09.甘い香り、清涼感のある香り1

 甘い香り、清涼感のある香り、源(みなもと)である水をもらったばかりの花たちは、花弁に雫を光らせながら残暑に負けず咲き誇る。
 真琴はウォールローゼ市内にある花屋に来ていた。
 いっぱい並べられた花壇用の花々の中で、真琴の目を射止めたものがあった。
 しゃがみ込んで観察する。紫がかかった青の、朝顔に似た飴玉くらいの花。
 ――好きだな、これ。
 指でちょんと触れれば、可憐な花は小さく揺れた。

「お気にめしました?」
 上からの声に頭を上げれば、前屈みに女店員がにこにこしていた。
 真琴は花を指差しながら尋ねる。
「涼しげでかわいいなって。なんて花なんですか?」
「コンボルブルスといいます。夏期に強い花で、多年草なので増えますよ」
「花壇に植えたいんですけど」
「問題ないですよ。冬期は枯れちゃいますが、春の終わりごろに芽が出ますから来年も楽しめます」

 じゃあ、と言って真琴は腰を上げた。
「この花とあっちの白い花を、二十株づつお願いします」
 コンボルブルスに目線をやって、続いて真琴は少し奥のほうにある花を指した。
 ありがとうございます、と店員は笑顔を見せて注文された花を大きめの袋に詰めていく。
「コンボルブルスですけど、小ぶりで可愛らしさもありますが花言葉はもっと素敵なんですよ」
 ほかの花を物色していた真琴は、店員に話しかけれて向き直る。

「へぇ。どんな花言葉なんですか?」
「縁と絆です。ロマンチックでしょう?」
 巡り逢いとか、結びつきとか、そんな意味だろう。なるほど確かに素敵な言葉だった。
 店員が真琴に袋をふたつ差し出す。真琴は受け取りながら、
「調査兵団宛てに付けといてもらえますか」

「まぁ! 兵団の方だったのですね」
 私服の真琴を見て、店員は驚くように目を丸くすると激励の言葉を述べてきた。
「いつもお疲れさまです。これからも応援してますから頑張ってくださいね」
「……はい。じゃあボクはこれで」
 ありがとうございました、とおじぎをする店員に、真琴は顔を少し下げてから兵舎の方角へ足を運ぶ。

 ――応援してます、か……。
 果たして本音だろうか、それとも真琴が客だった手前の社交辞令なのか。
 嫌でも遠征帰りを思いだしてしまう。あのときの非難中傷は忘れられない。住民すべてがあのように感じているとは思っていないが、応援されても嘘っぽく見えてしまう。
 ――なんか、淀んでる。
 真琴は自嘲的な笑みをこぼした。非現実的な生活をしているせいで、感覚が疑い深くなってしまったのかもしれない。

 調査兵団本部の門をくぐって建物の近くまで来ると、花壇の前で立っているハンジが手を振った。
「おかえり! いっぱい買えたかい?」
「全部で四十株です。植えてみて寂しい感じだったらまた買ってきます」
 ハンジは真琴から袋を受け取ると、中身を覗いて頷いた。
「涼しげでいいじゃん。センスいいね」

「ボクの好みで申し訳ないですけど」
「いや、いい感じだよ。じゃあさっそく植えちゃおうか」
 ふたつの袋を地面に置いてしゃがむと、ハンジは丁寧に花の株を出し始めた。 真琴も頷いてから、もうひとつの袋からコンボルブルスを花壇に並べ始める。

 本部の正面玄関近くには、レンガで作られた花壇があるのだが、真琴がそれに気づいたときには寂しい有様だった。いつ枯れたのか分からないくらいにミイラ化した枝が、点々とあるだけの寂れた花壇。忙しない兵団では花などに構っている余裕などないのかもしれない。

 でも枯れっぱなしの枝がそのままにされているのも、運気を下げそうでずっと気になっていたのだ。このまえの合同訓練のときに、ハンジが草原の花を愛でているの見かけて真琴は提案したのだった。
 ――本部の花壇なんとかしませんか、と。
 ふたつ返事でハンジは了承してくれて、いまこうしてふたりは花を植えている。

