ジェームズ誘拐事件

「ねえ、ジェームズさん、」

 人違いの誤解を解いてくれたお礼にご飯でも、と、ジェームズが車を取りに行こうとしたとき。ナマエは彼に声をかけた。…この後は誘拐されてしまうし、その後は恐らく極秘に日本で捜査しているFBIであることを隠すために、事情聴取も受けないまま姿をくらましてしまうので。

「ナマエくん、だったかね。何かな?」
「…突拍子もないことを言われても信じられる?」

 ナマエはいたずらっぽく笑ってジェームズを見上げた。それはナマエが意図して作り上げた表情だったが、ジェームズには知る由もない。

「聞いてみよう。これでも突拍子もないことにはいくつも遭遇しているのでね」
「そっか。…私ね、コナン君みたいな推理はできないけど、未来が分かるんだ」

 にこ、と笑って見せる。これも作り上げたもの。口角を上げたまま維持するのには、今のナマエにはそれなりの気力を要するが、できないわけではない。

「それは…本当なら素敵な話だね」
「でしょう?ふふ、ESP捜査官としてFBIに入れるかな?」
「………」

 この時点でまだFBIという正体を明かしていないジェームズは、黙り込んだ。相変わらず分かりやすい反応。ナマエが事前に知っているということを抜きにしても、これでは、「何かあります」と丸わかりだ。

「信じられない?それじゃ、当ててあげる」

 いつもならナマエはたとえ年齢のわりに大人びていると言われようとも目上の人間には敬語を使う。それをあえてことさら子供らしい口調にしたのは、

「……きっとあなたの待ち人は髪をばっさり切っているよ。理由は、そうだな、恋人に振られたから。」

 その方が、不信感と、それが真実であった時の高揚とを煽れるから。

「それと、今日は災難な目に遭うけど、小さな名探偵が助けてくれるから、安心していて。彼はイギリス好きだし、アメリカとイギリスどちらの歴史にも詳しいから」

 その時、遠くからナマエを呼ぶ声がした。ナマエは最後にもう一度だけ笑って、ジェームズを見上げた。

「もし当たっていたら。髪を切って傷心の彼に、コナン君のこと、よろしく伝えてね」

 じゃあ、ばいばい。そう言い残して、ナマエは子どもらのもとへと駆けていった。



「……驚いた。髪をばっさり切ってしまっていたとは」
「ええ、恋人に振られてしまったのでね。……そんなに驚くことですか?」
「……………いや。赤井君、君、予知というものを信じるかね?」
「は?」

 怪訝な顔をした待ち人に、ジェームズは少しの間黙り込んで、口を開いた。今日出会った小さな名探偵と、予知能力を持つ小さな少女の話をするために。



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