結局僕達は坂の上の公園へ向かった。バケツはこの場に置いていった。坂をのぼっていくのではなく、途中の祖母の畑を通って行くことにした。
あぜ道を歩くといっせいにアマガエル達が跳び出した。よく見るとくさむらには踏みそうになる位のカエルの群がいた。畑のすぐ隣に水田があるから水には困らないんだろうと思った。
坂を見上げると、重々しく十郎杉が構えている。この木、死んでしまうのか。腐ったり折れて倒れるなんて想像できなかった。太い幹に蝉が鳴いていた。僕達はそんな大木を見上げた。
――鳥だ。
ふいにエヌ君がつぶやいた。瞬間、鳥のシルエットが十郎杉の天辺を蹴って飛び立った。小鳥ではない、大きな影だった。
――あそこに巣は無いみたいだけど……
エヌ君は考えこんだが、生い茂る葉のために僕には何も見えなかった。
――サギとかだろうね。
首の長いシルエットだった。きっと水鳥のなにかだろう。鳥は遠くへ飛んでいった。
――目印、だよね。鳥の。
僕はそう思った。高い建物のないこの辺りで十郎杉は特別な意味をもっていた。
十郎杉のわきをのぼり、僕達は坂の上へ向かった。木陰が風でちらついていた。
――上から見たら、どんな眺めなのかな。
何か、すがすがしさで心をはずませて、僕は感嘆した。
――気持いいよ、すごく。
その時は、そのことばに何ら疑問をもたなかった。
遠く、ピョー、と鋭い声がした。鳥だろうと思った。
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