そしてそのまま歩いた。背中にタカの声を聞いた。見知った墓地の森に着いたときやっと安堵した。家までおおよそ五分強の道のりを午前のようにたのしく歩いた。その頃には彼のいたずらももう許していた。

 時計屋の前を通るとき、僕はエヌ君の家を覗き見た。何かひっそりしていて、うちの奥の空き部屋を思い出した。今朝見た老人の姿はなかった。そういえばなぜ彼は帰省したんだっけと考えた。昨日言っていた「秘密」とは、結局何なのか。エヌ君はその家には目もくれず素通りした。ことばを掛けるきっかけがなく、僕は何も尋ねなかった。そして間もなく、うちに着いた。

 ――あ、ザリガニ。

 思い出して僕はそこへ向かった。バケツは倒れていて水溜りが出来ていた。なぜかザリガニはなかった。

 今は何時だろう。僕もエヌ君も時計を持っていなかったから僕は一度家に戻った。ついでにバケツを玄関に置いた。
 時刻は五時すぎだった。まあ長時間遊んだものだ。日は長く空はまだ明るかった。しかしこのまま続けて遊ぶ理由もなく、成り行きで僕達は別れた。

 家に上がり兄とアイスを食べた。すると祖父が来て、今晩は墓参りに行くと言った。

 墓参りというのは今になってもピンとこない。親族で一番最近に死んだのが曾祖母なのだが、これは兄が〇歳か一歳かの出来事だから、生まれてもいない僕にはほとんど無縁である。うちは本家だから墓にはかなりの人数が入っているはず、なのだが、僕は誰も知らない。祖父母や母には縁があったかもしれないが、僕らに意味があるのだろうか。
 それでも面倒臭がらずに毎年墓参りに行ったのは、墓地までの行き帰り、提灯を手に持つことが好きだったからだ。提灯なんて年に一度、このときしか持つ機会がない。ろうそくに火を点け提灯に立てる。手に持つと、風にゆらめく小さな火の振動やたしかな熱がしずかに伝わってくる。電気にはないささやかなあかりが、ほんのり朱く夕暮れを照らしているのが好きだった。だから墓参りは好きだった。もちろん、そこに本来の意味はなかった。

 早めに夕食をとり、少しほの暗くなった頃に出発した。提灯のじゃばらを広げろうそくを立てた。提灯は僕と兄二人が持った。そしてつい数時間前エヌ君と通った道を、祖父母含め五人でぞろぞろ歩いた。時計屋の隣の家はやはりひっそりとしていた。ヒグラシが鳴き続けていた。そうして墓地に到達した。

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