038.18日目『夜の時間』


 ――――PM20:55、会議室
果帆
「き、きゃああああああ!!」
勝平
「く…………くぅぅ…………」
圭吾
「ううううう、なんなんだよぉおおお!
 なんでこんなことになっちまったんだよぉおぉおお…………」
空太
(…………絶命した和歌野は、血塗れだった。
 ちょうど背中を斜め切りにされ、鮮血が吹き出した。
 ……勝平と、竜崎と、果帆は、返り血を浴びていた。
 …………果帆が、こんな女の子みたいな悲鳴をあげるなんて……。
 余程、ショックだったんだろう)
美海
「う、うぅぅぅ…………果帆…………」
果帆
「美海…………み、み…………、
 あた、し…………サキ……サキを…………」
美海
「うん…………うんっ、あたしも、
 許せな、かった…………。
 花菜があんなに大切にしてた、サキちゃんを…………」
果帆
「くふっ……ううぅ…………くっ……」
空太
(白百合が果帆を抱き締めようとした。
 …………が、果帆は、拒絶するような素振りを見せた)
果帆
「ダメだ…………服が、汚れるだろ…………」
美海
「そんなのいいっ、いいのっ」
空太
(白百合は果帆を抱き締めた。
 ……俺も、すぐにでも果帆のそばに寄って、そうしてやるべきなんだろう。
 …………でも、今回の処刑はあまりに凄惨すぎた。
 今までは、スタンバトンで気絶させた後の首吊りだった。
 それはそれで、色々出ちゃったり、ひどい有り様だったけど、ここまでショッキングではなかった。
 …………血。鮮血が、脳裏にこびりついた)
勝平
「はあ…………はあ…………はあ…………」
空太
(勝平は…………刀を降り下ろしたまま、荒い呼吸を繰り返していた。呆然と、和歌野を見下ろしていた。
 竜崎は、転がり回って嘆き喚いていた)
朔也
「…………勝平」
空太
(朔也が勝平に駆け寄った。
 …………硬く、硬く握り締めていた血塗れの日本刀を、すこしずつ指から引き離してやった)
勝平
「乃木坂…………俺、俺…………女の子を……こんな殺し方しちまった……」
朔也
「……………………」
勝平
「ちくしょう…………犯人、誰なんだよぉ…………」
空太
(勝平は崩れ落ちた。
 その勝平の背中を、朔也は無言で何度も擦ってやっていた…………)





 ――――PM21:30、リビングルーム
空太
(…………女の子たちをリビングに戻した後、和歌野の遺体は、男子たちがロッカールームに運んだ。
 …………小日向の、横へ……。

 血で汚れてしまった、果帆と竜崎と勝平、それから白百合と朔也はシャワールームへ行った。
 たぶん、女子と男子で分かれて入るんだろう。
 七瀬と佐倉が倉庫から着替えを運んで行って、今、リビングに戻ってきたところだ。
 悲痛な面持ちで…………。
 他のみんな――俺、直斗、小田切、七瀬、佐倉――は、リビングルームに集合していた)
直斗
「…………いつまで続ける、こんなこと」
冬司
「…………村人か、人狼か、
 …………どちらかが勝利するまででしょう」
小桃
「…………なぜそんなに冷静に考えられるの?」
冬司
「…………人狼が誰なのか、目処が立ったから、……かな」
空太
(そう言って小田切は、七瀬にちらりと目を配った)
和華
「…………わたしは違うわよ」
冬司
「じゃあ白百合さんが嘘を吐いてるんだ。佐倉さんの言う通り、裏切り者……かな?
 …………それじゃあ本物の占い師は、誰なんだろうなあ……」
和華
「……………………」
冬司
「それに……和歌野さんは、妙な冊子を持ってたよね」
小桃
「……あの冊子なら、あたしが持ってるわ。
 …………『狂人の振る舞い方』…………、中身も、確認したわ……」
冬司
「…………だったら、もう、やっぱり和歌野さんは裏切り者で確定だよね」
小桃
「……白百合さんが裏切り者かもなんて言ったのはあたしだけど、
 …………そういうことに、なるわね」
和華
「……………………」
(本当にわたしじゃない、わたしは『用心棒』だもの。
 …………でも、白百合さんが嘘を吐いているようには思えないわ。
 …………彼女は、平然と嘘を吐けるような女の子じゃないと思うから。
 …………なにか、なにか矛盾があるはずよ。どこかに、どこかに……)

