10.腹が減っては戦はできぬ

「こんばんは。お久しぶりですわね」
 媚びるような口調。大広間からやってきたのは、ブロンドの巻き髪を片側の首から垂らしている女だった。真琴と年にそう違いはなさそうだが若干年上に見える。
(お久しぶり?)
「……ああ」
 と返答したリヴァイの反応は鈍かった。

 クラシカルデザインのドレスはダークピンクで、胸許から特大の乳房が零れ落ちやしないか、他人ながら気を揉んでしまう。色っぽい仕草で女はリヴァイに腕を絡ませる。

「つれないですわね。あれからお手紙すら出してくださらないなんて。わたくしからの手紙は届いてますの?」
「届いているが、忙しくて返事を書く暇がなかった」
「読んでくださってはいるのでしょう? お茶会の招待状を差し上げましたのに、いらっしゃらなかったけれど」
「簡単に休みなど取れないもんでな」
 淡々と返しているが、何やら考えるようにリヴァイは首をかしげっぱなしである。

 真琴はリヴァイをジト眼した。
(きっとどこの誰だか分からないんだわ)
 女はリヴァイを知っているが彼は女を覚えていないのだろう。豊かな胸をリヴァイの腕になすりつけている女の態度からは、それなりの関係な気がしてならない。先日、リヴァイ宛に届いた薔薇模様の手紙の差出人は、もしや彼女なのではなかろうか。

 女がリヴァイの腕を引いて誘いかける。
「裏庭へ行きませんこと?」
(なんで裏庭なのよ……)
 庭園での破廉恥な男女を思い出してしまった。南極のような真琴の冷たい視線に気づいたリヴァイが口端を引き攣らせる。
「なんだ、その眼は」
「別に? どうぞ? 行ってきたら?」

「あら、さっきリヴァイ様とダンスをなさっていた――」
 真琴の存在にいま気づいたとばかりに女は気の強そうな眼をしばたたいた。
 そんなに影が薄いだろうか、やけに故意っぽかったけれど。固く微笑む。
「どうも」
「悪いが彼女をエスコート中なんでな」
 リヴァイは何気ないように女の手を剥がした。
「あら、私に構わず裏庭に行ってきていいのよ?」
 真琴は嫌味大盛りの微笑をリヴァイにあげた。彼は小声で反論してくる。
「なんでそうなる」

「でしたら」女が会場のほうへ手を伸ばした。「あちらでご一緒しませんこと?」
 談笑を目的とした数人掛けの丸テーブルがあるエリアが見えた。
 女の提案は真琴にとって甘い誘惑だった。歩くことがつらくなってきたので椅子に座りたいと思っていたところだ。
(でも三人でお茶をするのも何だかイヤ)
 と眉を寄せていたら、女がもちもちとした触りの腕を絡めてきた。かつかつと歩き出す。

「さあ、行きましょう」顔を後ろへ巡らせてねだる。「リヴァイ様も早く早く」
「私はいいです。お二人で」
「遠慮なさらないで。三人のほうが楽しいと思うわ」
 有無を言わさず、女はずんずんとゆく。困惑の真琴はリヴァイを振り返った。
「リヴァイさん、どうしたらいいの」

 溜息をついてからリヴァイは仕方なさそうについてきた。引っ張られる腕を伸ばして女となるだけ距離を取り、真琴はリヴァイにひそひそと言う。
「この方を知ってるの?」
「女は俺のことを知ってるようだが、どうにも思い出せん」
「最っ低ね」
「何を想像して最低だと言ってる?」

 聞き返されて、真琴はにわかに顔を赤くした。肉体関係があるのではないだろうかと思い至ったのだけれど。考えてみると真琴が口出しするのはお門違いであった。
「無粋だったわ、ごめんなさいね」
 でもツンと返す。リヴァイが口許を苦そうにする。
「おい、何か勘違いしてねぇか」
「相手の方を覚えてもないのに勘違いって」鼻で笑う。「どこに根拠があるのかしら」

