012.2日目『カラオケ大会』


 ――――AM11:00、リビングルーム
空太
「どう? できそう?」
小桃
「大丈夫だと思うわ。
 ね、道明寺くん」

「ああ。…………えーっと、マイクは二つか。
 誰が先にいく?」
直斗
「そこは言い出しっぺの佐倉だろ」
小桃
「え、……あたし?」
(空気を和ませるために提案しただけなのに、こんな風になるなんて……どうしようかしら)
由絵
「ええ〜いいじゃんいいじゃん〜!
 はい、佐倉さん! 好きなの歌って♪」
小桃
「え、えっと…………でも…………」
和華
「恥ずかしい?」
小桃
「……………………(こくり)」
花菜
「あはは、無理しなくても大丈夫だよ、佐倉さん。
 先に男子行ってよ、男だろ〜?」

「そうよ」
圭吾
「あちゃーそう言われちゃうと」
勝平
「おい、空太、やれよ」
空太
「絶対に嫌だ。せめてみんな歌ってからにして、お願い」
果帆
「まったくもう空太は〜」
美海
「うふふ」
結翔
「んじゃ、俺、いきまーす!」
冬司
「いいよ、なににする?」
結翔
「……どうすっかなぁ〜、
 …………白百合、なに聞きたい?」
美海
「それじゃ、盛り上がる曲がいいな。
 『女々しいね』とか、どう?」
結翔
「おっけー!!」
惣子郎
「『女々しいね』っと…………入れたぞ?」
勝平
「ほら、マイク」
結翔
「女々しいね女々しいね女々しいね♪
 痒いよ〜おおお〜〜〜♪」
圭吾
「ひゅーーーー!!」
由絵
「いえーーーい!!」
花菜
「よっ、女々しいね!」
朔也
「………………」
(どうしよう、抜け出せない……)
小桃
「………………」
(…………やっぱり、様子がおかしいわ)
直斗
「おう朔也、乗ってるぅ〜?」
朔也
「おうよ」
空太
(朔也…………確かになんか元気ないかも?)

「んだよ、疲れてんのか?」
朔也
「ああ、昨日あんま寝れなかったわ」
美海
「仕方ないよ。
 朔也、無理、しないでね?」
朔也
「あ、ああ、ありがとう、美海」
圭吾
「はい次ーーー!
 だれいく?」
勝平
「いけ、生徒会長」
惣子郎
「こんなときばかり俺に押し付けるな!」
果帆
「会長、七瀬が見てるぜ?」
和華
「ふふ、筒井くんの歌、聴いてみたいな?」
空太
(お、ちょっと意地悪な七瀬だ、珍しい〜)
惣子郎
「わかったわかった!
 じゃ、スキマイッチの『楓』で」
直斗
「いいねえ〜!」
惣子郎
「キミが〜こど〜もに〜なって〜♪」
空太
(こうして、順番に選曲していくことになった。
 竜崎、アキラ、直斗、小田切、七瀬、佐倉、勝平、八木沼の8人が熱唱し終わり、今は和歌野と小日向がデュエットしてるところだ。
 …………俺はどうしても嫌だったから最後に果帆と一緒に歌わせてもらうことになった……。
 しょうがないじゃん、嫌なものは嫌なんだから)
花菜
「さーよな〜ら〜愛してる人〜♪」

「さーよな〜ら〜愛してる人〜♪」
花菜
「ず〜う〜と〜愛してる人〜♪」

「ずーうっとずーっとずーっと〜愛してる人〜♪」
由絵
「いえーーーーい!!」
圭吾
「いえーーーーい!!」
惣子郎
「二人とも、上手いな」
和華
「ほんと。和歌野さんのソプラノと小日向さんのアルトがすごく素敵だったわ」
直斗
「さっすが宝塚コンビっ!」