直斗
「…………なあ、やめないか?
 今は誰も冷静じゃないし……不毛、とは思わないけど、
 けど、話し合うのは今じゃないと思うんだ。
 …………みんな、疲れてる」
空太
「…………そう、だね」
(かろうじて相槌だけは打った。
 ……俺は、喋る気にもなれない。

 …………和歌野は意外と気が強い子だったけど、
 でも、お嬢様みたいにおしとやかな女の子だった。
 …………そんな子があんな笑い声を上げて、平然と友達を裏切って、
 …………そして、あんな死に方をしたんだ)
小桃
「…………なにか、食べましょ。
 体力だけはつけなくちゃ。
 …………食欲はないけど、ね」
和華
「そうね、……間宮さんたちのためにも、そうしましょ。
 でも…………作る気にもなれないわね」
小桃
「…………パンがあったから。
 取ってくるわ」
空太
「……………………じゃあ、
 俺も一緒にいくよ…………」
(ギスギスした雰囲気に絶えられなかった)
小桃
「……ありがとう、本堂くん」
空太
「うん…………」
(俺と佐倉は、その場を後にした)





 ――――PM21:45、地下倉庫
空太
「…………揚げパン?」
小桃
「…………さすがに食べれそうもないわね」
空太
(段ボールの中に入っていたのは、大量の揚げパンだった。
 こんな油っこいもの、こんな気分で食べたら戻してしまいそうだ。
 佐倉は別の段ボールを漁り始めた。

 …………ここでも、時計のカチカチとした音が響いていた。
 もうすぐ、10時になる。
 ……シャワーを浴びて、すこし、すっきりしたい気持ちだった)
小桃
「…………ねえ、本堂くん」
空太
「…………なに?」
小桃
「…………本堂くんは、どう思う?」
空太
「…………え?」
小桃
「……本当に、和華と間宮さんと、千景くんが人狼だと思う?」
空太
「え…………ああ、うん……。
 俺……難しいこと全然わかんないけど、
 でも…………俺は、白百合は嘘吐いてないと思うし、
 …………そうなんじゃないかな」
(果帆が…………人狼なんだ、きっと)
小桃
「…………ってことは、あと、3日もかかるのね。
 最低でも、ここから更に6人死ぬのね……」
空太
「……………………」
(そうだ…………今は頭が回らないけど、
 もう、10人になった。
 …………生き残りたかったら、果帆を、殺さないといけないんだ……)
小桃
「…………本堂くん、間宮さんと付き合ってるのよね?」
空太
「…………うん」
小桃
「…………大切にしなきゃね、例え、人狼でも」
空太
「え?」
小桃
「…………だとしたら、彼女もきっと、苦しんでるはずだから」
空太
(俺は…………おかしくなってしまったんだろうか。
 …………なんの感情も沸いてこない。
 …………果帆を愛しいと思う感情は、あんなにあったはずなのに)
空太
「…………俺、変になっちゃったのかな。
 なにも、思えないし……考えられないや。
 …………佐倉は違うの?」
小桃
「……あたしはそうじゃないよ……」
空太
「……………………」
(…………あのこと、聞いちゃおうかな)
空太
「……佐倉はさ、…………朔也のことが好きなの?」
小桃
「…………どうして?」
空太
「…………どうしてかな」
(なにも感じないはずなのに、それだけは…………無性に気になった)
小桃
「…………隠すことでもないわよね。
 …………好きよ。ずっと、昔から、大好き」
空太
「……………………」
(……こんな状況なのに、軽くショックを受ける自分がいた)
空太
「そっか…………」
小桃
「…………例え、彼が白百合さんしか見ていなくてもね」
空太
「…………そっか」
小桃
「でも、好きってそう言うものよ。
 …………なにがあっても、相手に寄り添ってしまうものよ」
空太
「……………………」
(その論法で行くと…………俺は果帆のことが好きじゃないのかな。
 …………もうよく、わからないや)
小桃
「…………あった」
空太
「え…………?」
小桃
「あんパンだけど…………、
 揚げパンよりはマシよね」
空太
「…………そうだね」
小桃
「……戻りましょう」
空太
「…………うん」
(俺と佐倉はリビングに戻った。
 10個のあんパンを持って。