 二色しかないのでレイアウトは気にせず、等間隔に植えていく。新しい土に入れかえ、肥料も混ざった茶色い土は、ふかふかで独特の匂いがする。
「ハンジさん。それ増えて大きくなるんで、余裕もって植えてくださいね」
 花を植えながら真琴は傍らのハンジに声をかけた。するとハンジが息を詰まらせる。
「ぇ」

 短い声がしたから、真琴はハンジが植えているところを見てみる。苦笑した。
「それじゃ花がかわいそうです」
「……やり直すね」
 ハンジの植えた花は、両隣に全然隙間がなくて密集しすぎていた。抽出しすぎたお茶を飲んだ瞬間みたいな、そんな苦い顔をしている。だが植え直しながら何か思い出したのか、ハンジは笑みに変えた。

「あさって花火大会だね。楽しみだな」
「え?」
「あれ? 知らない? 有名なんだけどな」
 ハンジは首を捻った。よほど意外だったのか、きょとんと間抜けな顔になっている。
 けれど知らなくて当然だ。この世界の行事のことなど分からないのだから。真琴は曖昧に笑って話を合わせることにした。

「そういえば、そんな時期でしたね」
「思い出してくれた? 毎年恒例でさ、調査兵団のみんなで花火を鑑賞するんだよ」
「どこでです?」
 真琴が訊くと、ハンジは振り仰いで本部の屋上に向かって指を伸ばした。
「あそこに集まってお酒を飲みながらね。今年は真琴も参加できるね」
「はい……」
 そら笑いで真琴は返した。

 あまり花火大会は好きではない。花火自体は好きなのだが、周囲の人間が作る雰囲気が好きではないために、もう何年も花火大会へ足を運んでいなかった。
 酒をあおって大声でどんちゃん騒ぎ。花火なんてみんなちっとも観ていない。終わったあとの街に溢れるゴミの山。モラルのなさに、せっかくの美しい花火が台無しになる。

 ハンジが根元に土を被せながら続ける。
「でね。これは私だけの恒例なんだけど、花火玉をいくつか作って提供しているんだ」
「花火を作れるなんてすごいですね」
「自分が作った花火が空に打ち上げられるのは最高だよ!」
 それでね、とハンジはにっこり笑う。
「真琴も作ってみないかい?」

「……火薬を扱うんですよね? 素人では危険なのでは」
「火薬作りはもう終わってるんだ。あとは好きな模様に組み立てるだけだから、よっぽどポカしない限り危険じゃないよ」

 ぼぅと青紫の花を見つめながら真琴は思案する。花火を作るということに関して好奇心がうずいた。自分の思い描いたものが空に舞う。
「やってみたい、です」
「そうと決まったら、ここを終わらせちゃおう! 花火は倉庫で組み立てるからね!」
「はい」

 返事をした真琴はてきぱきと花を植えていった。ハンジは妙にわくわくしながら、作業のスピードを些か雑に早める。
「やった、やった! 巨人の話をしながら花火玉作ろうね!」
「え?」
 聞き逃すわけにはいかない言の葉だった。真琴は手をとめて、ハンジにじと目を向ける。
「まさか、そっちが本命ですか……?」
「や、やだなぁ! 花火に決まってるでしょっ」

 口をもごもごさせながら否定してきた。ハンジのこめかみには一筋の汗が光る。真琴に逃げられないようにちょっと必死な様子だ。
「まぁ、いいですけど……」
 困った顔で笑う真琴にハンジはほっとしたように苦笑をみせた。

 ガラガラと音を立てて引き戸を開ける。窓の少ない倉庫内は薄暗くて、多少埃っぽい匂いと、花火に使用する火薬の匂いが充満していた。
 茣蓙(ござ)の上には複数の木箱。その中には花火玉作成に使う部品が、種類ごとに詰められているようだ。
 ハンジは茣蓙に座り、部品を取り出して並べた。向かい合わせになるようにして真琴も腰を降ろす。

「これに火薬を詰めていくんですね」
 手に取った薄茶の玉殻を真琴は眺めた。テレビで観たことがある。半円になっていて、最終的にはもうひとつの半円とくっつけるのだろう。
「うん。で、こっちが火薬玉で、色別に仕切られてるからね」
 そう言ってハンジは火薬玉の入った箱に顎をしゃくった。

