は？
034．１７日目『夜の時間』
――――PM21:00、リビングルーム
「……………………」
（体が震える…………）
「…………空太」
「大丈夫…………大丈夫だから…………」
（…………吊ったのは、俺じゃない。
でも、小日向にスタンバトンで感電させたのは俺だ。
初めて人を殴った。あの感触は、忘れられそうもなかった。
…………こびれついて、剥がれそうになかった）
「……お前のせいじゃねえよ」
「……そうだ。みんなの、せいだ」
「……………………」
「…………違う。サキのせいだ」
「果帆…………？」
「…………なによ」
「なんで…………なんで！
お前らあんなに仲良かったじゃないかよ！
…………それなのに……売るなんて……」
「人狼だったんだからしょうがないでしょ？」
「サキちゃん…………」
「わたしだってしたくてしたわけじゃないのよ。
…………でも、花菜が人狼なら、
きっと人を殺すことなんてできないと思うから…………、
苦しんでると……思うから……、だから告発したの。
…………これでも思いやりよ、悪い？」
「…………っ」
「……………………」
「…………いや、もういやよ……」
「美海…………」
「なんでこんなことになっちゃったんだろう…………。
この前まで、みんなで楽しく過ごしてたのに…………過ごせてたのにっ」
なにかが狂ってしまったんだわ…………。
だから彼女はこんな嘘を言うんだわ…………。）
「…………白百合」
「…………俺は、ここでお前らとずっと暮らしてても、それはそれでいいと思ってた」
「…………うん」
「いつまで経っても、……助けが来なくても、
お前たちのことが大切だったんだ」
「…………うんっ、直斗くん」
「……くそぉ……花菜……花菜を殺した。
目黒も……俺たちが…………この手で」
「…………仕方ねえだろ、やらなきゃなられるんだ。
…………俺だってな、由絵を失うくらいなら死んだっていいと思ってたよ。
だが…………人狼が由絵を殺した。用心棒のせいだ。
俺は許さない、絶対に」
「…………わたしは、生きてここを出たいわ」
「…………和華？」
「みんな…………黙ってたけど、実は…………、
わたしのパソコンに犯人から知らせがあったの。
…………お父さんが、倒れたって」
「…………！！」
「……急性心筋梗塞だって。
…………犯人、わたしたちの家にも監視カメラを仕掛けてるわ。
…………そんなことができるのよ？
そんな犯人が用意したこの舞台に、警察が助けに来てくれるなんてもう、信じられない」
うっかりしたふりをして、どこかで望んでいたのかもしれない）
「……………………そうだったの」
「他に…………犯人から知らせが来た人はいないの？」
「……………………」
「…………そう」
「……どっちにしても、もう、５人も死んだ。
今更後戻りなんてできる？
…………もう汚れちゃってるんだよ、俺たち」
「…………村人か、人狼か、もうどっちかしか残っていないんだな、道は…………」
「…………とにかく、本当に小日向さんが人狼だったとして、
残る人狼はあと二人だよ…………。
最短でもあと二日かかる。……最低でも、あと四人死ぬ」
「……………………」
「…………サキちゃんさ」
「…………ええ」
「昨日なんで花菜占ったの？」
「…………大切な人だったからよ」
「…………そうか」
「でもあなた…………嘘吐いてるじゃない」
「とにかく、…………明日の霊媒結果でそれははっきりするよ。
小日向さんが人狼だったら、本物の占い師は和歌野さんだし、
小日向さんが村人だったら、本物の占い師は…………白百合さんだ」
「…………明日、はっきりするんだな」
「…………俺は美海を信じる」
「…………ありがとう、朔也」
「…………用心棒、まだ、残ってるかな」
「…………どうだろうな。
あれからもう、だいぶ死んじまったし」
「俺から提案なんだけど、
用心棒の人さ、残ってたらなんだけど、
…………今晩は直斗を守ってほしいんだ。
理由は今言ったように、どっちが本物の占い師かはっきりするから」
「…………人狼は直斗を狙うのか？」
「いや…………そうとも言えない。
白百合さんか、和歌野さん、どっちかを狙う可能性も高いと思う。
でも、用心棒だって誰を守ればいいか、困ってるんじゃないかな？
