025.15日目『投票と夜の時間』


 ――――PM20:10、会議室

 ……………………。
空太
(8時を過ぎた…………。
 会議室に集まった俺たちは、1日閉じ籠っていた白百合を無言で待っていた。
 …………時計が、かち、かちと時を刻む音がする。

 …………やがて。重々しい扉を開けて、朔也に付き添われた白百合がやってきた……。
 目を、真っ赤に充血させながら…………)
小桃
「白百合さん!」
美海
「ごめんね、みんな、心配かけて……もう、平気だから」
結翔
「…………無理するなよ。大丈夫なわけないだろ?」
(…………アキラの死は、俺にとっては好都合なことかも知れない。
 でもこんな白百合…………見ていたくねえよ)

惣子郎
「すまない、白百合。
 どうしてもこの場は君が必要で」
美海
「うん、わかってる。ごめんね」

 ……………………。

空太
(小田切の提案通りに、事が進んだ。
 筒井、竜崎、直斗の3人に票が集まり、決選投票だった。
 …………当然、処刑はない。
 …………アキラの死は、不幸だったんだ。きっとなにかの間違いだったんだ)
圭吾
「……………………」
直斗
「……………………」
果帆
「…………ありがとな、3人とも」
直斗
「…………これで、いいんだ」
圭吾
「ああ…………」
惣子郎
「それじゃあ、今日の襲撃先だが…………、
 八木沼、…………すまない、頼む」
由絵
「おっけーだよ〜、
 用心棒の人、由絵をよろしくね〜?」
勝平
「由絵…………っ!」
由絵
「…………おやすみ、勝平。
 また明日ねえ〜?」
空太
(そう言って、八木沼はとっとと出て行ってしまった。
 …………拳を握りしめる勝平が視界の端に映った)
勝平
「……………………」
(もし、…………もし用心棒が守ってなかったら……、
 俺は、由絵を殺せるのか…………?)
冬司
(…………あとは天に祈るしかない、か)
美海
(由絵…………)

朔也
「…………俺たちも解散しよう」
惣子郎
「…………そうだな」
朔也
「…………美海、立てるか?」
美海
「うん、…………ごめんね」
果帆
「美海…………風呂に入って、寝よう」
美海
「…………うん」
朔也
「果帆……、美海を頼むな」
果帆
「ああ……」
小桃
「……………………」
(……こんな状態の白百合さんにまで、嫉妬しちゃうのね、あたしは)
空太
(白百合は、今度は果帆に付き添われて会議室を出て行った。
 …………解散の流れになっているのに、他には誰も、席を立たなかった)

「……………………。ねえ」
直斗
「うん…………?」

「みんな、触れたがらないけど。
 …………この中に、わたしたちの中に、アキラを殺した人がいるのよね。
 …………それも、3人も」


全員
「……………………」


花菜
「サキ…………」
惣子郎
「…………そうだ。たぶん。
 ……だが、もしかしたらアキラを殺ったのは人狼じゃないかもしれない。
 犯人が痺れを切らして…………殺ったのかもしれない」
勝平
「…………どういうことだ?」
(殺ったのは、…………間違いなく俺だ)
惣子郎
「…………俺が見たところ、アキラは抵抗した形跡がなかった。
 例えばだが、睡眠ガスなんかを撒かれて、意識が朦朧としてる間にやられたのかもしれない。
 …………アキラを狙った理由は、中心人物を消すことと、…………白百合にダメージを与えることだろう。
 俺たちの間で、重要な立ち位置にいる二人だ」
冬司
(なるほど、…………ね)
「それは、俺も考えてたよ。
 アキラはいつも俺たちを引っ張ってくれたし、白百合さんは、癒してくれた。
 前にアキラが言っていたように快楽目的だとしたら、辻褄も合うよ。
 …………愛する二人を引き裂く、ってね……」
圭吾
「…………なるほど」
空太
「…………じゃあ、人狼がやったわけじゃないってこと?」
惣子郎
「その可能性もあるって話だ。
 …………だから、和歌野。
 あまり、そう言う言い方はしないでくれないか。
 …………みんなの疑心暗鬼を煽るような真似は、褒められない」

「………………そうね。ごめんなさい」
花菜
「で、でも、……サキが言ってることだって一理あるじゃん。
 …………否定することだって、できないでしょ」

「花菜…………いいの、やめましょ」
花菜
「サキ…………ごめん」

「…………わたしたちは失礼するわ」
惣子郎
「ああ。…………すまなかったな」

「いいえ。…………では」
花菜
「じゃあ…………ね」
空太
(和歌野と小日向は、やっぱり二人で部屋を出て行った。
 …………アキラを殺したのが、人狼じゃない可能性。
 それは、俺は考えなかったな。
 ……筒井も小田切もすごいよ、ほんとに)
和華
(…………用心棒であるわたしは知っている。
 …………きっと、道明寺くんを殺したのは人狼だってこと。
 だって…………わたしが、守らなかったんだもの。
 彼を、…………見捨てたんだもの)

「…………用心棒は、今日はどうするのかしら」
勝平
「それは…………用心棒にしかわからないだろ」
圭吾
「……くそっ!
 やっぱり俺さ、思っちまうよ。
 惣子郎が言ってる可能性もあるのかもしれない。でもそんなの、誰もわかんねえだろ?
 やっぱり、人狼なのかもしれない。
 …………だとしたら、人狼も、……苦しんでるはずだ。
 用心棒がっ! 用心棒さえ、しっかりしてればよ!」
結翔
「それは俺も思うぜ。
 用心棒がちゃんとやってれば、白百合があんなに苦しむこともなかったのにっ!」
和華
(……みんなの矛先が、わたしに向かっているんだわ……)
「…………わたしは、どちらも、庇うことも責めることもできないわ」
直斗
「……そうだな。結局、手を下したのは」
勝平
「ああ。…………人狼だ。
 …………自殺するって手も、あったんだろうに」
冬司
(勝平くん…………余計なこと言わないでよ)
「とにかく、様子を見るしかないよ。
 …………今日の夜、どうなるのか」
朔也
「…………きっと、不幸だったんだ。
 今日はなにもない。なにも…………。
 きっと由絵は、無事に明日も生きているさ」
勝平
「……そこまで楽観視はできないけどな」
空太
(…………みんな、アキラの死が受け入れられないんだな……。
 信じたい気持ちと、疑心暗鬼が、ぐるぐると回っていた。
 …………重苦しい空気の中、俺たちは解散した)





 ――――PM22:30、空太の部屋
空太
(寝支度を人通り整えた俺は、ベッドに横になった。
 …………お腹から、ぐうっと音がした。
 そう言えば昼、直斗と七瀬が作ってくれたオムライスを食べてから、なにも食べていない。
 ……こんなときでもしっかり、腹は減るんだな。
 …………時計を見ると、10時半を回ったところだった。
 あと、30分ある…………。

 俺は部屋を出た)





 ――――PM22:35、ダイニングルーム
空太
(ひとりダイニングに来た俺は、そこで、佐倉と出くわした)
「あ、…………佐倉」
小桃
「…………本堂くん」
空太
「どうしたの? こんな時間に」
小桃
「……たぶん、本堂くんと一緒」
空太
「え?」
小桃
「ふふ…………さっきまで、お風呂に入っていたんだけど、
 夕飯食べれなかったから、お腹、空いちゃって」
空太
「……それは完全に俺と一緒だ」
小桃
「ふふふ…………。
 ……ごめんなさい。笑ってる場合じゃないわね」
空太
「うん、…………でも、腹が空くってのは笑えるよ。
 アキラが…………死んだのに」
小桃
「………………。
 秋尾くん、弥重、それに道明寺くん。
 ついこの間まで普通に話すことができたみんなが…………もう、いないのね」
空太
「…………うん」
(この二週間は長かったけど、ついこの間までは、普通の…………高校生だったんだ。
 平和な、なにもない普通の日常だったのに…………)
小桃
「…………誰なのかしらね、犯人は」
空太
(そう言えばこの間、アキラと朔也と、泉沢千恵梨の話をしたんだ。
 …………佐倉は泉沢とは因縁があるし、ちょっと聞いてみようかな……)
「…………あの、さ」
小桃
「ええ」
空太
「この間、アキラと朔也と話したんだけど……、
 その…………泉沢が怪しいんじゃないなって」
小桃
「…………千恵梨?」
空太
「うん。…………犯人、と言うか、その……、
 ……リークしたんじゃないかって、俺たちのことを。
 怨恨が理由で」
小桃
「…………まさか。
 いくら千恵梨でも、そこまでしないわ」
空太
「でも…………泉沢が犯人に俺たちのことを教えたとすると、動機が見えてくるらしいんだ。
 …………朔也への異常な執着と、アキラへの憎悪。
 白百合と筒井への嫉妬。…………それに、佐倉も」
小桃
「……………………」
空太
「それにアキラは…………なんか、七瀬もその対象なんじゃないかって」
小桃
「ああ。…………和華にはね、千恵梨は敵わないから。
 …………あたしたちのグループがまとまってた理由、本堂くんはわかる?
 一見、千恵梨の統率力が優れてたように見えるけど…………本質は、和華が調節していたからよ。
 和華は気が回る子だから…………だから、千恵梨は敵わないの、彼女には。
 …………嫉妬はあったと思うわ」
空太
「…………そっか」
小桃
「…………でも、千恵梨は手段を選らばないところはあるけど、
 けど…………考えられないわ。そう、思いたい」
空太
「そうだよね、…………ごめん」
小桃
「平気よ。あたしこそ、ごめんね」
空太
「どうして佐倉が謝るの……?」
小桃
「…………うつっちゃったかな」
(乃木坂くんの…………謝り癖)
空太
「え?」
小桃
「ううん、こっちの話よ。
 …………それじゃあ、戻るわね。
 …………おやすみなさい、本堂くん」
空太
「あ、ああ! おやすみ……佐倉……」

空太
(佐倉と別れてから、俺もすぐに部屋に戻った。

 …………アキラ。
 …………なんだろうな。
 本当に、根拠もなく、アキラは殺しても死なないんじゃないかって、思ってた。
 図太くて、賢くて、飄々としてて…………そのアキラは、もう、いないんだ。
 少し涙が出た。…………ここへ来て、初めて出る涙だった……)






 ――――PM23:00、和華の部屋
和華
「……………………」
(…………八木沼さんを、守るか、どうするか。

 今日は、一日中考えていた。
 何れにしても、道明寺くんを殺してしまったのはわたしなんだわ。
 …………もう取り返しなんてつかない。なら…………)
和華
「………………ごめんなさい」
(筒井くん……みんな……、ごめんなさい。
 わたしは…………家へ、帰る。家族の元へ……お父さんの、ところへ…………)
和華
「……わたしは、八木沼さんを、…………見殺す」
(自分に罪を認識させるように、……刻み込むように…………わたしはそう、呟いた)





 ――――PM23:15、小桃の部屋
小桃
「……………………」
(本堂くんと別れたあたしは、部屋のパソコンの前にいた。
 …………乃木坂くんから、電話がかかってくるのではないかと、期待して。
 でも、一向に電話はかかってこなかった。
 あたしは深呼吸をすると、意を決して発信ボタンをクリックした。

 数回、コール音が鳴る。
 そして…………彼が電話に出た)
小桃
「…………乃木坂くん」
朔也
「≪…………佐倉≫」
小桃
「疲れてるところ、ごめんなさい」
朔也
「≪いや、いいよ。
 …………俺も、伝えたいことがあったんだ≫」
小桃
「…………なに?」
朔也
「≪…………もし、今日、由絵が死んだら≫」
小桃
「…………うん」
朔也
「≪…………明日からは、処刑は避けられない。
 もう、誤魔化しは効かなくなるんだ≫」
小桃
「…………そうよね。
 きっと、ゲームが進んでしまうわ」
朔也
「≪…………そこでなんだけど≫」
小桃
「ええ……」
朔也
「≪…………明日、俺、『共有者』だって名乗り出るから。
 …………でも、佐倉には、黙っていてほしい≫」
小桃
「…………どうして?」
朔也
「≪…………考えたんだけどさ。なんで、共有者は二人なんだろうって。
 たぶんこれは、……人狼を罠にかけるためなんだ≫」
小桃
「どういうこと?」
朔也
「≪…………例えばだけど、
 『偽物の占い師』が現れたとするだろ?
 …………それで、そいつが、『佐倉を占ったら人狼だった』と嘘を吐いたとする。
 すると…………≫」
小桃
「…………乃木坂くんはあたしが人狼じゃないことを知ってるから、すぐに嘘だとわかる。
 村人が嘘を吐く理由がないから…………それは、人狼ってことになるのね」
朔也
「≪……そう、そうなんだ。
 だから…………二人とも名乗り出るってのも考えたんだけど、
 俺は村人だって言うのは確定してるわけだし、信用があるから、佐倉も村人だってことになるよな。
 ……佐倉にはその方がいいかも知れないけど…………勝負に出てみようかなと思う。
 上手く役職を使いたいんだ≫」
小桃
「…………乃木坂くんがそう言うなら、あたしは反対しないわ。
 そうしましょう?」
朔也
「≪…………ありがとう、佐倉。
 …………ごめん≫」
小桃
(…………必ず謝るのね、あなたは。
 白百合さんにも…………そうなのかしら)
「…………それより、白百合さんは大丈夫なの?」
朔也
「≪いや…………かなり、ショックを受けてるよ。
 …………俺がそばにいてやらないと≫」
小桃
「……………………」
(…………白百合さんが、羨ましい)
朔也
「≪あ、…………ごめん。
 …………俺、そろそろ寝るな。
 …………ごめん。おやすみ≫」
小桃
「いいえ、…………おやすみなさい、乃木坂くん」
(こうして、乃木坂くんとの通話は終了した。
 …………たくさん謝られるって言うのは、いい気がしないものね。

 …………八木沼さんは大丈夫かしら。

 何れにしても、あたしは、乃木坂くんに着いていくだけだわ。
 あたしの…………愛しい人に)





 ――――PM23:30、岬の部屋

「…………狂人の……振る舞い方」
(わたしは冊子を眺めていた。
 …………『裏切り者』は『狂人』でもある。
 わたしは、これから…………積極的に嘘を吐いていかなければならないんだわ。
 …………人狼を、勝利に導くために)

「……………………花菜」
(わたしは花菜のことを考えた。
 ……彼女はただの村人なんだろうか。
 …………たぶん、あの子はわたしに隠し事や嘘なんて吐けないから、村人なのだろう。
 だからこそ、そんな花菜だからこそ、わたしは彼女をこんなにも信頼しているんだから…………)

「……………………」
(でも…………彼女が村人なんだとしたら、
 一緒に生き残ることはできないんだわ。
 わたしか、花菜か…………どちらかは死ななければならないんだから)

「…………………………花菜」
(彼女はわたしの太陽だった。
 朗らかで清らかで、…………花菜と一緒にいると、わたしは自由になれた。
 ありのままのわたしでいられた)

「……………………」

 ――――ミサキ

 ――――ミサちゃん

(…………父親と、母親の声がする。
 教育熱心な母と、放任主義の父。

 父親の無関心さに反発するように、わたしは幼い頃からいつも習い事をさせられてた。
 ピアノ、バイオリン、華道、習字、塾…………。
 …………ピアノだけは好きだけど、……母といると、プレッシャーで息が詰まった)

 ――――ミサちゃん

(そう言って、母はわたしを呼ぶ)

「……………………」

 ――――ミサキ

(今度は、父親の声が聞こえる。
 放任主義なんて言い方は聞こえが良い方で、実態は不倫に明け暮れる毎日だった父。
 …………繰り返される不倫に激怒する母親。
 まったく母を省みない父親。

 …………わたしは、いつの日が両親が大嫌いになっていた。
 彼らに呼ばれる名前すらも、全てが)

「………………」
(自分の名前が嫌いだった。彼らに呼ばれるから。

 …………でも。花菜は。
 …………わたしに、『サキ』と言う名を与えてくれた。

 ミサキと呼ばれると、父親を思い出して嫌いだった。
 ミサやミサちゃんと呼ばれると、母親を思い出して嫌いだった。

 そのわたしに、新たな名を与えてくれた、あなた。
 …………花菜、とてもとても、大切な友達だわ。わたしの、太陽だわ)

「…………でも」
(……死にたくない。わたしはまだ、生きていたい)

「……………………ど、して」
(どうして…………あなたと生き残る道が見付からないんだろう。
 …………花菜が、人狼だったら良いのに。
 …………いや、ありえない。もしそうだとしたら、あの子のことだ。
 いくら自白は禁止だと言っても、何らかの場面で…………隙をついて、わたしにだけは打ち明けてくれるはず。
 それがないってことは、やっぱり彼女は村人なんだわ。…………間違い、ないわ)

「…………花菜」
(たぶん、由絵は今夜、死ぬ。
 生き延びれるはずがないわ、もうアキラは殺されてるんだから。
 …………明日からはきっと、ゲームが始まる……)

「…………わたしは、生き残りたい」
(例え…………あなたを犠牲にしたとしても、こんな軟弱な体だけど、……まだ生きていたいの。
 だから…………だから…………)

「……………………花菜、許して」
(わたしはあなたを殺す。
 せめて、地獄に溺れる前に…………あなたに安らかな死を、わたしが、必ず)

「……………………いたい」
(胃が…………痛い。
 …………………………花菜)





 ――――AM00:05、応接間
美海
(…………わたしたちは陰鬱な表情で、この日も、応接間に集合していた。
 今日は勝平くんが早く迎えにきた。
 …………じゃなきゃ、たぶんあたしは動けなかったと思う。
 お礼を言うと、勝平くんはすこし困った顔をしていた)
勝平
「…………白百合、大丈夫か?」
美海
「うん…………」
冬司
「……部屋で休んでてもいいんだよ?」
美海
「……平気よ、ありがとう」
(…………小田切くんにまで気を遣わせているのね。
 …………でも、あたしはアキラの死を、まだ受け入れられそうになかった)
勝平
「……………………」
美海
(勝平くんは終始無言だった。
 …………それは、そうよね。
 詳しい経緯は知らないけど、…………だって今日は……、由絵を襲撃することになってるんだから)
勝平
「……………………」
冬司
「……………………」
美海
(…………たぶん、そのまま一時間くらいが経った頃。
 ソファに座っていた勝平くんが、深呼吸をして立ち上がった)
勝平
「…………じゃあ、行くぞ」





 ――――AM01:10、由絵の部屋の前
美海
(…………あたしたちは、由絵の部屋のドアを開けた。
 ……………………開いてしまったのだ)

勝平
「くっそ!! なんで!!」
美海
「どうして……どうしてぇ…………」
冬司
「念のため他の部屋も見てきたけど、やっぱり開かないよ…………。
 決まったね、用心棒が裏切ったんだ」
勝平
「由絵…………」
由絵
「勝、平……?」
美海
(…………由絵は、目を擦ってベッドから起きたがった。
 …………あたしたちの姿を見て、……愕然としていた)
由絵
「…………そっか、勝平たちが人狼だったんだね。
 用心棒は由絵を、守ってくれなかったんだね……」
美海
「――――――――由絵!」
由絵
「…………美海……、美海ぃぃ!
 嫌だ、怖いよ、死にたくないよぉおぉ」
美海
「由絵…………、大丈夫、大丈夫……、
 由絵を殺したりしない、そんなことできない」
勝平
「……………………っ」
冬司
「…………でも、そうしないと、八木沼さんだけじゃない、
 みんなが死ぬんだ……」
勝平
「てめえっ――――!」
冬司
「なに…………?
 …………いいよ、俺は、それもありだと思うよ。
 どっちにしたって俺たちか、村人のどちらかしか生き残れないんだ。
 なら、ここで、3人で心中でもいいよ。
 でも……、でも! アキラは言ったよ、白百合さんを守ってくれって!
 ここでみんな死んだら昨日のアキラの死はどうなるの? アキラを殺した君の手は、俺たちはどうなるの……?
 そこまでさせたアキラを白百合さんは裏切るの?」
美海
「それでも、それでも!
 由絵はあたしの大切な友達だし、勝平くんにとっては大切な彼女なの!
 ……できないよ…………、そんなことできない!!」
由絵
「美海…………、勝平…………」

由絵
「…………いいよ」
美海
「…………え?」
由絵
「だって、勝平には死んでほしくないし、由絵を殺さないとみんなが死んじゃうんでしょ?
 そんなわがまま言えないよ〜」
勝平
「わがままなんかじゃねえよ!
 死にたくないって、普通のことだろ、殺したくないってのも、当然のことじゃねえか!」
由絵
「勝平…………、
 …………あたしのこと、好き?」
勝平
「なんだよ、こんな時に……」
由絵
「言って…………?」
勝平
「…………、…………好きだよ。
 初めて真剣に好きになれたのがお前だった。
 俺たち、卒業したら結婚するんだろ? そんな約束お前としかしない。お前としか」
由絵
「覚えててくれたんだね…………もう、十分」
勝平
「…………由絵」
由絵
「大好きだよ、勝平。
 …………ごめんね。由絵、勝平の気を惹きたくて、こんなことしちゃったの……。
 だから…………生きて。
 そして、新しい恋をして、その人と結ばれて、……幸せになって」
勝平
「由絵っ!」
由絵
「あたしからのお願いだよ、勝平」
勝平
「…………っ……」
由絵
「美海、ありがとう。勝平をよろしくね」
美海
「由絵…………由絵ぇ…………」
(…………あたしは、また涙が止まらなかった。
 しっかり抱き合う勝平くんと由絵を…………見守ることしかできなかった……)
冬司
「…………もう、時間がないよ。
 ……勝平くん」
勝平
「………………」
冬司
「…………勝平くんは、白百合さんと外に出てて。
 …………俺が、やるから」
勝平
「他人に殺されてたまるか。
 ……………………出てけ」
冬司
「………………………………。
 白百合さん……、行くよ」
美海
「うう……うぅう……」
(あたしは、小田切くんに手を引かれて、…………泣きながらその場を後にした)


 ……………………。


由絵
「…………勝平……こわいよ」
勝平
「由絵…………」
由絵
「…………暴れちゃったら、ごめんね」
勝平
(……………………俺は。
 由絵の首に手をかけた…………)
「………………………………。
 …………あああああああああああああああああああああああああああああああ!!」





 ――――AM02:00、応接間
美海
「………………」
勝平
「……………………」
冬司
「……………………」
勝平
「…………明日のことを考えよう」
冬司
「…………そうだね」
美海
「…………うん」
勝平
「…………用心棒が裏切ったことがはっきりとわかる。
 そして、人狼が……俺たちが二人も殺したことが。
 明日の投票は間違いなく、…………誰かが処刑される」
冬司
「……白百合さん…………」
美海
「…………ん……、なに……?」
冬司
「簡単に言うなって思われるかもしれない。
 …………でも、覚悟してほしい。
 俺たち、生き残らないと駄目なんだ。アキラのためにも、八木沼さんのためにも」
美海
「……………………」
勝平
「……やめろよ。
 白百合は根っからこんなことできる性分じゃねえんだ。
 …………俺の、後ろにいればいい。お前は手を汚したわけじゃないんだから」
美海
「……そんなことないよ。あたしたちはもう、……運命共同体なんだから。
 勝平くんと小田切くんの罪は、あたしの罪よ。
 ………………ごめんね、勝平くんばっかりにこんな思いさせて」
勝平
「白百合…………」
美海
「…………あたし、……やるよ。
 ……上手くできるかわからないけど、二人の足を引っ張らないように」
冬司
「……………………」
美海
「……うう、……うう」
(…………止まっていた涙が、また、溢れだした)
冬司
「白百合さん…………」
(…………今の君は…………すごく、綺麗だ)
勝平
「…………悪い。
 俺もちょっと……泣いていいか」
冬司
「……………………」
美海
「…………うん」
勝平
「…………俺の話を聞いてくれるか……」
美海
「……うん、…………うん」
勝平
「…………由絵と付き合ってもうすぐ3年になる。
 俺さ、高校に上がった時くらいかな、……白百合のこと……気になっちまったんだ」
美海
「……………………」
勝平
「お前、また同じクラスになって……、
 …………由絵はさ、それに気付いてたみたいで、
 …………でも……、大切だった。大切に思ってた、ちゃんと、誰よりも……」
美海
「…………うん、……わかってるよ、勝平くんっ」
勝平
「白百合…………っ」
冬司
「……………………」
美海
(あたしたちは、ひとしきり泣いた。
 小田切くんはそんなあたしたちを、黙って見守っていてくれた……)


 ………………。

 ……………………。

 …………………………。


美海
「…………アキラは、『占い師』を騙れって言ってたわ」
(ひとしきり泣いた後、きちんと、話し合いをすることになった)
冬司
「うん。本物がいなくなってしまった以上、みんなは偽者の占い師を信じる他ない。
 本物の占い師に嘘だとバレる心配もないから」
勝平
「…………あいつはこうも言ってたよな。
 他に占い師を騙る奴がいたら、そいつが『裏切り者』だって」
冬司
「うん。
 …………村人だったら、占い師が名乗り出ている以上、自分が人狼だと疑われるリスクを負ってまでウソを付く理由がない。
 占い師を騙るのは、人狼か、裏切り者以外はあり得ないんだ」
美海
「…………裏切り者の勝利条件って、
 あたしたちが勝つことなのよね?」
冬司
「そう。
 でも裏切り者は、人狼が誰か知らない。
 …………俺たちに気付いてもらうために、占い師を騙る可能性は高いと思う。
 裏切り者は、村人を引っ掻き回して、混乱させることが必要になってくるんだ」
勝平
「…………つまり、積極的に嘘をついてる奴がいたら、
 …………そいつが裏切り者ってことだな」
冬司
「うん。だから、明日の投票で占い師だと名乗り出よう。
 …………白百合さん、君にお願いしたいんだ」
美海
「…………あたし?」
勝平
「いや、駄目だ。
 人狼だと疑われる可能性もあるんだろ?
 そんな危険な役割、白百合にはさせられねえよ」
冬司
「そうでもないと思うよ……。
 本物の占い師がいないんだから、確実に嘘をついてると断言できる人がいない。
 占い師として確定させてしまえば、それこそ白百合さんは投票される確率がずっと下がるんだ。
 …………それに、白百合さんなら、…………みんな信じると思うよ」
勝平
「…………確かに、それはあるな」
美海
「………………わかったわ。
 こう見えて、嘘は……得意なの。
 ……あたしは最後まで、……占い師を演じきってみせる」
冬司
「……うん。ありがとう。
 …………君に任せるから、お願いね。
 …………ただ、今まで占わなかった点をつかれると、すごく弱いんだけどね」
勝平
「…………道明寺は、占えなかったってことにして、押し通せって」
冬司
「でも、用心棒はちゃんと機能してるでしょ。
 占いだけはできないって、言い訳としては、弱いよ」
美海
「…………昨日までは襲撃はされなかったから、
 それを…………理由にはできないかしら」
冬司
「…………もっとちゃんとした理由がほしいところだけど
 …………それしか、ないよね」
美海
「うん…………いいの、任せて。
 なんとか信じさせてみせるから」
冬司
「…………頼もしいよ、白百合さん」
(今までで一番、綺麗だよ、白百合さん……)
美海
「……………………みんなを騙すのね」
勝平
「…………騙し合いの、始まりだ……」






――――15日目、終了



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