公園は小山の天辺にあり、周りは樹木や笹で囲まれている。昔、丁度城の本丸だった場所だ。家の前の坂道とは逆の方に、小山の向こう側へ通じる細道がある。

 ――向こうはどうなっているの。

 確か神社だったはずなのだが、僕がそちら側に行ったことはあまりなかった。僕がそう答えると、じゃあ行こう、という話になった。僕達は立ちこぎのブランコから飛び下りた。エヌ君が鳥のように衝撃一つなく着地したのを覚えている。かろやかだった。エヌ君は

 ――行こうよ。

とほほえんだ。

 シーソーの脇を通り、その奥、笹が入口をおおうばかりに繁っている細道に立った。笹と木陰で薄暗かった。ごつごつした下り坂の先にはもう一つの広場と神社の屋根が見えた。エヌ君は「ふうん」という感じで眺めている。

 僕が公園の向こうにあまり行かなかったのは、得体の知れない不気味さのせいだった。笹がせり出す苔むした小道は、自宅の周りや坂の舗装道とは違う空気が流れていた。幼い頃この道で足を滑らせたこともあわいトラウマだったし、ここで蛇やハチが出たという祖父の話も聞いていた。今でこそ運動部で心身鍛えられているが、当時の僕は本物のいくじなしだったのである。穂奈美には、絶対に言えない。
 蛇やハチのことや十郎杉の下の稲荷神社のことも知らず、平然としているエヌ君がうらやましかった。

 ブォンと低音が聴こえた。おどろいて見ると、笹の中に黄色と黒の警戒色が一匹……。

 ――スズメバチ。

情けない声しか出なかった。僕の声を聞いて、斜め後ろを歩いていたエヌ君も立ち止まった。

 ――口をカチカチさせているね。警戒しているんだ。

と至極冷静にスズメバチを観察している。

 ――大丈夫なの。
 ――大丈夫だよ。

と言ってエヌ君は、何とスズメバチに自分の手を差し出した。

 トンボじゃないんだから、あぶないよ……。

 そう叫びたくて仕方なかったが、スズメバチが驚いてエヌ君を刺してしまうのも怖かった。僕は固唾を呑んで見守るばかりだった。

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