 戻ると、今度こそ全員集合していた。
 ちょうど、直斗がシャワーに行こうとしてたところみたいだった。
 それぞれにあんパンを配って、その日は解散になった。

 …………その前に、果帆が話し掛けてきた。

 なのに…………俺は、

 無視してしまったんだ…………)






 ――――PM23:00、果帆の部屋
果帆
「……………………」
(…………無視、された。空太に)
果帆
「……………………なんで」
(まさか、あたしを人狼だと疑ってるのか?)
果帆
「……………………」
(あたしは……村人だ。
 なんの能力も持たない、ただの、村人だ。
 でもみんなの――少なくとも小田切の中では――あたしと、七瀬と勝平が人狼ってことになってんだ。
 …………なんだ? なにがおかしい?
 …………どこが矛盾している…………。

 ………………………………。
 そうなるとやっぱり、美海がおかしい。
 でも美海が嘘を言ってるようには思えない。
 あの美海に限って…………そんな…………。

 …………誰か、庇ってるのか?
 特別に村人と確定していたのは、アキラ、朔也、直斗、筒井、竜崎。
 襲撃されたってことは、村人だからだってことだ。ここは絶対に固い。
 朔也にもう一人の共有者と肯定された佐倉も固い。
 …………美海が占ったのは、空太と、サキと、……小田切。みんな、村人。
 処刑された目黒と花菜も、直斗によると村人だったんだ。
 つまり…………3人の人狼が残ってる。
 それが…………あたしと、勝平と、七瀬ってことになってるんだから……。
 あれ…………やっぱり、どう考えても美海がおかしい。

 美海…………もしかして、もしかして、
 美、海、……が…………)





 ――――PM23:05、直斗の部屋
直斗
「……………………」

霊媒の結果、
 和歌野岬さんは村人でした


直斗
「…………やっぱり」
(サキちゃんは『裏切り者』だったんだな……。
 俺は、七瀬に投票した。
 果帆と勝平にはどうしても情があって、苦し紛れの、仕方ない投票だったんだ。
 …………ただ、ひとつ、俺にもわかることは……。
 …………サキちゃんに投票する意味はなかった。それだけだ)
直斗
「……………………俺は」
(明日、俺は…………生きていたら順番に、
 果帆と勝平と七瀬を殺さないといけないんだな……)
直斗
「…………っ!!」
(俺は壁をぶん殴った。
 拳がじんじんと痛んだだけで、壁には傷ひとつつかなかった……)





 ――――PM23:10、和華の部屋
和華
「……………………」
(わたしは明日…………殺されるかもしれない。
 …………人狼として)
和華
「……………………」
(…………お父さん。具合はどうなんだろう。
 倒れたとしか聞かされていないわたしには、父の安否はどうしてもわからない。……知りたかった。
 それを知るには、ここを出るしかない。
 ……もし、なんとか一命を取りとめているならば、支えてあげたい。
 …………そして、筒井くんの分も生きていたい……)
和華
「……………………」
(今日は…………誰を守るべきなのかしら。
 普通に考えれば白百合さんだけど、……彼女の占い結果のおかげでわたしは今この状況に立たされてるんだわ。
 …………人狼は、誰を狙うの?
 …………わたしがそこに入ってしまったのが間違いで、間宮さんと千景くんは人狼なのよね?
 …………誰を狙う?
 占われると困るから、やっぱり白百合さんかしら……)
和華
「……………………」
(わたしは迷った結果、白百合さんの名前をクリックした。
 …………いざと言うときは、わたしには一応切り札がある。用心棒だと言う事実が)
和華
「……………………」
(……どうか、人狼の人。
 …………襲撃が失敗しますように)





