猫と戯れ2

「ナマエさん。猫カフェに興味はありますか?」

 これまた沖矢の口から聞くには破壊力のあるワードが飛び出した。中身は赤井秀一。中身は赤井秀一。…で、何だって?

「……猫カフェ?」
「ええ、猫カフェ」



 にこやかに押し切られ、気づけばナマエは猫カフェにいた。恐るべし沖矢昴。

「………なるほど」

 店内で既に猫と戯れている灰原と歩美を見つけて、ナマエは小さく呟いた。

「ええ、かわいいでしょう?」

 ナマエがなるほどと言ったのは、ここへ連れてこられた理由に対してなのだが。沖矢はそ知らぬ顔で店内へ入った。まあ、いつどこで誰に聞かれているかもしれない状況ではあくまで大学院生と仲の良い子ども、という関係を貫かなければならないのは、ナマエとて理解している。今更それに文句をつける気もない。

「確かに、かわいいですが…」
「ええ、写真に収めたいくらいです」

 ……“どこ”を見ながら沖矢がそう言ったのか、ナマエは深く考えないことにした。確かに灰原のこんな無防備な笑顔はそうそうみられるものではないが。

「声、かけます?」
「楽しんでいるようですから、水を差すのも悪いでしょう。こちらはこちらで楽しみましょうか」

 スペースごとに仕切りで区切られているタイプの猫カフェなので、そう目立つ動きをしなければ気づかれることはない。確かに沖矢がいては灰原も緊張して心から楽しめないだろうな、と思ったナマエは、異論は唱えなかった。

「餌をあげられるみたいですよ。買ってきますか?」
「………や、私は」
「そんなこと言わずに。折角なんですから」

 沖矢に押し切られる形で購入した猫クッキーなるものは、五枚入りで二千円もするものらしい。ぼったくりじゃないのか、とナマエは思うのだが、猫好きの人間には大した出費ではないのだろう。
 クッキーの乗った皿を手にしていると、足元に一匹、二匹と猫が寄ってきた。

「わ、わ…」
「ほら、しゃがんでください、ナマエさん」

 肩に手を置かれて、ついクッキーを持ったままその場にしゃがみこむと、猫が膝にすり寄ってきた。

「…っ!」

ナマエは猫を飼った経験がない。この前の子猫の時にも殆ど沖矢に任せきりだった。一体どうすればいいのか分からず固まると、背後からくすりと笑い声が漏れ聞こえた。

「……お、沖矢さん」

 思わず皿を彼の方に差し出す。だが猫はクッキーにつられてくれず、まだナマエの足元に留まったままだ。

「動物に好かれるんですね」
「わ、笑ってないで助けてください」
「そんなこと言わずに。流石にお店の“キャスト”であるだけあって、どの猫もみんなお行儀がいいじゃないですか」

 沖矢は笑いをかみ殺しながらそう言うが、ナマエには笑いごとではない。いつもは兄である工藤新一の方が動物に好かれるため、ナマエの方には回ってこないのだ。
 油断していると膝に登ってくるので、ナマエはたまらず立ち上がった。そして隅に立つ沖矢の背中側に回る。

「クッキーあげちゃってくださいよ。私見てますから」

 この場合、目的語は猫ではなく灰原である。こうでも言わないと沖矢が目を離すことはないだろうと思ってだ。
 …まあ、この人なら猫に餌をやるくらい、護衛任務の片手間にやってるだろうけれど。

「了解しました」

 まだ笑いを含んだまま、沖矢はしゃがんで猫に餌をやりはじめた。



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