046.21日目『夜の時間』


 ――――PM20:00、会議室
空太
(……投票の時間になった。
 ……俺は、ついには果帆と仲直りすることができず、
 1日中部屋に閉じ籠っていた。
 …………避けてるのは、……俺、なんだけどね)
果帆
「……………………」
空太
(……果帆は、無条件にあたしを信じてほしいと、そんなニュアンスのことを言った。
 …………でも。
 俺にはわからなかった。
 例え果帆が本当に人狼だったとしても、彼女を…………最愛の女性を、裏切ることができるのか。

 ……………………。
 16人もいたのに、残りは5人になってしまった。
 でも…………そんな状況にも少しずつ慣れてしまったんだ。
 俺は自分の感情がわからなかった。
 混乱しすぎて、頭がぼーっとする……。

 俺はちらりと佐倉を見た。)
小桃
「……………………」
空太
(佐倉は…………睨み付けるように小田切を見据えていた。
 その真意は、……俺にはわからなかった)
冬司
「…………話し合いは昼間に済んだ。
 ……もう、投票しよう」
美海
「……………………」
小桃
「……………………」
果帆
「……………………」
空太
「……………………」
冬司
「…………いっ、せーの、……っせ」
果帆
「……………………」
空太
(果帆は白百合を指した)
美海
「……………………」
空太
(白百合は果帆を指した)
冬司
「……………………」
空太
(小田切は果帆を指した。
 …………そして、俺と、佐倉は)
小桃
「……………………」
空太
「……………………」
(…………小田切を、指した)
果帆
「……………………」
冬司
「…………決選だね」
空太
(小田切と、果帆で決選投票……)
果帆
「……………………」
空太
(…………果帆が生唾を飲む音が聞こえた……)


 ……………………。


冬司
「……いっせーの、っせ」
美海
「……………………」
空太
(白百合が…………果帆)
小桃
「……………………」
空太
「……………………」
(……俺と佐倉が、小田切だった)
冬司
「……………………。
 …………決まったね」
美海
「小田切くんっ」
冬司
「……一応聞いとこうかな。
 …………なんで、俺?」
小桃
「…………もし、千景くんと和華と間宮さんが人狼なら、
 今、人狼1人と村人が4人だわ。
 ……もし、千景くんと白百合さんと小田切くんが人狼なら、
 人狼が2人に、村人が3人。
 …………あとが、ないの。
 確実に人狼を処刑をしなければ、村人の敗北が確定してしまうの」
冬司
「…………間宮さんが人狼で、それで終わりとは考えられなかったんだ」
小桃
「…………もう、わからないの。誰が嘘つきなのか。
 …………でも、死ぬのは怖い。
 もしも、間宮さんが人狼じゃなかったら」
果帆
「…………村人が、敗北する」
小桃
「……気休めにしかならないかも知れない。
 夜、襲撃されたら、……意味もない。
 でも…………あたしには、間宮さんも白百合さんもどちらも同じくらい疑わしいわ。
 ……なら、昼間、小田切くんが言ったように、あなたに投票させてもらったの」
冬司
「いいよ。……お願いしたのは俺だから」
(これで……白百合さんを傷付けることができる)
美海
「……これで、終わりだと思ったのに。
 …………仕方ないのね」
冬司
「俺が望んだことだから」
空太
「……………………」
(小田切はそう言って、ロープを手に取った。
 …………勝平のときと同じように、自分で、ロープを縛り付けた。
 椅子を台にして、首をかけて)
冬司
「…………白百合さん」
美海
「…………はい」
冬司
「…………負けないでね。自分にも、みんなにも」
美海
「小田切くんっ!」
冬司
「さようなら」
空太
(小田切はそう言って…………椅子を、蹴った。
 …………小田切は、小川のように穏やかで、優しくて落ち着いたやつだった。
 ほとんどもがくこともなく、静かに、首を吊った。

 ……………………。
 …………10分ほど、経っただろうか。
 俺たちは宙吊りになり、揺れる小田切をじっと見詰めていた……)