どっちか本物かわからないんだから…………だから、だったらはっきりさせるためにも、直斗を守るべきだと俺は思う」
「……………………」
「…………そんなに上手く行くか」
「……ま、もういないかもしれないけどね」
「……………………」
（アキラと筒井が死んで、解散を言い出すやつがいなくなった。
俺たちはそのまま、誰も喋ることもなく…………ただただ時だけが過ぎた。
…………始めに席を立ったのは、和歌野だった）
「…………お風呂に入るわ。
…………体が気持ち悪いし、胃が、痛い」
「和歌野さん…………付き添うわ」
「…………あたしも」
「ありがとう、二人とも」
「…………俺たちも解散しよう」
「そうだな…………。
美海…………サキの顔見てるの辛いかも知れないけど、
…………一緒に入っちゃおうか」
「……そうね、後ろもつかえるし、ね」
「ああ。…………じゃ」
「みんな……明日ね。おやすみなさい」
「おやすみ」
「……こんなときでも、風呂に入る気力だけは残ってるんだな」
「……倉庫に着替えもあるし、
…………どことなく、不快だからね。
洗い流したい気持ちはわかるよ」
「…………俺は、着替えたら明日入るわ。
…………ひとりになりたい」
「…………うん」
「…………じゃあな」
「ああ…………おやすみ…………」
「……………………」
「空太…………」
「……どうしても、震えが止まらないんだ。
…………俺、神経どっかおかしくなっちゃったのかな」
「…………空太」
「飯の味もわかんないし……おかしいよな」
「……みんな、似たようなものだよ」
（直斗が俺の肩を軽く叩いた。
…………風呂が終われば、夜の時間が始まるんだ）
――――PM23:00、和華の部屋
「…………さて、と」
（今日は、誰を守るべきなのかしら…………？
小田切くんは有栖川くんを守ってくれって言ってたけど、……人狼だって、それを見越して彼を襲撃なんてしないはず。
…………占い師が誰なのか、はっきりさせる必要はあるわ。
…………でももし、明日有栖川くんが殺されたら、……霊媒結果がわかって困る人がいるとすれば）
「それは…………和歌野さんってことになるわ」
（それはつまり、和歌野さんは人狼ってことになるわ。
…………ならば）
「……………………」
（わたしは乃木坂くんの名前をクリックした。
『共有者』と言う役柄の彼は、占い師と霊媒師の登場によって影が薄くなってしまったけど、トラップのためにも重要なポジションにいると思うから…………だから…………）
「……………………」
（今日、小田切くんが言っていた言葉を思い出した）
人狼が昨晩筒井くんを襲撃した理由、
…………この争いを誘発するためなんだよ！
彼がいたら、ここまで場が荒れることはなかった！
（それが狙いだとしたら……やっぱり、筒井くんを守る選択をしなかったわたしは、
…………わたしは、愚か者だわ）
「………………うぅ」
（……涙が出てきた。
筒井くん…………あなたの分まで、わたし、頑張るからね……）
――――PM23:10、直斗の部屋
「っ…………くそっ！」
（俺は…………花菜に投票した。
今日処刑された花菜は、……霊媒結果によると、『村人』だったんだ……）
「……ごめんなぁ、花菜…………ごめんなぁ……」
（…………サキちゃんが、嘘を吐いている。
…………彼女が、人狼だったんだ）
――――PM23:15、岬の部屋
「…………うぅ…………うぅ、……うぅ」
（ひとりになったわたしは…………涙が止まらなかった。
……花菜を殺した。……わたしの嘘によって、処刑された）
「……うぅぅ…………」
（わたしは美海に殴られた頬を、そっと押さえた。
…………覚悟を決めたはずなのに、花菜がいなくなってしまって寂しくて仕方がなかった。
でも…………）
「花菜……花菜ぁ…………わたし、生き残るから、
絶対に、頑張るから」
（あなたの死を…………無駄にしないためにも）
――――AM00:00、応接間
「…………」
「………………」
「…………誰殺す？」
「…………言い方に気を付けろ」
「事実をありのままに述べただけだけど」
「…………やっぱりお前とは合わねえや」
「…………そうだね」
「……………………」
（今日初めて気付いたことだけど、二人は折り合いが悪いみたい。
あたしがなんとかしなくちゃ）
「……二人とも、気が立ってるのはわかるけど、