 真琴の手を引く女の握力は強い。おそらく断っても聞き入れてくれないだろうから大人しくついていくことにした。五歩分後ろのほうでは、リヴァイがポケットに手を突っ込んで頭を垂れていた。のろのろと歩きながらぼやいた。
「どうしてこうなるんだか」

 ――要は女に出しに使われたらしい。真琴が一緒ならばリヴァイは必ずついてくると計算のうえだったのだろう。
「リヴァイ様、お酒を作りましょうか?」
 精緻な多面体カットのロックグラスに女は氷を入れようとした。リヴァイが女の手からトングを奪う。
「いい、自分でやる」
「作って差し上げたかったのに」
「好みの濃さがあるんでな」
 白い霜を纏う金属製のアイスペールから、ダイヤモンドのような丸い氷を一つグラスに落とす。

(私のことはまるっきり無視ね)
 八人掛けの丸テーブルは、リーフ模様の刺繍が入った白いテーブルクロスが膝下まで垂れていた。隣合うように真琴とリヴァイ、そして女が腰掛けている。一つ椅子を空けて相席している男女もおり、楽しそうにお喋りしていた。

 リヴァイは平たいボトルから琥珀色の蒸留酒をグラスに注ぐ。
「マコは何を飲む。蒸留酒にするなら、ついでに作ってやるが」
 口を開けて返答しようとしたら、横取りするように女が口を挟んできた。
「わたくしも同じものがいいわ。リヴァイ様が作ってくださるなんて嬉しい」
 喜々としていきなり腕を絡まれ、リヴァイの手許が狂う。グラスから注ぎ口が逸れてテーブルクロスに薄茶の染みが広がっていく。
「分かったから揺らすな。また零れる」

「何してるのよ。子供じゃないんだから、いちいちテーブルを汚さないでよね」
 真琴は布巾を手にして、ぽんぽんと押さえるように水分を拭き取る。唇はへの字に折れ曲がっていた。坂道を転がるボールのごとく絶賛気分が降下中である。
「俺のせいじゃないだろう」

「お可哀想なリヴァイ様。こんな小さな事で目くじらを立てることないじゃないの」
 自分のグラスをリヴァイに寄せた女は、厚ぼったい唇の両端を意地悪そうに上げる。
「まるでわたくしの、うるさいおばあ様みたい」眼を丸くして額を触れる。「あら、小皺!」
「え!?」焦って真琴は額を手で伸ばす。「やだ、嘘でしょ!」

 呆れた感じでリヴァイは真琴の手を伏せた。
「嘘に決まってるだろう。お前の年で小皺があったら、俺は塩揉みされたキュウリのような顔になってる」
 女が歓喜の声を上げてリヴァイの肩に頭を凭れる。
「面白い、リヴァイ様ったら。豊かなユーモアがおありなのね」

「誰のせいで皺ができると思ってんのよ」
 低音でぶつくさ垂れ、真琴は肉の盛り合わせの皿を引き寄せた。憎しとばかりにフォークでソーセージを刺す。
 今日一日リヴァイにヤキモキさせられた真琴は何度眉を顰めたろうか。そのたび、おでこや眉間には深い皺が刻まれたに違いない。それらが明日になって癖となっていたら全部リヴァイの責任である。

「おい、腹が苦しいんだろ。食わないほうがいいんじゃないか」
「腹が減っては戦はできないのよ」
「誰と戦をするっていうんだ」
 リヴァイを挟んで真琴と女のあいだに火花が散る。飛び散る火の粉を避けるように、リヴァイは背凭れに深く寄りかかって溜息をついた。
(男を巡っての戦いでは断じてないんだから)
 先に喧嘩を売ってきたから買うまでだ。買うといっても喧嘩は苦手なので、こちらからは仕掛けられないのだけれど。

 投げやり気味にハーブ入りの白いソーセージを前歯で千切る。ぱりっとした軽快な音は某食品CMのようだ。
 真琴の食べ方を見て女がここぞとばかりに刺してきた。顎に手を添えて気高く笑う。
「ま、豪快だこと。わたくしにはとても真似できませんわ」
「あ〜ら。お上品に堅苦しく食べるより、食べたいように食べたほうが美味しいってものですわよ」

