041.19日目『夜の時間』


 ――――PM21:00、死体安置所
空太
(勝平の遺体は、喧嘩が強いだけあって体格もよく、男連中でも運ぶのは一苦労だった。
 …………勝平は和歌野の隣のロッカーに入れられた。
 …………首を吊って死んだのに、勝平は穏やかな顔をしていた。
 そんな風に、俺は感じた)





 ――――PM21:10
果帆
「空太!!」
空太
(みんなで会議室を移動する途中、果帆にそう言って呼び止められた。
 ……果帆は俺の腕を掴んでいた。力強く、力強く)
小桃
「……?」
圭吾
「……?」
果帆
「…………みんな、
 先に戻っててくれないか。
 …………空太と話があるんだ」
空太
「……………………」
冬司
「…………いいけど」
空太
(そう言って、みんな去って行った。
 …………残された俺と果帆は、お互いに喋らず沈黙が続いた。
 果帆は、俯いていた。
 …………やがて、俺の腕を解放した)
空太
「…………なに、果帆」
果帆
「…………あたしのこと、人狼だって疑ってんだろ?」
空太
「……………………。
 …………さっき、勝平のこと、庇ってたし」
果帆
「違う! 庇ってたんじゃない!」
空太
「……………………」
果帆
「…………誰に疑われても、なに言われても、
 …………あたしは、あんたにだけは信じてほしいんだよ。
 …………大好きだから」
空太
「……………………」
(……眠っていた感情が、すこしずつ目覚めてくるようだった。

 …………果帆。誰より優しくて情熱的なのに、不器用な果帆。
 ……俺が苦しめたんだ。

 …………でも)
空太
「…………俺、バカだからよくわからないけど、
 人狼はあと、七瀬と果帆しか可能性が残ってないんでしょ?
 …………みんながそう言うなら、きっとそうなんだ」
果帆
「違うって!」
空太
「…………果帆は、優しいから。
 …………きっと、人狼なんかやらされてめちゃくちゃ傷付いて――――」
果帆
「違うって!!!」
空太
「……………………」
(果帆は、俺の言葉を遮って大声をあげた。
 そして、きっと俺を見据えた。
 気の強そうな目尻に涙が滲んでいた)
果帆
「……………………。
 …………美海が、おかしいんだ。
 …………美海が、嘘を吐いている」
空太
「…………え?」
果帆
「いいか?
 美海が嘘を吐いているとするなら、それは、人狼だからだ。
 裏切り者のサキはもう死んだから、他に嘘を吐く理由がない。

 …………いいか?
 村人として、完全に不動なのは直斗と竜崎と佐倉だ。この3人は間違いなく村人だ。
 でも、それ以外は…………。
 美海が嘘を吐いてるなら、美海に村人認定された、小田切と、…………あんたのアリバイが崩れる。
 わかるか?
 あたしにとっては、あんたも怪しい人物のひとりなんだ」
空太
「…………俺が人狼かもってこと?
 いやいや、それはないから。

 …………そんなこと言うために、わざわざ引き留めたの?」
果帆
「だから、違う、そうじゃない!
 あたしはあんたを信じてる!」
空太
「……………………」
果帆
「…………空太は村人だ。なにがあってもあたしはそう信じる。
 …………なら、だとすると、人狼は美海と、
 小田切か七瀬ってことになるんだ」
空太
「…………果帆さ。
 俺のことは無条件に信じるのに、白百合のことは信じてあげないんだ?」
果帆
「…………え?」
空太
「親友なのに…………」
果帆
「……そ、それは」
空太
「…………果帆が言ってること、
 言い逃れのようにしか聞こえない。
 …………俺、バカだから。……ごめんね」
果帆
「…………空太……」
空太
「…………ごめん。
 一晩、考えさせて」
果帆
「空太!!」
空太
(俺は走り去った)





 ――――PM22:30、空太の部屋
空太
「……………………」
(俺はノートにペンを走らせていた)
空太
「……………………つまり、」
(白百合が嘘を言ってるとすると、
 白百合が村人認定した小田切と俺が、村人確定ではなくなる。
 人狼だってことになっている七瀬は…………どっちにしろグレーゾーンか。
 直斗と竜崎は夜に襲撃されてるし、佐倉はもう一人の共有者だから間違いなく村人。

 …………整理はできたけど、やっぱり俺の頭じゃよくわからないや。
 ひとつ言えることは、白百合を疑うとすると、もう一人の人狼が誰なのか全く手掛かりがなくなると言うこと。
 …………でもさ、状況証拠は七瀬と果帆で揃ってるわけだよな?
 …………みんなも、そう信じてるみたいだし。
 …………第一、あの白百合が嘘を吐けるようには思えない。