あんまり険悪にならないで…………。
あたしたちは、仲間なんだから…………」
「………………」
「………………」
「…………今日の襲撃なんだけど」
「朔也にしよう」
「！！ どうして…………」
（朔也…………何れはもちろん、殺さなければいけない。
けど…………アキラに代わってあたしを心から支えてくれる、大切な大切な『友達』……。
…………朔也はあたしのこと、友達としては見てないけれど……、
でも…………彼のことは失いたくなかった）
「……………………」
「白百合さんにとっては納得がいかないかもしれないけど、
これがベストなんだ……」
「…………どうして？」
「まずひとつ、彼が『共有者』だと言うこと。
……もうひとりの共有者が名乗り出ていないこと。
用心棒は、君か直斗か和歌野さんを守ってる可能性が高いと言うこと。
…………この３つが理由かな」
「…………もうひとりが名乗り出る前に、やっちまおうってことか」
「そう言うこと。
…………今日の和歌野さんみたいに、誰かに人狼を擦り付けることが、今の白百合さんには出来ない。
まず、トラップを使えないようにしてしまおう」
「……もうひとりの共有者が、小日向だったって可能性は？」
「あり得ない。ならすぐに朔也が庇うはず。
…………もうひとりの共有者は小日向さんだって、処刑を避けたはず」
「…………それもそうか」
「占い師と霊媒師が名乗りをあげた。
共有者の影が薄くなってる。
…………たぶん、用心棒もノーマークだと思うし、はっきり言って、彼は俺たちにとってとても邪魔な存在なんだ」
「……………………」
「…………白百合さん、覚悟、決めたんでしょ？
……朔也だけ例外だとでも言うつもり？」
「…………そうじゃ、ないけど…………」
「……………………」
「……………………」
「…………わかったわ」
「…………それじゃ、気持ちが落ち着いたら、行こう」
――――AM00:50、朔也の部屋の前
「……………………」
「……………………」
「……作戦は、昨日通りで」
「…………ああ。
…………行くぞ……」
「うん…………」
――――――――カチ
「……？」
「…………！！」
――――――――カチ、カチ、カチ
「あ、開かねえっ！」
「……ほんとに？ ちょっと貸して」
カチ、カチ、カチ――――っ
「……本当だ、開かない」
「他の部屋も試してみたわ。
…………どこも開かない」
「…………用心棒が」
「っ、裏をかかれた……！
まさか朔也を守ってるなんて……！」
「………………」
（正直…………安心してしまった）
「…………じたばたしても仕方ない。
応接間に戻るぞ」
「………………そうだね」
「………………」
（良かった……朔也を殺さずに済んだんだわ……）
――――AM01:05、小桃の部屋
「……………………」
（わたしは夢の中を微睡んでいた。
…………すると、ピピピピと目覚まし時計のような音を立てて、パソコンの電話が鳴った）
「……………………」
（……乃木坂くん？
……こんな時間に、どうしたと言うんだろう）
「……………………。
…………はい、もしもし」
「≪…………佐倉。
悪い、こんな時間に≫」
「……いえ、平気よ。
…………どうしたの？」
「≪…………人狼が、来た≫」
「っ！！ で、でも」
「≪ああ。……俺は、生きてる。
たぶん用心棒に守られたんだ≫」
「ほ、本当？ また、来ることはないの？」
「≪ないと思う。
…………襲撃失敗ってやつだ≫」
「そ、そう…………よかった」
「≪……人狼は直斗や美海やサキちゃんではなく、
…………俺を狙ってきた。
人狼にとって俺は、邪魔な存在なんだな≫」
「…………罠にかけようとしてるからよね」
「≪その可能性が高いと思う。
…………そこでだ、佐倉、
……明日、もうひとりの共有者だと名乗り出よう≫」
「…………いいの？」
「≪ああ。…………考えたんだけどな、
俺が死んだら、君を村人だと証明できる人物がいなくなる。
…………人狼も、バカじゃないみたいだ。
たぶん、トラップにかかるような真似はしない≫」
「…………乃木坂くんがそう言うなら、
わたしはそれで構わないけれど」
「≪…………ありがとう。
それじゃ、そろそろ≫」
「……待って」
「≪うん？≫」
「…………小日向さん、
乃木坂くんは本当に人狼だったと思う？」
「≪…………わからない。