 ――――AM00:00、応接間
冬司
「…………朔也にしよう、今夜は」
美海
「……………………」
勝平
「…………昨晩失敗してるのにか?」
冬司
「用心棒は白百合さんを守っていると思う」
勝平
「……………………」
美海
「…………わかったわ。
 朔也にしましょう」
勝平
「……白百合! 本当にそれでいいのかよ!?」
美海
「……朔也はいつもあたしを守ってくれるの。
 …………あたしがどんなことをしてるのかも知らずに」
勝平
「……………………」
冬司
「……………………」
美海
「…………解放してあげたいの。あたしから」
冬司
「…………そっか」
勝平
「……………………」
美海
「…………勝平くん」
勝平
「……白百合がそう言うなら俺は構わない。
 …………わかった。乃木坂にしよう」
美海
「…………ありがとう」
冬司
「……じゃあ、行くよ」





 ――――PM00:30、朔也の部屋の前
冬司
「作戦は……いつも通りで」
勝平
「ああ」
美海
「………………」
勝平
「…………行くぞ」

 ガチャ――――

美海
(小さな音を立てて、朔也の部屋のドアが開いた。
 その瞬間、小田切くんは真っ先に朔也の部屋に突入した)
朔也
「……!!」
冬司
「朔也!!」
朔也
「ぐっ……!!」
美海
(ネイルガンのパシュ、パシュ、と言う音が響いて朔也の体に釘が撃ち込まれていく……。
 朔也は後ろによろめいた)
勝平
「うわああああああああ!」
美海
(勝平くんが怒声を上げて、朔也に向かってサバイバルナイフを振り落とす。
 ……朔也はそれをかろうじて交わしきった。
 何度かそんなことが繰り返されて、ついに、ベッドに足をつかえて倒れ込んだ……)
朔也
「はあ…………はあ…………はあ…………」
勝平
「はあ……はあ……、
 乃木坂…………すまん」
朔也
「ちょっと、待て」
美海
(そう言って…………朔也は、あたしを見た。
 …………足にも、胸にも、肩にも釘が刺さっていた。)
「…………朔也」
朔也
「美、海…………」
冬司
「勝平くん!」
勝平
「バカ! 察してやれ!」
冬司
「……………………」
朔也
「……美、海」
美海
(朔也はあたしに手を伸ばすような仕草をした。
 あたしは、恐る恐るベッドからあたしを呼ぶ朔也に近付いて行った)
朔也
「……………………えりか」
美海
「!!!」
(…………それは、とっくに捨てた名前だった)
冬司
「…………?」
勝平
「…………?」
美海
「……朔……也…………、
 知ってた……の…………?」
朔也
「あ、ああ……ああ……」
美海
(朔也は頷くと、なんとか立ち上がろうとした。
 立ち上がった瞬間に崩れ落ちた彼の体を、あたしはしっかりと抱き止めた。

 …………枯れたと思っていた涙が、溢れだしてくる)
「朔也…………」
朔也
「はあ…………はあ…………、
 えりかでも、美海でも、…………お前はお前だ」
美海
「……朔也っ」
朔也
「…………大切だよ、美海」
美海
「朔也……!」
(あたしは朔也の手をとると、自分の胸にその掌を押し付けた)
朔也
「っ!」
美海
「触って、朔也…………好きにしていいからっ」
朔也
「美海…………」
美海
(……………………。
 朔也は…………あたしの体を無探り始めた。
 …………きっと、彼がわたしのために押し留めていた願望。
 最後くらい…………アキラだって、きっと許してくれる…………。

 朔也…………朔也…………朔也…………。

 ……………………ごめんなさい)
朔也
「…………美海」
美海
「朔也…………」
(朔也はあたしに口付けをした。
 あたしは、全力でそれに答えた。

 ……………………そして)
冬司
「…………勝平くん」
勝平
「………………ああ」
美海
(…………朔也の背後で、
 涙を流して揉み合うあたしたちの背後で、
 …………勝平くんがサバイバルナイフを振り落とした……)





