044.20日目『夜の時間』


 ――――PM21:10、リビングルーム
美海
「…………用心棒の人」
空太
(リビングルームに戻る途中、
 白百合がそう言ってみんなに呼び掛けた)
美海
「…………もし、生きてたらだけど、
 今晩はあたしを守って。
 …………果帆を、占うから。
 …………これできっと、なにもかもはっきりするわ」
果帆
「…………いい加減にしろよ」
美海
「……………………」
果帆
「…………お前が人狼だろ?
 …………お前が殺したんだよ、七瀬も、みんなも」
美海
「……あたしは占い師だわ」
果帆
「あたしにはわかってんだよ!
 あんたがっ、人狼だって……!」
冬司
「……いい加減にして」
空太
(……小田切はそう言って果帆と白百合の間に割って入った)
冬司
「…………間宮さんが人狼だよ?
 もう、答えは出たんだ。
 明日、君を処刑して、それで終わりだ」
果帆
「っっ…………!
 空太……!」
空太
「っ…………」
果帆
「……頼むよ。なんとか言ってくれ……」
空太
「っっ………………。
 …………………………」
果帆
「……………………くそ!」
直斗
「果帆!」
空太
(果帆は、走り去ってしまった。

 …………果帆と白百合は、あんなに仲が良かったのに。
 親友同士が争わなきゃいけない。
 ……俺と果帆のように、恋人同士も。

 …………なんでこんなことになっちゃったんだろうな。
 ついこの間までは、みんなであんなに笑い合っていたのに。
 誰も信用できない。誰を信じれば良いのかわからない。
 ……こんな風に、友情や愛情って壊れていくんだ……)
直斗
「……美海、平気か?」
美海
「……平気。ありがとう」
冬司
「……無理しちゃダメだよ、白百合さん」
美海
「うん…………」
小桃
「………………ねえ」
空太
「…………佐倉? どうしたの?」
小桃
「…………あたしの意見を述べてもいい?」
冬司
「……?」
美海
「……なあに、小桃ちゃん」
小桃
「…………さっきは和華に投票したけど、
 ……白百合さんと小田切くんも、怪しいのよね。
 …………それに、本堂くんも」
空太
「え……?」
冬司
「…………佐倉さんから見たら、そうだろうね。
 でも、俺が村人だってことは明日、証明してみせるよ」
小桃
「そうじゃなくて…………。
 さっきから、小田切くんは白百合さんを庇いすぎてるわ。
 ……それは、和華と間宮さんにも言えたことだけど、ね」
冬司
「…………そう言うことね」
空太
「あの、…………なんで俺も?」
小桃
「真っ先に白百合さんから村人認定されてるから」
空太
「……………………」
(……そうだった。
 だからこそ俺は、白百合を信用してるんだから)
直斗
「……もう遅い。
 …………この話は明日にしないか?」
冬司
「そうだね。
 寝る準備を済ませて、11時には部屋に戻らなきゃ」
小桃
「……もう人数も減ったから、そんなに急がなくてもいいと思うけど」
美海
「それは…………そうだけど」
小桃
「白百合さん…………なんであんなこと言ったの?」
美海
「え……?」
小桃
「あたしを……守ってくれって」
美海
「……あたしが生きてれば、果帆が人狼なのかどうなのかわかる。
 …………占い師って、それくらい人狼にとっても消したい存在じゃないかしら?
 でも、…………用心棒はもういないかもしれない。
 明日殺されてるのは…………あたしかもね」
直斗
「…………くそ!」
空太
「…………直斗?」
直斗
「なんで、……なんで俺が霊媒師なんだ……。
 俺が用心棒だったら、美海を守ることができたのに……」
美海
「…………直斗くん」
直斗
「…………アキラと朔也が死んだ今、
 美海を守るのは俺の役目だ…………。
 …………本当に果帆が人狼なのか?
 ……なら、…………俺を狙ってくれればいいんだ」
美海
「直斗くん……」
直斗
「…………果帆になら殺されても構わない」
空太
「……どういう、意味……?」
美海
「どうしてそう言うこと言うのっ?」
直斗
「…………もう疲れたんだよ。勝平の気持ちがわかる。
 …………こんなクソゲーム、もう、懲り懲りだ……」
美海
「だからって……殺されてもいいとか、
 いつ死んでもいいみたいなこと言わないで。
 …………明日で、終わるから。全部、全部」
(明日の処刑で…………村人と人狼の数が同じになる。
 あたしたちの…………勝利だわ。
 …………悪夢から解放してあげられる。
 だから…………そんな言葉は聞きたくなかった)

直斗
「…………悪い。
 …………適当に、風呂、入るわ」
冬司
「…………そうだね。そうしよう」
空太
(こうして、解散になった。
 10時半頃にお風呂から上がると、ちょうど、果帆と出会した。
 …………けど、果帆も俺も、すぐに目をそらして相手を通りすぎた。

