てて取り繕う笑みを浮かべた彼女。天海君は首を傾げたものの、それ以上追求することはやめたようだった。

「そういや髪おろしてるんすね。珍しい」

天海君が話題を変える。確かにいつもは一つ結びにしている彼女が、今日は何もせずおろしていた。

みょうじさんの横顔が赤く染まる。その理由がわからず困惑していると、天海君は何を思ったのか、フォローするように「似合ってるっすよ」と口にした。

「ねえ、最原君」
「えっ」

突然話題を振られた僕は動揺する。

「髪おろしてるみょうじさん、可愛いっすよね」
「えっ、う、うーん」
「そうかな?もっさくてブサイクさに拍車がかかってると思うなー」

声が増えたと思ったら、いつの間に来たのか王馬君が立っていた。みょうじさんが動揺をあらわにし、テーブルがガタッと揺れた。

「王馬君、おはよっす」
「天海ちゃん、大丈夫?眼科行った方がいいよ!」
「はは……酷いっすね。みょうじさんは王馬君の彼女でしょ?」
「そうだね、確かに型崩れして見るに耐えないところはあるけど、オレのものだよー」

軽快な口調で笑い飛ばしたけれど、昨日のことを知っている僕はハラハラした。みょうじさんはうなだれたまま、二人のやりとりを聞いている。

「……ていうか、オレは髪ちゃんと結べって言ったんだけどねー?」

突如冷えた目をした王馬君に、みょうじさんが思い切り顔を上げた。何か言い返そうとしたらしく口を開きかけるけれど、それすら遮るように彼は続ける。

「ねぇ、みょうじちゃん。キミが誰のものか示す所有の証だって言ったよね?なんで隠してるのかな?」

髪をかき分け首筋をなぜられ、みょうじさんの背筋がピンと伸びた。勢いよく立ち上がったせいで、椅子が床と擦れて大きな音を鳴らした。

「みょうじさん、大丈夫っすか?」
「……」
「みょうじちゃん、答えてあげないの?」
「だ、大丈夫!大丈夫だよ!」
「だって!天海ちゃんが心配することないね」

天海君は不審がるような顔つきをしたけれど、それ以上関わることを面倒に思ったのか曖昧に笑った。

王馬君は、反対にいた夢野さんを無理やりどかすと、みょうじさんの隣を陣取った。

それから彼は、何やら彼女にボソボソ耳打ちをしていた。みょうじさんの顔色が赤くなったり青くなったりするのを見て、僕は彼女の不幸に心の中でこっそり同情したのだった。

170208