その後僕達は公園のあぜ道を抜け、神社の広場へ向かった。二回目の道のりはさすが恐ろしくはなかった。それにエヌ君もついていた。年上だから、というのもあったが、やはりエヌ君だったから心強く感じていたに違いない。じめっとした日陰の陰に、今日現れたのはスズメバチではなくカラスアゲハだった。僕が歓迎されたようでどこか嬉しかった。上機嫌で僕は、

 ――チョウも、空飛ぶ仲間?
 ――まあ、そうだね。

エヌ君も悪い気はしないようだった。
 照りつける日差しに、この日陰はありがたいものだった。ただ、所々に蚊柱が立ち、じめじめと居心地は良くなかったが。

 神社の広場に達した。かつての城主の墓をエヌ君は眺めていた。今井という武士とその妻の墓らしい。陽次が前に得意げに語っていた。陽次はサッカーと戦国武将に非常に詳しい、クラスに一人はいるお調子者の典型だった。陽次いわく、上杉氏の子孫や家臣が治めたという。ひいきの武将が上杉だった陽次はここの古城になかなか思い入れがあったに違いない。ただエヌ君は特別に戦国好きではないらしく、立て札を読むのもそこそこに、木陰から空を仰いでいた。僕は苔むした土を見つめる。ここもカエルの住み家だった。さらに目をやると、トカゲが一匹歩いていった。

 しかし、広場にはそれ以外何も無かった。遊具もなければグラウンドもなく、結局途方に暮れることになった。

 どうする、と振り返り、僕は絶句した。
 そこにいたエヌ君が見当たらないのだった。

 また看板とかを読んでいるのだろうと辺りを見渡す。しかし姿が見えない。だんだん焦りが高まっていく。勝手に帰ってしまったのだろうか? 先に進んでしまったのか。孤独感とスズメバチのトラウマが頭をよぎった。半袖短パンの少年に、身を守るものは何もない。彼の名前を呼ぶこともはばかられた。大声を出したら、起きてはいけないものまで現れそうだった。何匹ものセミの声がこだました。それ以外は静寂だった。どうしよう。走り終えた後のような息苦しさを感じた。……どうしよう。

 突き放されて、もうどれ位経った時だろうか。

 ――ははははは……。

 セミの静寂を破り、笑い声が響いた。楽しくて楽しくて吹き出したような笑い。楽しくて楽しくて仕方がない、笑われていたのは僕だった。
 少し離れた場所で、木の陰からエヌ君が現れた。

 酷い。
 酷いよ。ずっと隠れていて、陰から人を笑うなんて。
 必死だった自分が馬鹿らしく、恥ずかしかった。同時に強い憤りを感じた。 

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