もし本当に人狼だったら、……俺は美海を疑わなきゃいけないことになるんだ…………≫」
「…………小日向さんのこと、だいぶ庇ってたみたいだものね」
「≪…………どっちにしろ、明日直斗がはっきりさせてくれる。
花菜が人狼だったのか…………村人だったのかを≫」
「…………そうね、そうよね」
「≪……それじゃ、
襲撃の心配ももうないみたいだし、俺も寝るな。
……話せてよかった、ありがとう≫」
「こちらこそ…………おやすみなさい、乃木坂くん」
「≪……おやすみ、佐倉≫」
「………………」
（…………彼は）
「……………………」
（…………あたしの大好きな彼は。
……いつも、白百合さんのことを気にかけている。
……あたしとは、業務連絡しかしてくれないのに）
「……………………」
（でも今日、あたしの大好きな彼は殺されずに済んだんだわ。
用心棒…………みんなは否定的だけど、あたしは…………感謝しかない）
「…………ありがとう。用心棒」
（…………イヤホンマイクを片付けて、あたしはベッドに横になった）
――――AM01:05、応接間
「……………………」
「…………まさか、用心棒が」
「…………食えないやつだね。
頭は悪くないみたいだよ、用心棒は」
「…………なあ、小田切」
「なに？」
「このゲーム、……俺たちが不利なんだよな？」
「そうだね。
現時点で村人と確定しているのは、
……朔也、直斗、それに竜崎くん。
……直斗は霊媒師だし、朔也は共有者で……もう一人が誰かわかっている。
…………あれだけガチャガチャしちゃったから、朔也は自分が今夜の襲撃対象だったと気付いたかもしれない。
すると…………トラップよりも、もう一人を村人認定する確率が高いかも。
…………自分が死んだら意味ないからね」
「……………………」
「でも、ひとつわかったことがあるよ」
「…………？」
「……なに？」
「たぶん……独断と偏見だけど、
用心棒は少なくとも空太ではないみたい」
「なぜ…………？」
「彼はそんなに頭が働かない」
「…………ひでえ言い様だな」
「でも、二人もそう思ってるんじゃないの？
今日の様子からしても、誰かが背中を押さないと、彼は思考停止する傾向があるみたいだからね。
怪しいところは……佐倉さん、七瀬さん、……それに、間宮さん、……この３人だね」
「そんな…………果帆がゲームを進行させた張本人だなんて、
…………アキラを守らなかったなんて、考えたくないわ」
「その３人の可能性が高いんじゃないかってことだよ。
どっちにしろ、その３人を襲撃の対象にはできない。
朔也と直斗と竜崎くんには票が集まらないから、襲撃でやるしかないんだ」
「…………後回しにすると、どうなるの？」
「その前に俺たちが処刑される可能性が高い」
「………………３人で、生き残りたいもんね、ここまで来たら」
「…………ありがとう。白百合さん」
（俺の汚い愛情も知らず…………ありがとう）
「……………………」
（俺は…………死ぬなら死ぬで、構わないのかもしれないな）
「…………そろそろ解散しようか。
一時を過ぎたよ」
「…………そうだな」
「待って…………明日の投票、どうする？」
「…………明日、和歌野さんが嘘を吐いていることがバレる。
たぶん、彼女に票が集まるだろうね。
悪いけど彼女のことは庇えないよ、……分が悪いし、……小日向さんを売ったことは許せない、あれほどの関係でありながら」
「でも、…………それはあたしたちも同じ、よね」
「………………」
「…………そうだね」
「あのときはついカッとなってしまったけど、
…………あたしだって朔也や果帆を裏切るんだわ。
サキちゃんのこと、責められる立場にない、全然……」
「……白百合さんはそうでも、みんなはそうじゃないよ、たぶん。
これはただの人狼ゲームじゃない、本物の殺人ゲームなんだ。
…………感情で動いてしまうのが、人ってものだよ」
「その点については同感だな。
……いいだろ、投票に関してはその場の流れもあるわけだしな。
……ただ、和歌野のことは、庇わない方向性で」
「そうだね」
「…………わかったわ」
「…………そろそろ休もう」
「ええ……」
「行くぞ、白百合…………送ってく」
「いつもありがとう、勝平くん」
「…………それじゃ二人とも……おやすみ」
「おやすみなさい…………」