 ――――PM11:00、空太の部屋
空太
(…………残り、4人になった。
 人狼は、あとひとり残っている。
 …………果帆か、…………白百合か。

 今晩人狼は誰を襲撃するんだろう。
 ……佐倉かな、俺かな。

 …………もう、俺でもいい。
 疲れてしまった。なにもかも。
 ……俺は直接手にかけたことはないけど、
 …………勝平も小田切も、たぶん、こんな気持ちだったんだな。
 疲れて、疲れ果てて、……生きようと思う気力すらない。
 …………佐倉はすごいよ、それでも、生きていたいなんて。
 果帆も、白百合も、…………女の子って強いんだな。

 もう、投げやりな気持ちだった。
 ……明日死んでるのは、俺であればいいんだ……)






 ――――AM01:30、小桃の部屋の前
美海
「…………勝平くん…………小田切くん」
(死んでしまった、二人の名前を呼ぶ。
 …………あたしひとりになってしまった。

 …………ねえ、アキラ、朔也。
 …………直斗くん、結翔くん、由絵、みんな。
 ………………あたし、やれるよね。
 みんながあたしに託してくれたこの命、無駄になんて絶対にしないから。
 ……小桃ちゃんを、殺すわ。
 そして、…………強くなって、犯人も絶対に見付け出して、そして、殺してやるわ。
 みんなの無念は、あたしが受け取ったから。
 …………だから)


 カチャ――――

美海
(あたしは小桃ちゃんの部屋を開けた)
小桃
「………………白百合さん」
美海
(彼女は、机の前でゆっくりと、あたしを待っていた)
小桃
「…………あなたが人狼だったのね」
美海
「…………そう。……あたしよ」
(あたしは昨晩小田切くんに預かったネイルガンを構えた。
 ……小桃ちゃんは、意外と強かな女の子だった。
 ゆっくりと睨み付けるだけで、動じなかった)
小桃
「…………道明寺くんを殺したの?」
美海
「…………ええ。あたしたちが、そうしたわ」
小桃
「…………八木沼さんも?」
美海
「ええ」
小桃
「……ショックだったでしょうね、恋人に裏切られるのは」
美海
「…………託されたよ、自分の命を。
 アキラと由絵はね、殺さないと、みんな死ぬからって。
 …………本当に、優しいよね」
小桃
「……あなたもショックだった?」
美海
「…………あんなに辛いことはなかったわ。
 …………でもね、もう、慣れてしまった」
小桃
「…………白百合さん、辛かったね」
美海
「…………ありがとう」
小桃
「………………でも。
 ……乃木坂くんを殺したことは、許せない」
美海
「……許してもらえるはずがないわ」
小桃
「あたしはあなたを許さない」
美海
「……許してほしいなんて、言えないわ」
小桃
「……………………」
美海
「……………………」
小桃
「…………っっ!」
美海
「……!!」
(小桃ちゃんは、さっとあたしの間合いを詰めた。
 小桃ちゃんの指が、あたしのネイルガンに触れる。
 …………あたしたちはしばらく揉みあった。
 生きていたいと願う彼女と、……あたし。

 あたしは小桃ちゃんを思いきり振り払った。
 あたしより10センチほど身長が低くて小柄な彼女は、ベッドの上に倒れ込んだ)
小桃
「……白百合さんっ!」
美海
「小桃ちゃん!!」
(あたしは、…………ネイルガンを打ち込んだ。
 パシュ、パシュ、パシュと何度も音が鳴って、
 …………やがて、カチ、カチと、釘が発射されなくなった)
小桃
「……………………」
美海
「……………………」
(……小桃ちゃんは、釘を滅多刺しにされて、すでに動かなくなっていた。
 …………目は、開いたまま。

 …………あたしは彼女にそっと近寄った。
 瞳を閉じてあげて、そして、苦労してベッドにしっかりと横たえて、指を組ませてあげた。

 …………あなたは、朔也のことが好きだったのよね。
 …………あたし、応援してた。二人が上手くいけばいいのにって、思ってたよ。
 …………小桃ちゃん)
美海
「…………ごめんね」
(あたしは、彼女の部屋を後にした)






――――21日目、終了



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