01 胸にきつくサラシを巻き、糊の利いた学ランに腕を通す。 「うわ……これが学ランかー」 呟いて少女は姿見を見た。 鏡を見つめるのは、可愛らしい少女の顔だ。まだ幼さの残る頬や、勝ち気そうに瞬く黒い瞳。美人というより可憐と評したほうが妥当だろう。一見すると少年のようにも捉えられるが、それを引っくるめてもあまりある程の愛嬌が感じられた。不思議な魅力のある少女だ。 しかし、少女の容姿の中でも一番に目をひくのは、肩の上で揺れているやや癖のある、その紅い髪である。黒い学生服によく映えている。 少女が姿見で学ラン姿を確かめていると、玄関のチャイムが鳴った。 「はいはーい」 バタバタと慌しく玄関へ走り、少女はドアを開けた。 「凪!」 そこには眼鏡をかけ、髪を後ろで結んだ可愛らしい制服姿の少女が立っていた。 「おはようございます」 にっこりと微笑み、それから凪は少女をちょっと困ったような顔で見た。 「羊谷監督のおっしゃってたこと本当だったんですね……男装して、十二支に転入するって……」 「ん、まァな。ってゆーか、ちょー久しぶり! 背ェ伸びたんじゃね!?」 自分を見上げる少女に、凪はくすりと笑った。 「全然変わってませんね」 「むっ! 笑ったァ!」 「ふふ。行きましょう、ひかる。遅刻しますよ?」 凪の言葉で少女……海堂ひかる#はスポーツバックを提げ、玄関を出た。 古豪・十二支高校へ転入して、再び野球部を黄金時代へ導くために。 (待ってろよ……親父、兄ちゃん……絶対甲子園連れてくからな) 決死の闘志を胸に秘め、凛とした面立ちでひかるは歩き始めた。 |