 俺は部屋に戻った。
 …………残りは、6人になった。
 …………もしかしたら、今日殺されるのは俺かも知れないんだ。
 むしろ、今まで生きてただけラッキーだったんじゃないかな。
 ……いや、果帆は言ってたっけ。村人と確定してるやつを殺したがるはずだって。
 あれって…………まんま、果帆の言葉だったんじゃないかな?
 そんなことを考えながら、俺は眠りに落ちた…………。)






 ――――PM23:00、果帆の部屋
果帆
「………………み、み」
(…………大切な、親友だった。
 美海は、あたしにとって唯一無二の存在だった。
 …………こんなぶすっとしてる不器用なあたしに声をかけて、受け入れてくれた。
 いつも明るくて、優しくて、……でもすこし甘え下手で……あたしが支えてやらなきゃって思ってた。
 もしもアキラや朔也が美海を傷つけるなら、あたしは奴らにも牙をむいてやろうとすら思ってた。
 …………それくらい、大切な存在だったんだ。

 …………なのに。
 …………平然と嘘を吐く美海が信じられなかった。
 あれは、あたしの知ってる美海なんだろうか?)


美海
 でももういいの。これからは、自分のしたいように生きるって決めたの。
 あたし、独り暮らしなの。
 今は全部話すことはできないけど、いつか、果帆には話せたらいいなって、思ってるわ。


果帆
「……………………」
(あの言葉は…………本心だったんだろうか。
 …………なにがあった? なにが美海をあそこまで変えた?
 アキラを殺したからか? 朔也を殺したからか?
 …………あたしに、人狼だと擦り付けようとするなんて……。

 今夜、あたしはたぶん殺されないだろう。
 美海はあたしを人狼だと告発するつもりだ)
果帆
「美海…………」
(あんたには失望したよ。
 …………けど、嫌いになどなれない。

 …………嫌いになれたら楽だ。
 ……でも、それくらい大切な存在だったんだ)
果帆
「…………美海、……空太……」
(空太とも……こんな関係になってしまった。
 空太はあたしにとって木漏れ日のような存在だった。
 決して燦々と照らすわけでも強い日差しでもないけれど、
 心の凍てついた固い氷の部分を、そっと緩く溶いていくような、暖かい木漏れ日のような人だった。
 ……その空太とも、もう、笑い合えないかもしれない。
 …………恋人同士って、なんなんだろうな。
 あたしは無条件に信用してた。だって、恋人だから。
 でも……空太はそうじゃないんだ。
 なら、美海に真っ先に村人と認定された空太が…………もう一人の人狼の可能性があるんだ。

 …………アキラ、朔也、由絵、サキ、花菜。
 …………あたしは、どうしたらいい……?)





 ――――PM23:00、直斗の部屋
直斗
「そんな…………バカな…………」

霊媒の結果、
 七瀬和華さんは村人でした。


直斗
「………………まさか」
(嘘つきは…………美海だった。
 あの、美海が…………)
直斗
「…………守って……やらなくちゃ」
(そう思っていたのに…………。
 アキラや朔也を殺したのは美海だったんだ。

 …………でも、あいつらのことだ。
 美海に殺されるなら本望だったんじゃないか?
 誰よりも近くで見てきたから知ってる、あいつらが、どれほど美海を大切にしていたか。
 俺が一番…………よく知ってる)
直斗
「……………………」
(…………たぶん、美海は今晩俺を殺しに来るだろう。
 俺はその時……どうしたらいいんだ?)
直斗
「……………………」
(…………もう……疲れた…………)





 ――――AM00:00、応接間
美海
「……………………」
冬司
「……………………」
美海
「…………直斗くんね」
冬司
「……うん。明日、バレてしまう。
 七瀬さんが村人だったことが」
美海
「勝平くんと和華ちゃんと果帆が人狼で、
 ……あたしたちの、勝利だわ」
冬司
「…………白百合さんのおかげだよ」
美海
「…………あたしなんて、嘘をついただけでなにもしてないわ。
 辛い役割をさせてしまって、ごめんなさい」
冬司
「でも、竜崎くんの時は君が殺ったんだよ」
美海
「…………そうね」
冬司
「…………たぶん、今日は昨日のようにはいかない。
 直斗はきっと、七瀬さんが村人だって結果を知ったはずだ。
 …………起きてると思うよ、ずっと、自分が殺されると思って」
美海
「…………直斗くんは、潔い人だわ。
 …………たぶん、そんなに抵抗はされないと思う」
冬司
「どうかな。
 死を間際にしたら、人は変わる。
 でも、そりゃ、そうだよ」
美海
「…………そうね」
冬司
「…………対格差もある。
 白百合さんは小柄だし、女の子だし……、
 俺は男だけど体格はそんなにしっかりしてる方じゃない」
美海
「…………もう、正々堂々と行きましょう。
 直斗くんと話すの。これまでのことと、これからのことを」
冬司
「…………話してどうなるの?」
美海
「…………あたしの気持ちの問題、よね。
 でも、知りたいと思う。
 あたしがなぜ、アキラたちを殺すことができたのか」
冬司
「直斗のことは、俺より白百合さんの方がよく知ってる。
 君がそう言うならそうなのかも知れないね。
 …………それじゃ、行こう。
 ……直斗と話をしに。
 そして…………命を奪いに」
美海
「…………ええ」