「やめて? その言い方」
花菜
「うちら別に意識してるわけじゃないからさ」
冬司
「でも、名物コンビだったけどね」

「周りが勝手に騒いでただけよ」
冬司
「まあ、和歌野さん可愛いし、小日向さんはかっこいいし」
花菜
「はは、そう言ってくれると嬉しいね」
勝平
「ほら、白百合」
美海
「あ、あたしの番?」
勝平
「おう」
由絵
「美海は上手だから楽しみ〜」
惣子郎
「そんなに上手いのか?」
勝平
「ああ、たぶん、びっくりするぜ」
美海
「では、白百合美海、いっきまーすっ!」
空太
(そんなこんなで。
 白百合が歌ったのは今1番女子高生の間で流行ってるR&Bの歌手のバラードだった。
 ……てゆーか、なにこれ、上手すぎる。

 白百合の圧倒的な歌唱力に魅了された俺は、思わず感嘆の溜め息を漏らしていた。)
「白百合ってさ、何者なわけ?」
果帆
「ん?」
空太
「顔はかわいい、スタイルは抜群、性格もいい、挙げ句の果てに歌も上手いって、なんだよ、同じ人間?
 ……すっげー憧れるー……」
果帆
「…………お前、あたしの親友と言えど、
 仮にも彼女の前で他の女ののろけ話かコラ」
空太
「え!? いやいやそんなつもりは」
美海
「Hate That I Need You〜♪」
結翔
「ひゅーーーー! ひゅーーーー!!」
勝平
「ちょっと目黒がうるせえ」
小桃
「白百合さん、とても素敵だったわ」
美海
「ふふ、ありがとう」

「俺の自慢の彼女だかんな」
朔也
「……………………」
(呑気なこと言いやがって…………。
 …………いや、そんなことより、そろそろ抜け出せないか……)

果帆
「……………………」
空太
「……………………」
(やっばい、果帆めっちゃ睨んでる……)
冬司
「空太と間宮さんの番だよ」
果帆
「こいコラ」
空太
「あわわわわわわわわ」
冬司
「???」
空太
「さ、さんねんめーの目移りくらーい多目に見てよ〜」
果帆
「開き直〜るその態度〜が気に入らねえええんだよおおお!」
空太
「さささんねんめーの目移りくらああい多目に見いてえよおお……」
果帆
「両手をつーいて謝ったって許してやんねえぞコラァァアア!!」
空太
「うわあああああ」
空太
「つつつーか! まだ一年! てゆーか全然目移りしてない!」
果帆
「おぉおぉ、彼女の前でノロケといてそりゃないぜコラ」
空太
「褒めただけ! 褒めただけだって!
 勘弁、マジ勘弁だってば果帆おおおお〜」
果帆
「歯ぁ喰いしばれやコラァ」

「なんだ? 夫婦漫才か?」
美海
「なあにイチャついてるの?」
空太
「しし白百合助けてええ〜果帆がああ〜」
果帆
「美海は気にするな、こいつの腐った根性叩き直してるだけだ」
空太
「違うの! 俺は白百合すごいねって褒めただけなの!」
美海
「ちょちょちょ、痴話喧嘩の原因はあたし?
 ちょっとやめてよ〜」
果帆
「だってこいつがあ!」
由絵
「もう〜果帆〜本堂くんのこと大好きなのはわかるけど、
 美海を困らせちゃだぁめぇ〜」
果帆
「おおおおおい/// 由絵っ/// このっ///」
由絵
「きゃあ〜こわーい〜」
空太
「ああ、助かった…………」
美海
「ふふふ」
惣子郎
「さて、これで一週したか?」
和華
「えっと…………乃木坂くん、歌った?」
朔也
(マジでそんな気分じゃないんだが……)
「いや、まだだけど…………」
結翔
「はあ!? お前ひきょーだぞ!
 なに歌うんだよっ!」
朔也
「…………えーっと」
小桃
「待って。
 …………乃木坂くん、顔色がよくないわ。
 体調が悪いんじゃない?」
朔也
「…………いや、悪いわけじゃないんだ」