 …………ここまで考えたところで、眠くなってきた。
 …………人狼、今晩は誰を襲撃するんだろう。
 …………たぶん、直斗か竜崎か、佐倉なんだろうな。

 …………佐倉。
 …………佐倉と、話したいや。

 ……………………最低だな、俺って)






 ――――PM23:00、和華の部屋
和華
「……………………白百合さん」
(…………わたしは、白百合さんの名前を押した。
 彼女のせいでわたしが窮地に立たされてるのは事実なんだけど、
 …………でもやっぱり、占い師は大切な役職だもの。
 わたしが守ってあげなきゃ)
和華
「……………………」
(…………たぶん、わたしは襲撃はされない。
 人狼と疑われている身だし、人狼はもっと確実にみんなに村人だと信じられてる人を襲撃したいはずよ。
 …………だから、やっぱり白百合さんは危ない。
 …………もし白百合さんを襲撃したとしたら……、それはやっぱり、間宮さんが人狼だからってことになるんだわ。
 …………なぜ? なぜそこにわたしが入ってしまったの?)
和華
「…………そろそろ、限界かもね」
(誰になにを言われようとも、嫌われようとも、
 わたしは明日、切り札を切る。
 …………わたしが用心棒だって)





 ――――PM23:00、直斗の部屋
直斗
「……………………」
(…………霊媒の結果、勝平は、人狼だった。
 …………これではっきりした。
 やっぱり、七瀬と果帆が人狼だ)
直斗
「……………………」
(…………人狼は今晩、俺を殺しにやってくるだろう。
 俺が生きていると、美海に嘘を吐いてると擦り付けられなくなる。
  俺はベッドに横になった。

 …………果帆と、七瀬が来るのか。
 どんな武器だか知らないけど、朔也は身体中釘まみれになってた。
 致命傷は背中の刺し傷だったみたいだが…………)
直斗
「……………………」
(…………女の子二人に、俺が殺せるのかな)





 ――――AM00:00、応接間
冬司
「……………………」
美海
「……………………」
冬司
「…………二人きりになっちゃったね」
美海
「……うん」
冬司
「…………最後の勝平くんの姿さ」
美海
「……うん」
冬司
「立派だった、すごく」
美海
「…………そうね。
 感謝しなきゃ、あたしたち、彼に」
冬司
「…………白百合さん」
美海
「うん……?」
冬司
「……強くなったね」
(白百合さんは固く決心を固めたような顔をしていた。
 たくさん傷付いて、ぼろぼろになって、その果てにこうして強くなったんだ。
 …………今わかったよ、俺。
 ただキラキラ輝いてるだけの白百合さんは、単純に面白くなかったんだ、俺。
 傷付いた末に強く成長していく彼女を見たかったんだ、俺は。
 …………白百合さん、ここに来て、君はどんどん美しくなっていくよ。
 …………そしてそれを、俺がまた、壊してやりたくなるんだ)
美海
「…………ありがとう、小田切くん」
冬司
「…………今日は、誰をやる?
 …………竜崎くんか、佐倉さんで」
美海
「…………竜崎くんにしましょう」
冬司
「わかった」
美海
「…………あなたが先に飛び込んで」
冬司
「わかった」
美海
「……弱ったところを、あたしが、この毒薬で」
冬司
「わかった。……しっかり押さえ付けるよ」
美海
「……お願いね、小田切くん」
冬司
「……でもできれば、彼が寝静まるのを待とう。
 …………野球バカなだけあって、体力は物凄いから」
美海
「…………従うわ、小田切くん」





 ――――AM01:30、圭吾の部屋
圭吾
「…………zzzzzzzz」
冬司
「……………………」
美海
「……………………」
圭吾
「…………zzzZZZZZ」
冬司
「…………寝てるね」
美海
「……ね」
冬司
「……押さえ付けるよ。
 ……白百合さん、注射針を」
美海
「ええ…………」
(小田切くんは竜崎くんの腕を押さえつけた。
 竜崎くんは一瞬跳ね上がったけど、あたしは完入れず注射針をその腕に突き立てた。
 …………一気に注入して、二人でさっと距離を置く)
圭吾
「……小田切、……白百合」
冬司
「……………………」
美海
「……………………」
(竜崎くんは起き上がった。
 あたしたちを見て、驚愕を表情を浮かべた。
 …………でも、それも長くは続かなかった。
 …………次第に苦悶の表情を浮かべ、身悶え始めた。
 泡を吹いて、ベッドの中で悶える彼を残して、
 …………あたしたちは、部屋を後にした)






――――19日目、終了



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