 ――――AM01:00、浴場
美海
(朔也の返り血にまみれたあたしたちは、浴場に足を運んだ。
 小田切くんが、倉庫に行って着替えを持ってきてくれていた。
 ピンクのジャージと、黒のジャージと、紺色のジャージを洗面台に置いてくれた)
美海
「……………………」
(朔也を失ったショックで、あたしはなにも考えられなかった。
 頭がボーッとする…………)
冬司
「…………白百合さん、しっかり、ね」
美海
「…………うん」
冬司
「……………………」
(白百合さんは朔也にまさぐられて乱れた服装を戻すこともしないほどの無力感と、虚無感に支配されているようだった。
 白百合さんのふくよかな胸元が開いているのを、俺はちらりと目で見てしまった。
 …………罪悪感と、傷付いた彼女を見る歪んだ喜びが、胸の奥に広がっていった)
勝平
「…………小田切、ほっといてやれよ」
冬司
「………………そうだね」
勝平
「白百合……先に浴びてこいよ。
 …………それから、あとで、俺から話があるんだ」
美海
「うん、…………なあに?
 …………今でいいよ」
(あたしはおもむろに服を脱ぎ出した)
冬司
「し、白百合さん!」
勝平
「……!!」
美海
「……あたしのこと待ってたら時間がかかるから……。
 もう、いいよ。夜も遅いしみんなで入ろう」
(不思議と、羞恥心はなかった)
冬司
「………………で、も」
(白百合さんは全ての服を脱ぎ捨てた。
 …………モデルのような見事な曲線が露になった後ろ姿を、俺は食い入るように見てしまった。
 …………目が離せない)
美海
「先に入ってるから…………」
冬司
(…………そう言って、白百合さんは浴場の中に消えていった)
「…………どうする?」
勝平
「…………仕方ないな」
冬司
「……………………」
(早く休みたいのは勝平くんも同じなんだろう。
 …………いつも、最後の瞬間、手を下しているのは彼だ。
 …………勝平くんの話…………。
 俺はなんとなく、予想はついていた。
 そしてそれは、俺の望みでもあった……)
冬司
「…………入ろうか」
勝平
「…………おう。
 …………お前さ」
冬司
「うん……」
勝平
「今日俺のこと指してただろ」
冬司
「うん……」
勝平
「…………ったく」
冬司
(俺たちもおもむろに服を脱ぎ捨てた)


 ………………。

 ……………………。


冬司
(なにも身に纏っていない白百合さんが、シャワーを浴びている。
 俺もなにも見えないふりをして、シャワーの蛇口を捻った。
 …………熱いお湯が、汚れを全て落としてくれるような気がした)
勝平
「……………………」
冬司
(勝平くんは、頭を洗っていた。
 俺も彼にならって、彼の横でシャンプーを泡立てた。

 過剰なほど、身体中を洗う俺たち。
 …………血の臭いが鼻にこびれついて消えない)
勝平
「……………………」
冬司
(…………勝平くんが、先に湯船につかる。
 俺も、極力白百合さんを見ないようにして、湯船に足を入れた。
 …………白百合さんを、背後にする形で。

 …………しばらくして、白百合さんの声が聞こえた。
 …………ひどく、妖艶な響きだった)
美海
「…………勝平くん、…………小田切くん」
冬司
「うん?」
美海
「……………………。
 …………見ても、いいよ」
冬司
「……!!」
勝平
「……!!」
美海
「…………遠慮なんかしないで」
(あたしは直接手を下したことはない。
 してくれるのはいつも、勝平くんと小田切くんだもの。
 …………彼らの癒しになれるなら、それで良かった)
冬司
「……………………」
(…………見たい。でも、

 …………どうせなら、もっと傷付ける方法でそうしたかった。
 …………彼女から望まれても、それは俺の願いではないんだ)
勝平
「…………自暴自棄になるな、白百合。
 …………普通に、入れ」
美海
「………………………………。