「なんだよ朔也、寝不足か?」
朔也
「まあそんなとこだ」
美海
「…………昨晩よく眠れなかったって言ってたもんね。
 無理しなくていいのよ? 部屋で休んだら?」
朔也
(ナイス、美海、佐倉)
「ごめんな、心配かけて。
 ……ほんとに、大したことじゃないんだけど、
 すこし寝て来てもいいか?」
美海
「うん」
直斗
「こんなときに風邪でも引かれたらたまったもんじゃないしさ、
 休めよ、朔也」
朔也
「悪いな、ありがとう」

「自己管理はしっかりな」
朔也
「ああ。…………じゃ」
(よし、これで、書斎にいける。
 …………手掛かりがありますように)

果帆
「朔也…………」
空太
「寝不足だってさ。さっき、話聞いてた」
果帆
「本人から?」
空太
「うん。なんか、様子が変だなって思って。
 …………気付いたのは俺じゃないんだけどさ。
 佐倉が、なんか、変じゃないかって」
果帆
「…………へえ〜、佐倉がねえ……。
 …………話したんだ?」
空太
「ああ、うん。…………それだけだよ?」
(果帆には、昔佐倉のこと気になってたこと、話したことあるんだよな。
 …………変に誤解されなきゃいいけど)
果帆
「…………そうか。
 ……佐倉、まだ朔也のこと好きなのかな」
空太
「それは俺も思った。
 …………どうなんだろうね」
果帆
「律儀なことだな。
 …………まあ、それはアキラや朔也にも言えることだけど」
空太
「…………確かに」
(ってことは、やっぱり朔也はまだ白百合が好きなんだな。
 …………好きな子の彼氏が、自分の親友。
 ……朔也にもきっと、誰にも言えない思いがあるんだろうな)
直斗
「…………さて。気を取り直して。
 次だれいく?」
結翔
「んじゃ俺いくー!」
惣子郎
「はいよー」
空太
(こうして、カラオケ大会は大盛り上がりだった。

 ……………………。
 ………………………………。

 状況を忘れているわけじゃない。
 たぶんみんな、こうして無理にでも盛り上がらないと、脳裏に蘇るんだ。
 昨日死んだ秋尾のこと、人質になった都丸のこと。
 …………忘れたわけじゃない。犯人を許したわけじゃない。
 でも…………でも…………。助けがくるまでは、こうでもしないとやってられなかったんだ)






 ――――PM12:30、書斎
 カチャ――――
朔也
(…………俺は、書斎の扉を開けた。
 途端にカビたような埃の臭いがもわんと鼻につく。
 古い洋館を型どってはいるが比較的小綺麗だった他の部屋に比べると、ここはかなり年期が入っているというか、何十年も放置されていた。

 ……………………。
 ここへ来て思う。俺は、どうすれば良いんだろう。なにを探せば良いんだろう。

 手掛かりは『閖白えりか』、この名前だけだ)
朔也
「……………………」
(書斎に並んでいるのは古い書物だけだった。
 小説なら太宰治とか、夏目漱石とか、そんな時代のものばかりだ。
 奥にはカウンターがあった。
 俺はカウンターに手を置いて、積もった埃を指で辿った)
朔也
「……………………」
(書斎をぐるりと見渡してみる。
 すると、簡易ソファーと棚の間に積み上げられた新聞を発見した。
 …………手掛かりがあるとしたら、これだ。

 閖白えりか…………たぶん、ニュースかなにかでその名を聞いたことがあったんだ)
 行方不明となっているのは、当時××歳の×××××くんと××歳の閖白えりかちゃんで――――――
朔也
(俺は新聞を一式、カウンターにどんと音を立てて置いた。)
朔也
「……………………。

 ………………………………。
 …………、……………………

 ………………………………あ、った」
(さして苦労もせずに、その名はあっさりと見つかった。
 よくよく他を見れば、その新聞は全て一つの事件を取り上げたものが揃っていたのだ。

 繭見沢一家惨殺事件。
 首謀者は当時15歳の少年A。

 少年Aは午後8時未明、当時クリーニング店を経営していた墨谷創太さん(当時49歳)宅に無断で侵入。
 始めに創太さんを惨殺し、続いて長男の颯太くん(当時高校二年生)、妻の夏海さん(当時45歳)、一階和室にて介護状態だった志津江さん(当時82歳)を次々と刺殺すると、当時少年Aの交際相手であった長女の南海さん(当時15歳)と揉み合いの末、これも刺殺。最後は少年Aも南海さんの遺体に寄り添うにして自殺をはかった…………。
 墨谷さん宅の次男、昂太くん(当時7歳)はその後行方不明。警察は少年Aがなんらかの目的で昂太くんを外へ連れ出したと見ているが、被疑者死亡により、昂太くんの身元は未だ発見に至らない…………。

 少年Aはこの事件の数日前にも、両親を殺害。少年Aの妹で長女のえりかさん(当時7歳)は、昂太くんと同じように未だ発見には至っていない…………。)
朔也
「…………えりか」
(えりかの、名字はなんだ。少年Aの本名は。
 これだけの事件なのだ。実名報道をしている新聞も中にはあるかも知れない。
 俺は忙しない動作で新聞を探った。

 そして…………そして……………………)
朔也
「…………、っ!」
(あった。少年Aこと『閖白 仁』。ゆりしろひとしと読むそうだ。
 惨殺された両親は『閖白 大(まさる)』、妻の『朝子(あさこ)』。
 そして、行方不明とされている少女は…………『閖白えりか』…………)
朔也
「……………………っ!」
(なんだ、これがどうした。これが美海とどう関係がある。
 墨谷創太、墨谷夏海、墨谷志津江、墨谷颯太、墨谷南海、墨谷昂太、閖白大、閖白朝子、閖白仁、閖白えりか…………この二つの家族が、美海とどう関係があるって言うんだ…………。

 冷や汗が止まらなかった。逸る気持ちが新聞をめくる動作を荒々しいものにしていた。
 鼓動がうるさい。…………嫌な、嫌な予感がするんだ)
朔也
「……………………」
(俺の新聞をめくる手が、ある記事を目撃した途端に止まった。
 惨殺された一家の顔写真、そこで無邪気な笑顔を浮かべる男の子。…………行方不明とされている、墨谷昂太。
 そして、加害者家族の顔写真も。犯人の閖白仁の隣で、すこし寂しそうな、切なげな笑顔向ける少女は閖白えりか。行方不明とされているその、少女は…………)
朔也
「……………………っ、
 美、海……………………!」
(美海だ。雰囲気は今とかなり違うけど、このハーフのような美しい顔立ちは、どことなく面影の残るこの少女は、…………美海だ)
朔也
「……………………」
(俺は呆然としていた。
 過去類を見ないほどの惨殺事件。その加害者家族は…………唯一生き残ったと思われるその少女は、美海だった…………。

 頭に酸素が足りない。呼吸が苦しい。

 美海…………君は、君が…………閖白えりかなのか?

 太い蔓が足元を引っ張るように、俺はその場を動くことができなかった…………)





 ――――モニタールーム

「そうだよ、乃木坂…………やっと見つけてくれたな。
 美海の正体が閖白えりかだとしたら? そして、行方不明のもう一人の少年が身近にいるとしたら?
 ……………………お前は軽蔑するか、美海を。そして、俺を…………」

「……………………お前の目的はなんなんだ」

 ガンっ――――ドカッ――――


「不用意に喋るんじゃねえよ、このクソチェリーボーイ。
…………俺はさ、お前のその、存在自体が気に入らねえんだよ。
 ……………………名前だけじゃなくて見た目も似やがって」

「…………なんの話だ?」

「だから言ってんだろ?
 …………お前には、教えてやらねえよ」

「………………………………」

「…………さあ、もっと探せ、勘繰れ。
 …………お前が長年思いを寄せた女が、どういう女だったのか…………」




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