 面倒臭いのだろう。牽制し合う二人の視線を遮断するようにリヴァイが身を迫り出してきた。
 言い足りなくて真琴は顔を前に突き出そうとした。リヴァイの腕で背凭れに押しやられる。
「構うな。さっきから両耳がキンキンとうるさくて敵わん」
「よく言うわ。あなたがはっきりと断ってくださらなかったから、こうなってしまったのよ。なのに他人事のように振る舞って」

 女の一方的なお喋りに耳を傾けるフリをしながらリヴァイは横目を投げてきた。
「歩き疲れて足が痛いと言ってたろう」
 テーブルの下でピンヒールを脱ぎ、足を休めていた真琴は瞠目する。
「それであの方のお誘いを受けたの?」
 聞き返すとリヴァイの眼が女のほうへ逸れていった。彼は女とあまり楽しそうに会話しておらず、ただ相槌を打っているだけである。真琴を休ませるためにテーブル席についたのか。

 さりげない気づかいは嬉しい。だが、
(器用なんだか不器用なんだか。リヴァイ目当てが明らかな女性と相席したら、ややこしいことになるって、考えが及ばなかったのかしら)
 ここはリヴァイを立てて黒子になるとしよう。心を穏やかにさせ、真琴はナイフとフォークでソーセージを切る。と、手からフォークが滑ってテーブルの下に転がり落ちた。
(やっちゃった)

 半身を曲げてテーブルクロスの中を覗き込む。瞬間、真琴はぎょっとした。
 ヒールを脱いだ女の白い足先が、リヴァイの脛の辺りを艶かしく滑っていた。テーブルの上では一般的な会話が繰り広げられているが、足の動きは正反対だ。
(いつからこんなことやってたわけ)

 ストッキングの足先はリヴァイの踝までゆっくりと下がっていく。スラックスの裾をたくし上げながら、黒無地のソックスの上をくすぐるようにちょっかいを出し始めた。リヴァイは足を払うこともせず、されるがままである。
 リヴァイの優しさに感謝して、真琴が影に徹しようと心に決めたよそで、彼らは卑猥なことをしていたのだ。

 テーブルクロスから出てきた真琴の顔は耳まで赤かった。照れではなく怒りであるが、しばし頭を下げていたので、血が溜まっていたせいもあるだろうけれど。
 リヴァイの脚を思いきり爪先で蹴った。眼を眇めた彼がこちらを向く。
「痛ぇな、今度はなんだ」
「なんだじゃないわよ。不埒なことはやめてくださる? 私も隣にいるのよ」

 誇らかな眼つきで女が割って入る。
「もしかして足のことをおっしゃってる?」
「ほかにあるなら教えてほしいわ」
「それなら不埒じゃなくてよ。社交界ではみなさんされてることじゃない」

 真琴は傍らで多少居心地悪そうにしているリヴァイを厳しく問い詰める。
「そうなの?」
 リヴァイではなく女が回答した。
「そうなのよ。悔しかったらあなたも色仕掛けをしたらいいじゃない」
「私にはリヴァイさんに色仕掛けをする理由がないもの。だから悔しくなんてないわ」
「でしたらどうしてそこまでかっかなさるのかしら」

 真琴はむぐっとだんまりした。どうしてムキになっているのか自分でも不明なのだ。内でメラメラと燃える炎の正体が分からない。
 行き場がなくてリヴァイの腿を叩く。
「なんで抵抗しないでされるがままなの」
「野暮なことをお聞きになるのね。リヴァイ様もイヤじゃないからに決まってるじゃない」
 両者のあいだに挟まれたリヴァイは腕を組んで黙すことに徹している。男は狡い。修羅場は自分とは関係ないといったふうである。