 …………ごめんなさい」
冬司
(大人しく従って、白百合さんも湯船に入ってきた。
 …………やはり俺は、見ないように努めていた)
美海
「勝平くん…………」
勝平
「うん……?」
美海
「……話って、なあに?」
勝平
「……………………」
冬司
「……………………」
美海
「……………………」
勝平
「…………明日」
冬司
「…………うん」
勝平
「…………俺に、投票しろ」
美海
「……!!」
冬司
(やっぱり…………)
美海
「ど、どうして……?」
勝平
「……もう、詰んでんだよ。
 散々言われていた通り、白百合をみんなが信じるなら、
 俺と、間宮と、七瀬が人狼ってことだ」
冬司
「…………そうだね。
 …………それに、霊媒師である直斗が生きてる。
 明日、勝平くんを処刑して、翌日人狼だったと判明すれば白百合さんの信憑性はもっと増すんだ。
 …………合理的に考えれば、だけどね」
勝平
「だけど?」
冬司
「…………感情が追い付かないよってこと。
 …………俺はともかく、白百合さんが、ね」
勝平
「……白百合…………」
美海
「……………………」
冬司
「……………………」
(白百合さんは、呆然と宙を眺めていた)
勝平
「…………白百合。あのな、
 俺さ…………もう、限界なんだよ。
 …………わかるか?」
美海
「…………追い詰めてしまったのは、あたし、よね。
 あたしがもっと上手く立ち回っていれば……」
勝平
「違うっ!
 …………俺が、もう、罪の意識に耐えられないんだ」
美海
「……………………」
勝平
「…………もう、死にたい。
 …………由絵のところに行きたい」
美海
「…………そんなこと言わないで」
勝平
「…………初めは、道明寺だった。
 次は、由絵。
 みんなでやったと言うことになってるが、目黒も、小日向も、和歌野も、俺が殺した。
 …………筒井と乃木坂も」
美海
「……………………」
冬司
「……………………」
勝平
「…………お前らに押し付けることになるのはわかってる。
 …………でも、もう、終わらせてくれないか」
冬司
「…………わかった」
勝平
「……すまん、小田切」
冬司
「……それが勝平くんの望みなら」
勝平
「…………すまん」
美海
「………………あたしは、嫌よ」
勝平
「…………白百合」
美海
「いや、嫌よ、仲間を売るなんて!
 それってあたしに……っ、人狼として告発しろってことでしょ?
 嫌よ、絶対に嫌!!」
冬司
「……白百合さん、もう、それしかないんだ。
 ……あんなに不利な状況からここまで好転したのは君のおかげでもあるんだ。
 勝平くんの思いを無駄にしないで?」
美海
「…………勝平くんっ」
勝平
「うん…………」
美海
「ほんとにいいのっ?
 あなた……それでいいの?
 由絵は…………由絵はあなたに生きてほしいって!」
勝平
「…………俺は由絵のそばに行きたい」
美海
「…………っ」
勝平
「…………頼むよ、白百合」
冬司
「白百合さん…………」
(…………白百合さんは、なにかを堪えるように震えていた。
 …………しばらくして、啜り泣く声が聞こえた。
 …………それは、肯定の返事でもあった。

 …………俺たちは誰もが沈黙したまま、浴場を後にした)





 ――――AM02:00、勝平の部屋
美海
(……………………。
 …………あたしは、勝平くんの部屋のドアを開けた)
勝平
「…………どうしたんだ、こんな時間に」
美海
「…………眠れる?」
勝平
「いや…………最後の夜だからな」
美海
「…………だと思った」
勝平
「……………………」
(白百合は、俺が横になっているベッドに腰掛けた。
 俺は、おもむろに体を起こした)
勝平
「…………どうしたんだよ?」
美海
「…………勝平くん、あのね」
勝平
「おう。
 ――――っ!!」
(白百合は、突然俺に口付けをしてきた。
 俺は咄嗟のことで、動くことができなかった。
 …………白百合の熱い舌が、俺のそれと絡み合う。

 …………俺はゆっくりと、それに応じていた)
美海
「……………………」
勝平
「……………………」
(口付けを交わしながら、
 俺は、白百合のジャージのチャックに指をかけた。
 …………白百合は抵抗しなかった)
美海
「……………………」
勝平
「…………いいんだな?」
美海
「…………最後の夜だから」
勝平
「……………………」
(俺はゆっくりと、白百合をベッドに押し倒した。
 …………白百合の体は、柔らかくて、暖かくて、石鹸の良い香りがして、
 ……すこし、俺と同じ血の臭いがした)







――――18日目、終了



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