 色別と言ったが、火薬玉はすべて濃灰色で区別がつかない。たぶん中身に色が含まれているのだろう。箱にそれぞれ色の名前が書かれたテープが貼ってあった。
 手に持つとだいぶ火薬臭い。作業が終わったころには臭いが手に染みついているだろうなと真琴は思った。

 ハンジが火薬を詰め始める。
「作りたい模様ある?」
「はい。青と紫の火薬を使って花でも……」
 言って目的の色の火薬を探していると、ハンジが「これだよ」と指を差してくれた。

 真琴は火薬をいくつか取って、ハンジの指南通りに詰めていく。さっき買ったばかりのコンボルブルスの花を再現しようと思っていた。涼しげで夏の夜空にきっと似合う。でも群青色に近いから、空の色に溶け込んでしまわないか少し心配だけれど。
 そして思っていた通り、ハンジは巨人話をマシンガンのごとく連射してくれた。
 真琴は左耳から右耳に流して、適当に相槌を打ち続けていたが、ふと気になって疑問を投げる。

「ハンジさんが巨人に興味津々なのは充分わかりましたけど、なんでそんなに楽しそうに話せるんですか?」
「うん?」
「だって巨人は人間からしたら憎い存在ですよね。この前の遠征でもたくさんの兵士が亡くなったのに」
「真琴には不謹慎に見えたかな?」
 真琴は口籠って、ハンジは穏やかな笑みに微かな翳りをのせた。
「若いころは巨人が憎くて憎くてたまらなかった。私の部下が何人殺されたか……。だけどある日気づいたんだ。怒りに任せてばかりでは何も解決しないことに」
「どういう?」

「冷静になって、巨人の生体に関する情報を少しでも集めることが人類のためになるって」
 真琴は頷いた。
「私も研究者の端くれだ。まだ分からないことだらけだけど、ちょっとずつ進歩してる。うなじが弱点だとか、夜は行動が鈍くなるとか、傷が再生するとかね」
「思うんですけど、エネルギーってどこで得ているんでしょうか」
「エネルギー?」

 はい、と真琴は相槌をする。
「巨人は人間を捕食するけど、消化器官はないんですよね。それに何年絶食しても平気だって前に言ってました」
「言ったね。その通りだ」
「食事をしないのに、生命維持に必要なエネルギーって、どこから得ているのだろうと不思議に思ったんです」
 ハンジは顎に手を添えて目線を落とす。潜考しているのか難しい顔だ。
「確かに……。生物には変わりないのにそれは不自然だね。それと納得いかないのが彼らの質量なんだよ」
「質量?」
 真琴は首をかしげて、ハンジは深刻に頷いた。

「巨人の切り取った腕を、持ち上げてみたときのことなんだけど、妙に軽かったんだ。体の大きさに見合うだけの質量がないんだよ」
「見た目よりも軽いってことですか。そうすると建物を破壊するほどの力って、どこから湧いているんでしょう」
「むむ。死ぬと突として軽くなる、のか?」
 ハンジは腕を組んで、肩に引っ付きそうなくらい首を大きく傾けた。
「大体にして可怪しいんだよね。あの体で二足歩行できること自体が」
「バランス悪いですよね。頭でっかちだったり、足が異様に短かったり、腕がとても細かったり」
「謎だらけだ」

 うーん、とふたりして首を捻った。やはり巨人に関しては不明瞭なことばかり。切り取った箇所から細胞を取って調べたら、何か人間との違いが分かるだろうか。
「細胞って検証したことありますか?」
「さいぼう?」

 ハンジは眼を見開いた。真琴も眼を見開く。
 “ 小学生 “に続いてこの言葉も通じないのだろうか。ハンジの発声は正しい発音が分からない、英語のスペルを発するときのようにたどたどしかった。

「えっと、体のほんの一部分っていうか……」
「ああ。組織のこと?」
「あ、それです」

 組織は通じるらしい。ほとんど同じ意味のことだが。
 ハンジはとりわけて気にしたふうもなく先を続ける。
「採取を試みたことはあるけど、体から離れるとすぐに蒸発して消えてしまうからね」
「細胞を調べることは難しいわけですね……」
「ねぇ、その、さいぼうって――」

 身を乗り出したハンジの言葉を遮ったのは、引き戸の開く音だった。外の明るさが、戸の隙間から線を描くように徐々に太くなって人影が伸びていく。
 戸に対して背を向けている真琴が振り返ると、リヴァイが片眉を上げている姿があった。

「なんだ。いいカモ見つけたんじゃねぇか」
「やっと来たね。もう作り始めてるよ!」
 ハンジが半身を横に曲げて、リヴァイに対して顔が見えるようにしている。だから真琴はハンジから少し横にずれた。
 やっと来たねとハンジは言ったので約束でもしていたのだろう。しかしリヴァイは入り口から動こうとしない。

「俺はいらねぇな。暇じゃねぇから帰る」
 平坦な声で言って踵を返そうとするリヴァイ。ハンジは慌てて立ち上がり、靴下のままで駆け寄る。そうしてリヴァイの脚にしがみついた。
「つれないこと言わない! せっかく来てくれたんだ、巨人の話くらい聞かせてあげるからさ!」
「聞きたかねぇよ。耳が腐る」
 リヴァイは脚を軽く振ってハンジを払おうとする。ハンジは諦めない。

「今年も楽しく花火玉を作ろうよ」
「俺はお前が、毎年ひとり寂しく花火玉を作っているのを哀れに思っていただけで、楽しんでいない。嫌々つき合っていただけだ。勘違いするな」
「それでも私は、毎年嬉しく思っていたよ」
 にっこりとハンジが笑うと、リヴァイが僅かに息を止めたように見えた。それがなぜなのか、感動したのか衝動だったかは分からないが。そして深く溜息をついたあとで、諦めたのか茣蓙のほうに歩きだす。

 無精ったらしく真琴の隣に胡座(あぐら)をかき、リヴァイは造作もない様子で玉殻に火薬を詰めていく。
 そんなリヴァイを横目で盗み見しながら、真琴はハンジに声をかけた。
「毎年?」
「うん、そう。毎年私につき合ってくれてるんだ。渋い顔しながらもね」
 にやっと笑みを見せると、リヴァイは瞳を眇めて嫌な顔する。

「花火作りに託(かこ)つけて巨人の話なんかするから、誰もつき合ってくんなくなったんだろうが」
「だって会話もなくただ作ってるだけじゃ、つまらないじゃない」
「そこは巨人の話じゃなくてもいいだろう。ほかの話題は思いつかねぇのかよ」
「えー。例えば何かあるー?」

 真琴とリヴァイは考えるように視線を彷徨わせる。寸刻して、ふたりが口を開いたのはほぼ同時だった。
「攻勢作戦とか」
「防勢作戦とか」
 ハンジは重心を後ろに倒すようにして指を差してきた。派手に失笑する。
「真面目だなー! ふたりとも作戦立案じゃないか! しかもハモってるし!」

 真琴とリヴァイは互いに向き合って苦い顔を見せ合った。先に眼を逸らしたリヴァイがハンジを睨む。
「真面目で何が悪い。お前は不真面目すぎる」
「失礼だなー。巨人の話だって作戦の役に立つじゃないのさ」
「お前のはただの自己満足だろう」
 機嫌を損ねたリヴァイは雑に火薬を詰めていく。

 ハンジが真琴に同意を求める眼をしてきた。
「そんなことないよね。さっきまで有意義だったよねー」
「……話し合うことで見えてくるものも、あるかもしれませんね。お互いに疑問を投げかけることで」
「どっち付かずは嫌われるぞ」

 リヴァイの口さがない指摘に、真琴はばつが悪くなる。
 巨人トークにつき合わされて確かに面倒に思うときもある。が、謎を突き詰めていく楽しさもあるのは本当で。まるっきり八方美人に接しているわけじゃない。

 口数少なく真琴は言う。
「べつに、そういうわけでも……」
「いちいち口答えするな」

「リヴァイ〜。なんであなたはそう刺があるかな」
 唖然とした語調で言って、ハンジは溜息をついた。
「もうちょっと優しくしてあげないと、あなたこそ部下に嫌われちゃうよ」
「男に好かれたところで気持ち悪い」

 困ったもんだ、とハンジがお手上げのポーズをする。真琴は目許を緩めて首を振った。
「優しいところがあるの、知っていますから大丈夫です。最初のころは粗暴な口調に反抗心しか湧かなかったけど、だんだん人となりが分かってきましたし……」
 ひゅ〜、とハンジは口笛を吹いてから、リヴァイに笑い顔を見せた。

「だってさ。良かったね、リヴァイ!」
 リヴァイ? と返答がない相手の鼻息を窺うように、ハンジは俯き加減のリヴァイを覗きこむ。
「あ?」

 上の空な感じでリヴァイが顔を上げると、彼の手からポロリと火薬玉が落ちた。
 落ちた火薬玉は茣蓙の上で転がり、三人の真ん中辺りで止まった。瞬く間に小さな火花を発したあとで、耳をつんざく高音とともに爆発した。摩擦熱で引火したのだろう。
 桃色の煙を撒き散らして、周囲に激しい火薬臭を漂わせる。
 顔周りの煙を払うように手を振り、真琴は激しく咳き込んだ。ほかのふたりも同様に咳き込んでいて、倉庫内に空咳がこだまする。

「なに、やってんのリヴァイ!」
 喉を詰まらせながらハンジが批難した。腕で口許を庇うリヴァイが、咽せながら言い返す。
「クソっ。乾燥が中途半端だったせいだろう!」
 煙が互いの顔を認識できるくらいに薄まると、真琴は突然笑い出した。

「ハンジさん、眼鏡〜! リヴァイ兵士長も顔中、ピンク色!」
 火薬の色がふたりの顔面に、煤とともに付いていたのだった。
 ハンジは眼鏡を外して、袖許のシャツを伸ばすようして拭き取る。
「通りで煙が晴れても視界がピンク色だったわけだ……」

 首許を飾るアスコットタイを外したリヴァイは、顰めっ面で自分の顔を粗雑に拭う。そのあとで真琴に視線を向けてきた。
「人のこと笑えねぇぞ。お前も大層なもんだ」
 言ってからタイを持つ手を伸ばして、真琴の頬をぞんざいに拭く。
 真琴は片目を瞑って、
「痛いです。皮膚が伸びる……」
「仕方ねぇだろう。擦(こす)んねぇと落ちない」

 ふたりを見てハンジは眼を点にした。
「仲良いんだね、ふたりとも。なんか構図がちょっと気持ち悪いけど……」
 はっとして真琴とリヴァイは眼を丸くした。顔を歪ませて舌打ちしたリヴァイは、手を引っ込めてタイをポケットに突っ込む。
「まぁ昔から世話焼きだからね、リヴァイは」
 ハンジはそう言って膝立ちになると、組み立てた花火玉を箱に詰め始めた。動揺を隠しながら真琴も手伝って、全部しまい終わると三人は倉庫を出たのだった。

 兵舎に向かいながらハンジが振り返って後ろ歩きする。
「小腹が空いたね。夕飯までまだあるし、みんなでお茶でもしようか」
「俺は暇じゃない」
「んじゃあ、リヴァイの部屋に集合で! 各自何か持ってきてね〜!」
 リヴァイの拒否を遮って、ハンジは我先にと兵舎のほうへ走っていった。きっと色々と用意するためだろう。

「ああ言ってましたけど、部屋に来たら隣に行くよう言ってもらえれば、ボクがもてなしますから」
 横目で窺う真琴をリヴァイはちらと見やってから、
「いい。お前の部屋にあいつを呼んだら、朝まで居座るに決まっている。次の日に迷惑被るのは俺だしな」
 寝不足になるであろう真琴に対する、訓練にならないという意味だろう。
 リヴァイは真琴を追い越しながら指示をする。
「ティーポットとカップを食堂から借りてこい。茶葉はいらん」

 はい、と後ろ姿に向かって真琴は返事をした。その足で食堂に向かい、熱湯を入れたケトルとティーセットを用意してもらって兵舎の三階に向かう。途中自分の部屋に立寄って、戸棚からお気に入りの菓子を取り出すと、リヴァイの部屋にいき扉の前でノックした。


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