 真琴は苦渋の言い分を放った。
「貴族の令嬢に、角が立つようなことは避けたかったからよ」
 顔を伏せ、女は気色ばんで吐き捨てる。
「さっきから面白くないのよね、正統派ぶっちゃって」
「そういうんじゃ……」

 ことさら意地悪じみた微笑を女は浮かべた。
「確かフェンデル様のご息女でしたわよね。養子になられたとか」
「ええ、そうです」
「お髪が黒いですけれど、マコ様って東洋人でいらっしゃるの?」

 日本人は東洋人に含まれるだろう。
「そうなるかしら」
「……そういや、そんな顔つきしてたな」
 ぼそりと言ったのは急にしげしげ見てきたリヴァイである。人種の違いにさほど興味がなかったのだろう、いまさら気づいたというふうな態であった。

「東洋人って大層な値段で取引されるっていうじゃない? フェンデル様っておいくらで買ったのかしら」
 意地の悪い質問に動揺をみせたのはリヴァイだった。眼を瞠り、真に迫る勢いで真琴に向き直る。
「売られたのかっ、それで使役させられてるのかっ」
「え? 使役って何よ」(取引? 売られた?)
 一体なんの話をしているのか真琴には分からない。きょとんとしているとリヴァイが念を押してきた。

「どうなんだっ」
「ごめんなさい、なんのことだかよく分からないんだけど」
「自分のことだろうが!」
 断片的な言葉から連想できるものは、
「人身売買?」

「売られたわけじゃないんだな?」
「ち、違うわ、そんなわけないじゃない。フェンデル家の……と、遠縁だって言ったでしょう。お母様の血が半分混ざってるのよ」
 戸惑いをみせて返すとリヴァイは安堵したような浅い息をついた。

「ならいい。犯罪だからな」
「人身売買は東洋人に多いの?」
「数が圧倒的に少ないことが希少価値を高めてる。妙な興味を持つ貴族が多いせいで、闇ブローカーがあとを絶たない」

 この世界では東洋人は珍しいらしく、その身も常に危険がつき纏うようだ。初めて知った真琴は幾ばくか驚きである。
 言われてみると東洋人を見かけたことはほとんどなかったという事実に気づいた。身近ではミカサしか思いつかない。
 いままで危険に曝されなかったのは男装による変装のおかげだったのだろう。ならばフェンデルが男装させたのは真琴の安全を思ってのことだったのであろうか。

(ううん、きっとそこまで考えてないわね。バレる可能性を危惧しないで、リヴァイやエルヴィンと顔合わせさせちゃう楽天家だもの)

「そういえばリヴァイ様もマコ様と同じ髪の色をされてますのよね。もしや東洋人でいらっしゃいますの?」
 女が微笑みかけるとリヴァイは鬱陶しそうに背凭れに深く寄りかかった。
「黒髪が東洋人だとは限らない。そもそもマコの瞳と俺の瞳は色が違う」
「本当だわ。灰色に少し青みがかかっているのね」
 眼を覗き込んできた女からリヴァイは顔を逸らした。

「東洋人だろうがなんだろうが、同じ人間には変わりない。そうやって区別するのは下品だと思う」
 ――同じ人間。突然この世界に放り込まれた真琴にも、果たしてリヴァイは同じ言葉をくれるのであろうか。

 こちらにそっぽを向いたリヴァイの瞳が気になった。真琴が顔を突き出すと彼は僅かに引く。
「なんだ、お前まで」
「あなたの瞳って、光の具合で群青色に見えるのよね」
 双眸を細めてリヴァイも真琴の瞳を見入ってきた。
「お前は、黒と思っていたが茶なのか」

 人間の目の色は三つに別れる。茶、黄、青の三色で、各色の混合の具合で個体の目の色が決まるのだ。日本人の目の色は黒と表現してしまいがちだが、これは間違いであり、本当は純粋な茶なのである。