 ――――AM00:30、直斗の部屋
美海
「……………………」
冬司
「……………………」
直斗
「……………………」
美海
(あたしたちは、直斗くんの部屋の扉を開けた。
 …………たぶん、和華ちゃんは本当に用心棒だったんだと思う。
 誰にも守られていない直斗くんは、あたしたちを見て、悟ったような顔をした。
 和華ちゃんが村人だったと知ってるんだ)
直斗
「…………美海と、小田切だったんだな」
美海
「…………ええ」
冬司
「……勝平くんと、俺たち二人が人狼だったんだ」
直斗
「……完全に信じてたよ、俺。
 美海が占い師で、果帆が人狼だって。
 …………果帆に悪いことをした」
美海
「……そうなるように仕向けたのはあたしよ。
 …………気に病まないで」
直斗
「なあ、美海」
美海
「……?」
直斗
「お前が殺したのか?
 アキラと、朔也を」
美海
「…………そうね」
冬司
「殺したのは勝平くんだよ。
 ……彼は、汚れ役を買ってくれたんだ」
直斗
「…………そうか。
 …………どんな気持ちだった」
美海
「…………悲しくて、苦しくて、
 ………………どうしようもなく痛かった」
直斗
「…………そうか」
美海
「…………でもね、あたしが生き残ることが、彼の、
 …………アキラの、願いなの。
 だから…………ごめんね」
直斗
「……………………」
美海
「…………愛してたの、彼のことを」
直斗
「…………美海」
冬司
「白百合さん……」
美海
「…………直斗くん、……ごめんね」
直斗
「…………いいよ。美海に殺されるなら」
美海
「……………………」
直斗
「……果帆でもいいと思ってた。
 だって…………仲間だから、な」
美海
「………………」
直斗
「中等部の頃から、いつも、みんな一緒だった。
 優しくて穏やかな朔也、皮肉屋だけど繊細なアキラ、不器用で情熱的な果帆、天真爛漫でいつもみんなの中心だった美海。
 …………楽しかった。
 …………戻りたいな、あの頃に。
 美海やアキラたちといると、楽しくて、安らいで、今でも俺にとっては、人生の宝だ」
美海
「…………直斗くん」
直斗
「アキラも朔也も望んだんだろ?
 ……お前が、生きていくことに。
 …………むしろ、ごめんな。
 なにもかも、背負わせてしまって」
美海
「…………覚悟はできたわ。
 …………あたしは、みんなの死を無駄になんてさせない。
 絶対に忘れない、みんなのこと。
 …………そして、犯人を必ず捕まえるの」
直斗
「…………俺は美海のこと、頼りないって思ってたけど、
 …………逞しくなったな、美海」
美海
「…………試練、だから」
直斗
「…………?」
美海
「忘れないわ、直斗くんのこと」
直斗
「…………ありがとう」
美海
(…………そして、あたしは……。
 ……直斗くんの腕に、注射針を差し込んだ。
 …………直斗くんは震えていたけど、抵抗はしなかった。
 小田切くんはあたしたちの様子を、静かに見守っていた)
直斗
「…………ぉ、……ぇ」
美海
(……やがて、直斗くんは身悶え始めた。
 小田切くんがあたしに手を伸ばして、直斗くんから引き離した。
 直斗くんは喉を掻きむしるような仕草をしていた。
 ……何度も咳き込んで、……やがて、動かなくなった)





 ――――AM01:00
冬司
「…………白百合さん」
美海
「……ん?」
冬司
「…………これ」
美海
「…………ネイルガン」
冬司
「白百合さんの注射針は、俺に貸して。
 …………交換だよ」
美海
「……どうして?」
冬司
「どうしても」
美海
(有無を言わせないその言い方に、
 あたしは大人しく従った。
 ずっしりとした、重みのある感覚が手に伝わってくる。
 …………でも、あたしでも扱えそうだった)
美海
「…………どうするの?」
冬司
「…………考えがあるんだ。
 …………でも、教えないよ」
美海
「…………意地悪ね」
冬司
「そうだよ。……意外?」
美海
「少しだけね」
冬司
「そう…………。
 じゃ、……そろそろ、寝よう」
美海
「……ええ」
(あたしたちはそう言って別れた。
 …………それが、彼とじっくりと言葉を交わす最後になるとも知らずに)






――――20日目、終了



【残り:5人】


PREV * NEXT



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -