014.2日目『夜の時間』


空太
(そんなわけで、今日の襲撃先は直斗になった。
 これで何事もなければ、直斗も『村人』に確定されることになるんだ。
 投票先は昨日と同じ方法で、筒井と竜崎が担当してくれることになった。

 いよいよ投票の時間…………結果は、決選投票で引き分けだ。
 昨日と同じように、処刑もしなくて済むことになった)
空太
「ふう…………やっぱり緊張した」
果帆
「こればっかりは仕方ないよな」
直斗
「まあ何事もなかったからいいじゃないの」
勝平
「もういいだろう。風呂入ろうぜ」
美海
「ふふ、疲れちゃったものね」
由絵
「待って勝平〜、ちょっとお話ししよ?
 お風呂なんて後でもいいじゃない〜」
勝平
「いや、風呂入って寝る」
由絵
「もう! ちょっとくらいワガママ聞いてよ!」
(最近、全然ツレナイんだから!)
勝平
「今日は勘弁してくれよ、疲れてんだよ。
 …………白百合、こいつ連れてってくれ」
美海
「え、ええ〜?
 勝平くん、すこしくらい付き合ってあげたら?」
由絵
「そうだそうだ〜! ぷんぷんしちゃうぞ〜!」
勝平
「頼んだわ、白百合。
 ってことで風呂」
由絵
「もう!」
(またそうやって、美海に話しかけて…………っ、
 あたしのことは避けるんだからっ!)

美海
「由絵、あたしの部屋でお話ししよ?」
由絵
「うえ〜ん、美海〜」
美海
「よしよし」
由絵
(勝平のバカ…………でも、美海は悪くないもんね…………)

空太
「俺も風呂入ろうかな」

「俺も。
 …………朔也も行こうぜ」
朔也
「あ、ああ」
直斗
「俺はあとにするわー」

「おっけー」

「花菜、今日はあとで一緒に入りましょうか」
花菜
「え! いいの?」
(サキがそんな申し出するなんて珍しい!
 …………ちょっと気まずいけど)


「ええ」
花菜
「おっけー! 背中流すよ!」
(…………落ち着け、うち。
 別にやましい気持ちはない…………ない…………)


「ふふ、よろしくね」
惣子郎
「俺たちも適当に入るから気にしなくていいぞ」
圭吾
「いってらー」
果帆
「いってらー」
空太
「じゃ、またあとで」
(こうして、俺と勝平、朔也とアキラで風呂に入ることになった)





 ――――2F、浴場
勝平
「さて、ちゃっちゃか済ませてちゃっちゃか上がろう」
空太
「うん」
(勝平は真っ先に頭を洗い始めた。
 置いてあるシャンプーは女子用の高価そうなものだ。
 昨日も思ったけどフローラルのいい香りがするし、なんか使うのもったいない……)
空太
「こんな高価そうなものじゃなくて全然いいんだけど……」

「まあ俺らはねえ」
勝平
「白百合とか和歌野は髪に気を遣ってそうだからいいんじゃねーの?」
(特に白百合はいつも髪からいい香りするからなあ…………)
朔也
「そうだな…………」
空太
(朔也…………ほとんど喋んないしやっぱりおかしい)

(…………今日は朔也を占ってみるか。……たぶん、人狼ってことはないと思うが。
 まったく、らしくないな。美海となんかあったのか?)

勝平
「よし、んじゃ俺先にあがるわ」

「おー」
空太
「湯船浸からないの?」
勝平
「今日はいい。じゃ」
朔也
「…………俺もそろそろ」

「まあまあ。湯船はいろーぜ?
 …………話したいこともあるし」
空太
「…………話したいこと?」
朔也
「…………なんだよ?」

「ちょっとな」
空太
「? お、俺、出た方がいい?」

「いや、空太も残れよ」
空太
「お、おう」





 ――――浴場、脱衣場
冬司
「勝平くん」
勝平
「あ? お前も入るのか?」
冬司
「いや、勝平くんに伝えたいことがあって」
勝平
「なんだ?」
冬司
「遅くなるとあれだから…………今夜12時に応接間に集合ね。
 …………白百合さんにも伝えといて」
勝平
「…………おう、わかった」
冬司
「よろしく」







「さて。ところでなんだが……、
 お前ら、犯人の本当の目的はなんだと思う?」
朔也
「…………それはさっき、
 アキラが自分で言ってたことじゃないのか?」

「……と言うと?」
朔也
「犯人は俺たちのことを徹底的に調べあげてるんだろうな。
 アキラの言った通り、中等部時代の俺たちに執着してるってのも、本当にその通りだと思う。
 ……快楽目的だっけ? 絶対に殺し合いなんかしなさそうなメンバーが、殺し合うところが見たいんだろ。
 ……ってことは、やっぱり、親友同士や、幼馴染み、相思相愛のカップルが仲違いして崩壊する場面ってのは、犯人が一番期待するところなんじゃないのか?」
(その為に犯人はあんな写真を俺の部屋に置いたんだろうしな。
 …………俺の、美海への不信感を煽るために)


「そうだな。快楽も目的の一つなのは間違いないだろう。秋尾と都丸の件も、崩壊ではないが、かなり悲劇的なやり方だしな。
 しかし、どこで俺らのことを知った? 心の中身まで、その変態さんは」
朔也
「…………行きずりはありえないんだろ?
 たまたま目撃して、なんてわけは一番ないよな」

「ああ。……まあ、その可能性があるとしたら、美海だろうな」
(人狼なんて役割を押し付けられたのも、なにか理由があるんだろうよ…………)
朔也
(…………やっぱり、美海、か)
「…………たまたま目撃した美海を気に入って、その近辺を寄せ集めた、みたいな?」

「ああ。しかしそれだと、中等部時代の連中のみを狙った意味がよくわからない。
 美海は今のクラスにもかなり馴染んでるし、昔のクラスメイトより、今のクラスメイトの方がより身近なだけ、悲惨だと思わないか?
 他から寄せ集めるとしても、俺とお前、果帆くらいで」
朔也
「確かに。美海と縁がある人なんて、他にいくらでもいるだろうしな」
空太
「……………………」
(犯人の目的は白百合なんじゃないかって二人は疑ってたってこと?)

「ああ。つまり、ってことは」
朔也
「やっぱり、この中等部のメンバーじゃないといけない理由があった」

「ああ。行きずりの犯行はありえない。
 つまり学校関係者じゃないとすると、誰かがリークしたってことだ。
 異常性癖の変態さんに、俺たちのことをな」
朔也
「なるほど……」

「しかしわからないことがあるんだ」
朔也
「なんだよ?」
空太
「…………?」

「リークした奴の目的だよ。
 そいつも単純に異常快楽主義者なのか、それとも怨恨なのか。或いは別の目的があるのか」
朔也
「……怨恨ねえ……」

「動機としては一番納得しやすいんだよな。なんてったって、デス・ゲームだし。
 まあ、なんらかの強い思い入れがあるんだろう、そいつにも」
朔也
「それは……クラスにってこと?
 それとも……特定の誰かにってこと?」

「…………どっちも、だな……」
朔也
「それじゃあ……リークした犯人は、やっぱり俺たちの知り合いってことにならないか?」

「そうだな。……下手したら、今ここにいる誰か、って可能性もないわけじゃない」
空太
「…………!!」
朔也
「まさか……さすがにそれは、考えられない」

「まあ、それは俺も同感だけどね。
 もしそんな奴がいたら、処刑も襲撃もなしなんて状況、黙って見てるはずないからな。なにかしら、積極的に輪を乱しにかかるだろう。
 ……けど、まだわからないが、そんなやつはいない」
空太
「…………和歌野は?」
朔也
「ん?」
空太
「いや…………和歌野ってちょっと空気読めないんだなって思ってたところだから」

「サキちゃんはなー、……普段からあんな感じだ。
 カリカリしやすいんだよな」
空太
「そっか…………」
朔也
「ああ。
 ……話を戻すけど、それじゃやっぱり、どこか遠いところで傍観してるってことだよな? 俺たちのことを。
 ……誰なんだ、いったい」

「誰かまではわからないが、誰に執着してるのかは、だいたい予想がつく」
朔也
「…………。」

「このメンバーの中で、その可能性があるとしたら、俺、朔也、勝平、筒井、そして、美海だ」
朔也
「…………俺たちが知らない人間関係だってあるだろ」

「まあな。だからこれは、俺が推測可能な範囲での話だ。
 俺もお前も、女がらみで怨みを買った覚えは?」
朔也
「…………あると言えばあるし、ないと言えばないさ」

「俺は大あり。まさかの人選ミスで傷付けちゃった子が、何人か思い当たる」
朔也
「俺も……プライドの高い子は、結構傷付けたかもしれないな。
 だからと言って、自分を殺して付き合うなんてことできないんだから、間違いじゃなかったと思ってるけど」

「勝平は女がらみと言うよりは、今まで負かした誰かだろうな」
朔也
「報復か」

「ああ。筒井と美海は……嫉妬かな」
朔也
「美海はともかく筒井は…………生徒会長を狙ってた奴にか? そうしたら、生徒会役員ってことにならないか?
 俺たちに縁があって、役員をやってるのって……」

「泉沢だろ」
朔也
「ああ……」
空太
「…………ああ」
(泉沢……、泉沢 千恵梨いずみさわちえり
 中等部時代の三年間、筒井と一緒に学級委員長をしていた女子だ。
 活発で清々しい感じの女の子だったけど、朔也を好きすぎるあまり、佐倉を仲間はずれにしたり都丸を保健室送りにしたり、結構ねちっこいことしてたんだよな。
 これは、果帆からの情報で最近知ったことだ。
 俺は泉沢のそう言う一面を知らなかったから、めちゃくちゃしっかりした仕切り屋の委員長って感じで見てたけど、…………人間ってこえーよな)

「泉沢と考えると腑に落ちるところがあるんだよな。筒井、七瀬、佐倉、お前、俺、そして、美海」
朔也
「……嫌われてたもんなー、お前」
空太
「…………そうなの?」

「ああ。な? お前……朔也と仲良いってだけでな。
 とにかく……泉沢がリークした犯人だとすると、繋がりが見える。お前に対する異常な執着もそうだし、筒井や七瀬、佐倉や美海に対する復讐でもあるってわけだ。」
空太
「復讐って…………」
(どういうこと?
 朔也に異常に執着があるのはわかったけど、他のメンツにはどんな理由で復讐があるってんだ?
 アキラは朔也と仲が良いから…………ってそれは直斗もじゃない? 直斗もその対象なのかな……白百合はたぶん、朔也の想い人だからだし…………佐倉は、朔也のことが好きだからか。
 筒井は生徒会長の候補で競ってたからだとして…………七瀬は? 七瀬はどんな理由があるってんだ?)

「…………最近変わったしな、彼女」
朔也
「…………そうだな」
空太
「そうなの?」

「ああ。なんと言うか、覇気がなくなったんだよ。
 あんなに快活だったのにな」
朔也
「…………聞いた話だが、父親と血の繋がりがないらしいんだ。
 彼女にもあったんだろう…………そう言う、人には言えない様々な事情が」
空太
「…………だとしても、佐倉や都丸にしたことは許されることじゃないけどね」
朔也
「過去のことだ…………とも、言えないしな」
空太
「朔也は気付いてたの? 泉沢の…………そーゆー気持ち」
(好きって言う気持ち…………)
朔也
「…………おう」

「あれだけ露骨じゃさすがのお前も気付くよな」
朔也
「…………鈍感って言いたいのか?」

「ご名答」
空太
「ははっ」
朔也
「…………なんだよ?」
空太
「…………少しは元気出た?」
朔也
「…………悪いな、心配かけて」
(空太にまで心配かけるなんて、どうかしてるよな、俺…………。
 …………美海が犯罪者の妹だとしても、閖白えりかだとしても、この気持ちは変わらない。
 だって、美海は美海だ。それ以上でもそれ以下でもないんだ……。

 空太…………気を遣ってくれてありがとな)

空太
「全然平気」
朔也
「……………………」
(…………………………………………あれ?
 空太の顔を見てるとなにか思い出しそうだ。
 …………なんだ? 空太の顔の、その向こう側…………奥に、ぼんやりとした輪郭が……)

朔也
「!! 空太!!」
空太
「(びく!)……な、なに、突然」
朔也
「お、お前…………菫谷と仲良かったよな?」
空太
「菫谷…………? 菫谷昴のこと?」
朔也
「そう、それだ!」
空太
(…………菫谷 昴すみれたにすばる。中等部時代、仲が良かったクラスメイトのひとりだ。
 容姿端麗だったが自己中でマイペースなやつだった。いつもバカにしたように笑うから、クラスメイトの評判は最悪に低かった。
 …………でも、俺は菫谷が子猫の世話してるの見かけたことがあって、それで、好感持ってたんだよな……。
 その菫谷がどうしたってんだ?)
「う、うん、仲良かったけど…………それがどうかした?」
朔也
「…………ごめん、なんでもないんだ」
(…………菫谷昴、…………墨谷、昂太…………似てる。名前もだし、あの顔もそっくりだ。
 閖白えりか…………白百合美海。
 墨谷昂太…………菫谷、昴…………。

 なんだ、どういうことなんだ? 惨殺事件の行方不明者が、どうして3-Bに二人も揃っているんだ……)

空太
(朔也…………?)





 ――――PM20:30、モニタールーム

「囲ってもらってたんだよ美海共々、バーーーカ!
 俺は被害者ってことで自由な暮らしを。美海は加害者ってことで散々ソープ嬢みたいなやり方で働かされてなあ、知らねえだろ、乃木坂くんよぅ。
 その女はアバズレなんだよ。金のために散々体を弄ばれた淫売女なんだよ、お前の愛して止まないその女はよぅ、くくくくくくくくく」

「…………ひとつ、教えてくれ」

「あ?」

「なぜお前は…………俺に憎悪を向ける? 白百合と関係があるのか?」

 ――――ドカッ、バキッ

「っっっ」

「…………ひとつ教えてやるよ。
 お前はなぁ、そっくりなんだよ、俺の家族を奪ったあの女の兄に、姿形も雰囲気も、……名前も」

 ――――ガンッ

「っ!」

「…………ついでに言えば、美海に好かれてたってのも気に入らねえ。
 …………なんでだよ……兄に似てたからか? 俺の家族を奪ったあいつに…………」

(…………菫谷……)





 ――――PM20:40、美海の部屋
勝平
「…………白百合」
美海
「勝平くん? どうしたの?」
勝平
「部屋にいてくれてよかったわ。
 風呂の準備か?」
美海
「うん。そうよ」
勝平
「…………小田切から伝言」
美海
「え?」
勝平
「今夜、12時に応接間に集合な」
美海
「ああ、わかったわ。ありがとう」
勝平
「…………迎えにくるからな」
美海
「ええ〜? いいのに(笑)」
勝平
「いいからいいから。じゃな」
美海
「うん、またね」






……………………。


「さて、俺はそろそろ上がるかな。
 ゆっくりしてっていいぜ?」
朔也
「ああ。俺は…………もう少し」
空太
「じゃ、俺も」

「おうよ、じゃあな」

………………。

朔也
「空太…………俺、心配かけてたよな?」
空太
「うん。…………あ、でも、
 始めに気付いたのは俺じゃないんだ。
 その…………佐倉がさ、朔也の様子が変だって気付いてさ」
朔也
「…………佐倉が?」
空太
「うん。…………心配してたよ」
朔也
「そうか…………ありがとう。
 …………そろそろ上がるか」
空太
「そうだね」
朔也
「…………あまり、俺のことは気にしなくていいぜ?」
空太
「え?」
朔也
「…………たぶん、疲れが出ただけだからな。
 …………佐倉にも言っておくよ」
空太
「そうだね。…………うん、それがいいと思う」
朔也
「…………ありがとうな」
空太
「いいっていいって。
 …………それじゃ、上がろ」
朔也
「おう」
空太
(心配されるのって、逆に疲れたりするもんな。
 …………朔也のことは、白百合とかアキラとか他のメンバーに任せよう)

空太
(…………こうして、2日目の時間は過ぎて行った。

 …………犯人の目的。
 正直俺の頭じゃからっきしなんだけど、そこはまあ、アキラたちに任せればいいか。
 警察…………早く見付けてくれないかな…………)






 ――――PM23:00、晶の部屋

「さて、っと…………」
(今晩は朔也を占う。
 まあ、襲撃の役目も負ってるわけだし、人狼ってことはないだろうけど、一応な。
 …………本当は勝平を占うつもりだったが…………あまりにも朔也の挙動が怪しすぎた。正直、親友を公言しておいて、あんな朔也は初めて見た。
 俺と美海が付き合うことになったときも、あんな風にはならなかったのにな……)

「…………本日は誰を占いますか、か……」
(乃木坂朔也……………………。
 ……………………結果は、『村人』。
 ほらな、やっぱり違う。
 …………なら、どうしたってんだ、朔也。やっぱり原因は…………美海なのか?
 もしかして…………あれ・・を知ったのか?
 まさか。どこから。どうやって)

「………………。」
(それにしても、処刑も襲撃もない状態で…………、永遠にゲームが成り立たない選択をできる構成をしておいて、占いはしっかりできるんだな。
 俺が占い師に選ばれた理由…………なんとなく、わかった気がする。
 おかしいと思ったんだ。16人も集めておいて、人狼がたったの3人。まあ、裏切り者が混じってることを考慮したとしても、明らかに人狼が不利な構成だ。
 その上、俺が・・占い師。悪いけど俺は感も鋭いからね。
 …………つまり、ゲームをしない選択をするのも、犯人の想定内だってことだ。
 そして、美海に人狼を押し付けることで、俺を動揺させ、動きを封じ込める目的もあるんだろう。そうすれば、人狼と村人が公平になると思ったんだな、たぶん)

「……………………まずいな」
(美海のことになると、滅法弱いんだ、俺は。
 それに…………これも犯人の想定内だとすると、必ずどこかで崩しにかかるだろう。
 今はみんな気力を取り戻しているが、こんな薄暗い場所に何日も閉じ込められたら、気が触れるやつが出てきたっておかしくはない。

 …………くそ。大人しく警察が見付けてくれるのを待つ提案をしたのは俺だが、もしも助けがこなかったら…………どうすりゃいいってんだ。
 俺は美海を…………告発することなんてできやしない。そんなことをするぐらいなら、死んだ方がずっとマシだ)

「……………………」
(…………やっぱり、朔也のあの挙動も、犯人がなにかしら仕掛けた証拠なんだろうな。
 誰だ。誰なんだ、犯人は。…………泉沢なのか? それとも…………)

「…………菫谷」
(…………俺は、唯一、美海と菫谷の過去を知っている者だ。
 きっかけは、ネットサーフィンだった。過去の様々な惨殺事件を調べる内、10年前のある事件を知ることになった。なにか引っ掛かった。
 ほとんどの記事や画像は削除されていたが、その中で、二人の顔写真を見付けた。…………物凄い衝撃だった。
 すぐに美海を問い質した。美海は驚愕の表情を浮かべた後、ほろほろと涙を流して、ゆっくりと語り始めた。)

美海
 アキラの言う通りよ。閖白えりかは、あたしよ。
 なぜ白百合美海として生きているのか。
 おにいちゃ…………兄が、事件を犯す前、あたしはあるところに預けられたの。それが今、あたしの面倒を見てくれてる『氷野組』…………所謂、反社会組織……暴力団よ。
 後に、事件の被害者の、墨谷昂太も一緒に受け入れることになったわ。兄の差し金だったみたい。
 あたしたちね、住民票もなにもないの。でもね、氷野組の当主が宍銀学園の園長ととても親しくて、事情を知った上で受け入れてくれたの。
 過去を消して、名前を変えて…………。

 ねえ、なぜあたしの名前が『美海みみ』なのかわかるかしら。被害者の…………兄の恋人だった女性は、『南海みなみ』と言う名だったの。その名を文字って与えられたのよ。
 …………十字架を、背負わせるために。

 あたしは、兄の落とし前と昂太のために、…………体を売って働くことになったわ。週末になるとね、あたしは…………あたしは…………。

 …………ごめんなさい、アキラ。だから、あなたの気持ちに答えられない。…………軽蔑したよね? ごめんなさい、ごめんなさい…………。


「……………………」
(俺は…………美海を永遠に守っていくと誓った。
 血を吐くように泣きじゃくる彼女を見て、そう決めたんだ。

 美海のことだけは…………なにがあっても守ってみせるさ)

「……………………」
(場合によっては、…………ゲームをする選択をするしかないかもな。
 美海が人狼なら…………二人で生き残ることはできないのか。頼みの朔也も村人だしな…………。
 …………人狼側に、美海を託せる奴がいればいいんだが…………)

「……………………」





 ――――PM23:02、和華の部屋

今晩は誰を人狼の襲撃から守りますか?

和華
「……………………有栖川、直斗くん……」
(昨日は手が震えていたけど、今日は幾分マシになったみたい。
 メッセージが黒い画面に溶けて行って、そして『完了しました』の文字が浮かび上がった)
和華
「…………昨日は上手くいったんだもの。
 …………今日も、きっと」
(きっと…………きっと…………)





 ――――PM23:10、朔也の部屋
朔也
「……………………」
(俺は、美海と菫谷の写真を眺めていた。
 新聞を探る内、加害者である美海の兄の写真もでてきた。どうやら事件があまりにも凄惨だったせいで、一部は実名報道していたようだ。

 少年Aの名前は…………『閖白 仁(ゆりしろ ひとし)』。
 どことなく、元クラスメイトだった如月仁と似ている。

 …………そういえば、美海と如月の関係を疑ったことがあった。
 俺も如月とは仲が良かったけど、美海が一匹狼だった如月に人一倍熱心に接してたからだ。

 …………ダメだ。俺ひとりじゃ抱えきれない。
 …………アキラ……、アキラに打ち明けてみようか。
 アキラは…………アキラなら…………)
朔也
「…………でも」
(美海の幸せを壊すかもしれない。
 …………そのとき俺はどうすればいいんだ?
 …………アキラの変わりに、支えてやれるのか?)

 ――――プルルルルルル
朔也
「……………………」
(電話がかかってきた。…………佐倉だ。

 今日、泉沢千恵梨の話が出たが、自分で言うのも難だが正直、…………佐倉も、泉沢と同じだ。
 今は昔ほどではないが…………まだ俺にそう言う気持ちは抱いているんだろうか。

 俺は通話のボタンをクリックした)
朔也
「もしもし…………」
小桃
「≪あ、…………乃木坂、くん?≫」
朔也
「ああ、俺だよ」
小桃
「≪…………疲れてるところごめんなさい。
 今、平気かしら?≫」
朔也
「ああ、大丈夫だよ」
小桃
「≪よかった…………。
 …………今日、元気なかったでしょ?
 心配したのよ≫」
朔也
「ああ、空太から聞いたよ。
 佐倉が心配してるって…………ごめんな」
小桃
「≪ううん、謝らないで…………≫」
朔也
「……………………」
(…………気になる。佐倉の気持ちが。
 …………佐倉、もし、佐倉が俺に好意があるとして…………俺が、美海と同じ状況だとしたら…………)
朔也
「…………佐倉」
小桃
「≪うん?≫」
朔也
「…………ずっと、気になってたんだけど」
小桃
「≪…………なに?≫」
朔也
「佐倉はさ…………その…………」
小桃
「≪うん≫」
朔也
「…………俺のことが、好き、なのか?」
小桃
「≪…………好きよ≫」
朔也
「………………………………。
 …………そうか」
(…………嬉しいんだが、複雑だな)
小桃
「≪ええ≫」
朔也
「……………………ごめん。
 ならひとつ、聞きたいんだけど」
小桃
「≪うん≫」
朔也
「例えば、俺が犯罪者だとして」
小桃
「≪……………………≫」
朔也
「いや…………俺が犯罪者の身内だとして」
小桃
「≪…………うん≫」
朔也
「…………それでも、俺のことが好きって言えるか?」
小桃
「≪……………………乃木坂くん、
 それを聞いてどうしたいの?≫」
朔也
「え?」
小桃
「≪乃木坂くんは乃木坂くんなんじゃないの?≫」
朔也
(俺ははっと目を見開いた。
 …………佐倉も、そう思うのか。そうか。
 …………美海は、美海だ。美海が犯罪を犯したわけじゃないんだ。
 他人に肯定されたようで、不思議と気持ちが落ち着いてきた。)
朔也
「…………佐倉」
小桃
「≪うん?≫」
朔也
「…………ありがとうな」
小桃
「≪うん…………いいのよ≫」
朔也
「…………それと、ごめん。
 今、気持ちを決めることはできないけど、嬉しかったよ」
小桃
「≪うん、わかってるわ。
 あなたのことは…………ずっと見てきたから≫」
朔也
「…………ありがとう、…………ごめんな」
小桃
「≪そんな、…………何度も謝らないで≫」
朔也
「うん、ごめん。…………あ、ごめん」
小桃
「≪うん≫」
朔也
「……………………」
(……今まで美海以外の女の子なんて、何度も無理だと思ったけど。
 …………佐倉なら…………佐倉なら好きになれるかもな……)
朔也
「佐倉…………。
 …………それじゃ、今日はそろそろ」
小桃
「≪ええ。
 …………襲撃、うまくいくといいわね≫」
朔也
「そうだな…………それじゃ」





 ――――PM23:14、小桃の部屋
小桃
「うん。おやすみなさい」
(乃木坂くんとの電話を切ったあたしは、昨日よりも浮かれていた。
 …………ついに、ついに気持ちを伝えてしまった。
 …………結果はいまいちだったけど、それでも今は・・って言ってくれた。
 …………こんな状況だもの、それは仕方ないわ。

 昔からずっと好きだった男の子。
 可能性なんてほんの一握りだったけど…………今もそうなのかもしれないけど、けど、昨日よりは側に近付けたんだわ。嬉しい。

 ……………………。
 …………また、あたしは。
 …………ごめんなさい、弥重)





 ――――AM00:00、美海の部屋
美海
(コンコンコンと部屋をノックする音が聞こえる。
 …………勝平くんだわ。早く出なくちゃ)

 ガチャ――――

美海
「勝平くん、本当に迎えにきてくれたのね」
勝平
「おう」
美海
「ありがとうね」
勝平
「ああ。…………行くぞ」
美海
「ええ」
(本当に心配性なんだから。
 …………今日は、直斗くんを襲撃するんだわ。
 …………用心棒。うまくいきますように)





 ――――AM00:03、応接間
冬司
「…………白百合さん、勝平くん」
美海
「おまたせ、小田切くん。
 伝言ありがとうね」
勝平
「さて、行くか」
冬司
「だから勝平くんは決断が早いって」
勝平
「大丈夫だろ?」
美海
「…………早く寝たいんでしょ?」
勝平
「…………バレたか」
冬司
「ふふ、そーゆーことね」
勝平
「昨日遅かったしあんま眠れなかったろ。
 今日はもう寝ちまいたいんだよな」
冬司
「…………じゃ、手短に話すけど。
 ……白百合さん、……今日の朔也はいったんなんだったの?
 君が原因でしょ」
美海
「んん〜…………朝から元気なくて、
 …………あたしが原因なのかしら、それもわからなくて」
勝平
「…………白百合が原因じゃないかもしれないだろ」
冬司
「いや、朔也と言えば白百合さんでしょ。
 …………で、俺思ったんだけどね、朔也は『占い師』なんじゃないかな?
 それで、白百合さんを占った。結果…………『人狼』だった」
勝平
「…………なるほどな」
美海
「…………それじゃ、朔也はあたしを庇ってくれてるってことね」
冬司
「うん。そう考えると辻褄が合わない?」
勝平
「…………俺も思ったんだけどさ、
 処刑も襲撃もなしなのに占いはしっかりできんのかな?」
冬司
「…………それは占い師にしかわからないね」
美海
「…………朔也が占い師…………でも、ありえるわね。
 あんな朔也は初めて見たもの」
勝平
「とりあえず直斗んとこにいこう。
 …………話は後でもできるだろ」
冬司
「…………そうだね、そうしよう」
美海
「…………行きましょ」





 ――――PM23:15、直斗の部屋の前
勝平
「…………いくぞ」
冬司
「うん…………」

 カチ――――
勝平
「はい、成功」
冬司
「開かない?」
勝平
「ああ」
美海
「ああ、よかったぁ〜。
 これで本当に明日からも安心できるわ」
勝平
「んじゃちゃっちゃか戻ろうぜ」
(俺は白百合の腕を取った)
美海
「あ、あ、あっ、待って」
冬司
「俺も行くよー」





 ――――AM00:16、直斗の部屋
直斗
「…………?」
(今なんか、音がしなかったか?
 …………人狼がきたのかな。

 さて、霊媒対象もいないし、今日は寝るか)





 ――――AM00:20、応接間
勝平
「うまくいったな」
美海
「ね」
冬司
「大成功」
勝平
「…………そうだ、ちょっと待ってろ」
冬司
「え、勝平くん!」
美海
「あれ〜、どこ行っちゃったの」
冬司
(白百合さんと二人きりなんて…………気まずいじゃないか)
美海
「小田切くん、昨日はよく眠れた?」
冬司
「うん。ぐっすりとはいかなかったけど、平気だよ。
 …………白百合さんは?」
美海
「ふふ、あたしもだいたいそんな感じ。
 …………でも、これで本当に安心できるわね」
冬司
「そうだね」
(まあ、都丸さんの問題とか、本当に警察が来てくれるかとか、不安要素はいっぱいだけどね)
美海
「…………小田切くんは、どう思う?」
冬司
「え?」
美海
「このゲームのこと」
冬司
「…………昼間アキラが言ってたけど、
 快楽目的の可能性がやっぱり高いんじゃない?
 怨みを買うような人なんて、この中にはあまりいない…………こともないか」
美海
「え?」
冬司
「いや……ううん、怨みと言うか、やっかみを買いそうな人はむしろいっぱいいるなと思って」
美海
「…………例えば?」
冬司
「そうだね。
 …………アキラとか、朔也とか、筒井くんとか、…………勝平くんも白百合さんもね。
 と言うか、ほぼ全員かな」
美海
「…………自分で言うのも難だけど、否定できないわ」
冬司
「白百合さんは、嫌がらせ受けたこととかある?」
美海
「あたしはないかな。
 いつもそばに、アキラや朔也や果帆がいてくれたから」
冬司
「そう」
美海
「…………果帆や由絵はあったみたいね。
 特に由絵は、勝平くんと付き合うようになってから、すこし」
勝平
「勝平くんはモテるからね」
美海
「男の子らしいもんね。
 …………でも、小田切くんは自覚してないかもだけど、あなたも結構女の子から人気があるのよ?」
冬司
「いや、まさか。俺なんて剣道くらいしかないし」
美海
「ふふ、その姿が素敵なんだって。
 あたしも小田切くん、素敵な男の子だなって思うよ」
冬司
「白百合さん…………テレるからさ」
美海
「ふふ、ごめんね」
冬司
「……………………」
(白百合さんに褒められちゃった。
 どうしよう…………嬉しいけど、動揺が出てなきゃいいけど。

 白百合さん、俺はね、犯人の目的は君だと思ってるよ。
 君はあまりにも美しすぎるから…………心も、体も、なにもかも。
 君を壊したい。そんな破壊願望が犯人にはあるんじゃないかな?
 …………俺と同じように)
勝平
「おまたせー」
美海
「おかえりなさいー」
冬司
「おかえり、勝平くん」
美海
「なあに? それ」
勝平
「倉庫にあった。…………酒」
冬司
「ちょっと、俺らまだ未成年なんだから」
勝平
「うそだよノンアルコールだっての。
 乾杯しようぜ」
美海
「…………襲撃失敗を祝して?」
勝平
「おう。ほら」
美海
「ありがとう」
冬司
「ありがとう」
勝平
「…………じゃ、かんぱーい」
美海
「かんぱーい」
冬司
「乾杯。
 …………今日は早く寝ようね」
勝平
「おう」
美海
「今日はゆっくり休みましょ。
 本当によかったわ。二人ともありがとう」
勝平
「おう」
冬司
(……………………。
 いつまで、こんな日々が続くかな)





 ――――PM23:30、紗枝子の部屋
紗枝子
「あらあら、呑気なものね」
(当然のように応接間にも監視カメラはある。わたしの部屋からも本当に全部丸見え。

 …………白百合さん。
 そうしてられるのも、今だけよ。

 あなたには…………過酷な運命しか待ってないんだから)






――――2日目、終了



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