「ユーリエ」
 ふいに聞こえた男の声。すらりとした中年の紳士が現れ、女の肩に手を添えた。
「お父様。サロンのほうでお話は終わりましたの?」
 女の名前はユーリエというらしい。彼女は添えられた手に自分の手を重ねて瞳をしならせる。
「こんな所で何をしているのかな、私のレディは」
「リヴァイ様とお話ししてましたの」

 ユーリエがにこやかに言うと、中年の男は眉根を顰めてリヴァイをちら見した。調査兵団に対して良い印象がないのか、それともリヴァイが地下街出身者だからなのかは分からない。が、好印象の眼ではない。
「向こうへ行こう、ユーリエ。カスパル様がご令孫を紹介したいと申されているんだ」
 紳士の傍らにはもう一人、威厳を放つ老人がいた。名前に反応して目許を緩めたから、おそらく彼がカスパルだ。

「せっかく会えましたのに」
 名残惜しそうにリヴァイに視線を流し、ユーリエは立ち上がった。と、老人のわりにカスパルの鋭い瞳が真琴を突き刺してきた。
「タカ派の娘か」
「タカ派?」
 眼をぱちくりさせた真琴に、カスパルはえげつなく口許を歪めてみせた。

「フェンデル殿のご息女だろう。ならばタカ派だ」
「鳥――ではなくて?」
 控えめに聞き返すとカスパルは嘲笑した。
「ジョークが言えるとは面白い」

 ジャケットを羽織っている真琴の腕を、肘で突いてきたリヴァイが耳打ちする。
「教養がねぇのか、お前は。タカといえば」
「分かってるわ、政治的な意味でしょう。空気が固いからちょっとボケただけなのに」
 少し尖った耳に真琴も囁き返した。

 タカ派とは政治的傾向の分類で、武力による解決を辞さない集団のことを示し、もしくは強硬派ともいわれる。
 逆はハト派といい、対話による平和的解決を目指す集団のことを示す。嫌な顔で見てくるカスパルはハト派思想なのかもしれない。

(真っ向からタカ派なんて言われるとは思わなかったわ)
 平静を保とうとしているが実は真琴は動揺していた。言葉自体に悪い意味はない。政治が絡めば多少は対立するものだ。が、カスパルの瞳からは強い嫌悪が感じられた。
 フェンデルがクーデターを企んでいるであろうことはなんとなく推し量っている。ゆえにタカ派がその事に繋がってしまうことは危険な気がした。

 顎をさすりつつカスパルは見下してくる。
「あなたの父君には困ったものでしてな。くだらない議案書を提出したり、議決に異議を申し立てたり、評議会の邪魔ばかりするんですよ」
 嘲笑を混じえて肩を竦めた。
「駄々をこねる童のように、なんでもかんでも干渉するのは、国の利益にはならないとそう思うでしょう?」

「異議を唱えて何が悪いんですか。議論を重ねることで国はより良く」
 腰高に真琴は言う。膝の上でドレスを握りしめる手をリヴァイが強く包み込んできた。
「放っておけ」

「東洋の血など引き入れて何を考えているのやら理解不能ですが、タカのヒナは所詮タカですな。メラニズムなあなたも野蛮な血を引いてるようだ。父君の後ろ盾で強く出てこられたんでしょうが、もうフェンデル殿の時代は終わったのです。いつまでも昔の気分では周りも迷惑でしてね」
 反発しようと真琴は半身を乗り出そうとした。手をさらに強く握ってきたリヴァイに揺さぶられる。
「よせ」

 カスパルは鼻を鳴らす。去り際に警告してきた。
「父君に甚だ注意しておくことですな。調子に乗っていると、背後を気にして歩かないとならなくなりますぞ。あなたもね」
 そうしてユーリエも父親もカスパルもいなくなった。

 リヴァイは気にしたふうもなく口を開いた。
「政治的な駆け引きは、こういう場ではよくある。ただの脅しだ。弱い奴に限ってよく吠える、気にすることはない」
「慰めてくれてるの」
 怖気と怒りが入り交じっており、真琴は俯いた。リヴァイに握られている手がふるふると震える。収めようとするかのように彼がより強く包んでくれたのだった。


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